第14話

「ブラーリ、あんたそれ……」

「君……」

 アーセタが驚いた顔で言い、青年が小さく呟いた。最初は手を小さく震わせていたが、強張った顔で見つめるアーセタの顔を見ると勝ち誇ったように笑い、銃をアーセタに向けた。

「謝りなさい。私に失礼なことを言ったことを謝りなさいよ! 早く!」

 銃を持って傲慢に命令してくるブラーリを見ていると、アーセタは逆に冷静になった。

「どうして? わたしなにか間違ったこと言った? 悪いのはブラーリじゃん」

 アーセタがブラーリを見つめて声を抑えて言うと、ブラーリの表情に焦りが見えた。

 止まっていた手がまた震えだし、それでも銃を引っ込めない。

「うるさい! 謝りなさいよ! 撃つわよ!」

 今にも取り落としそうなほどに手を震わせながらも、ブラーリはなおも続ける。

「私は謝らないよ。何も悪いことしてないもん!」

「謝れ!」

 ブラーリの呼吸が荒くなっていき、その指が引き金に掛かって、それを引いた。

「アーセタ!」

 耳を劈く、爆発でも起きたような音が響いた。どうせ脅すだけで撃ったりしないだろうと高を潜っていたアーセタは、驚いてその場から動けなかった。

その時、青年が叫びを上げてアーセタとブラーリの間、銃弾の軌道上に飛び込んだ。

鈍い音が響いて青年が蹲る。

「ちがっ……、私、撃つつもりなんて……」

 ブラーリは銃を落とし、驚愕に顔を歪めて頭を左右に振りながら呟くと、後ずさる。

「はぁ! 大丈夫!?」

 アーセタは青年の横に屈むと、銃弾が撃ちぬいた場所を確認する。こんな時でさえ、青年に呼べる名前がないのは悲しかった。

 銃弾は樹皮が覆っていたところに当たったらしく、幸い青年はそれほど重傷ではないようだ

「大丈夫だよ。まったく、君は無茶をするなぁ」

 それでもやはり無傷と言うわけには行かないのか、青年は苦笑を浮かべて辛そうに言った。

「ひぃ! なによそれ! 化け物!」

 青年の洋服が破れて露になっていた樹皮の部分を見て、ブラーリが悲鳴を上げた。

 町の人たちも、ブラーリと同じく奇怪なものでも見るように青年を見ている。

「ここでの僕の仕事はもう終わりかな?」

 その視線を受けて、青年が寂しそうな笑みを浮かべると、洩らすように静かに囁いた。

 青年の言葉で悲しくなった。どうしてみんなのためにこんなに尽くしたのに、こんな悲しい顔をしなければならないのだろう。

そう思ったら怒りが込み上げて来て、アーセタは唇を噛み締めると町の人と向かい合った。

「どうしてそんな目で見るの! 今までみんな助けて貰ったじゃない!

 この人の体が樹皮になっちゃうのはみんなの痛みや苦しみを、代わりに引き受けてくれているからなんだよ? それなのにそんな目で見るの? 追い立てるの?

みんな自分勝手すぎるよ! 大嫌い!」

 アーセタが一気に捲くし立てると、思うところがあるのか、町の人たちは困惑して互いに顔を見合わせると俯いた。

「アーセタ、もういい。僕なら大丈夫だよ。慣れているから」

青年がアーセタの肩に手を置くと、消え入りそうな笑みを浮かべて小さく頭を左右に振った。

 こんなに酷い仕打ちを、仕方のないことだと受け入れている青年にアーセタは心が痛んだ。

「行こう? ここにいても嫌な思いをするだけだよ」

「うん。そうだね。ここにいてももう、僕にはやることがないみたいだ」

 こんな青年に向けられる奇異の視線に我慢が出来なくなってアーセタが提案すると、青年は町の人たちを軽く見回して、助けを求めるものがいないのを確認すると穏やかに頷いた。

 町の人たちをその場に残したままで、二人は教会を後にした。

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