第8話
「君、さっきの……」
青年はアーセタに気付いたらしく、静かに囁くと不思議そうに見つめている。
体を一切隠そうとしない男性に、アーセタは目のやり場に困って逸らそうとしたが、頭が混乱していて、どの方向に逸らせばいいのかもさえ判断できなくなっていた。
そんなアーセタの気も知らず、青年はゆっくりと近付いてくる。
「あの……」
アーセタは視線を泳がせて、困り果てて声を洩らした。
「どうしたの? こんなところで?」
青年は裸を人に見られるのに抵抗がないのか、まったく平然としている。
離れた場所にいたため、それまでは遠目で見ていただけだったが、青年が近付いてくるに連れ、色の白い華奢な身体がはっきりと見えてきた。
青年の身体が鮮明に見えてくるに連れ、アーセタは驚愕して瞳を見開いた。
その体の腹筋から足に掛けての一部が、まるで移植したように木の樹皮で覆われていたのだ。
体つきは男性であるが生殖器官はなく、まるで彫刻のようで人間離れしていた。
「そのお腹……」
青年はアーセタを見つめたまま、静かに、すべてを諦めているような寂しい笑みを浮かべた。
「ごめん。こんな醜いものを見せちゃって」
青年は樹皮で覆われた場所を撫でながら静かに囁いた。
アーセタは、恩人にそんな顔をさせてしまった自分の浅はかさを呪った。
「ごめんなさい。私、凄く失礼なことを言っちゃって……」
今更とも思ったが、アーセタは青年を不快にさせてしまったことを素直に詫びた。
青年は怒り出すこともなく、穏やかに微笑んだままで頭を左右に振る。
「人は自分とは違うものを認められない生き物だから仕方がないよ。だけど、間違えないで。それは決して悪いことじゃないよ。家族や仲間を危険から遠ざける大切なものだから」
青年は微笑を浮かべているが泣いているように見えて、アーセタは胸が苦しくなった。
「ちょっと驚いちゃっただけで私は醜いなんて思ってないよ! あなたを違うものだなんて私は思わないよ?」
必死でアーセタは訴えた。罪悪感とかではなくて、そう思っているのは本心だ。
「ありがとう。嬉しいよ。君は優しいね。だけど、仕方がないんだ。僕は人間じゃないから。
この樹皮は、間違いなく僕の体の一部だよ。移植でもなんでもない。
だけど僕はこの部分を疎んでいない。むしろ、僕にとっては誇りだよ」
樹皮の部分をゆっくりと撫でながら、青年は微笑んだ。
「誇り?」
不思議に思ってアーセタは青年に問い掛けてみた。お腹が樹皮などアーセタだったら誇りだなどと思えず、忌み嫌ってしまうだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます