第7話

 お祭りの会場に行くと、毎年恒例の夏祭りよりも屋台は立派で、出店の数も多く出ていた。

 青年との話の邪魔をされるのを嫌って置いて来たが、こんなに大きなお祭りになっているのなら、スダヌーも連れて来てやれば良かったと少し後悔した。

 屋台では毎年恒例の曲が演奏され、その周りで町の人たちが踊っている。

 アーセタはお祭りの中を歩き回って青年を探したが見つからなかった。

 この町には不釣合いな外見な上、特別待遇をされているようだったから、きっと彼の周りには人混みができていて、簡単に見つけられるだろうと思っていたため意外だった。

「ねぇ、町長さん、あの人は?」

 運営本部と看板を掲げたテントに行き、そこにいるかと思って覗いてみたが、そこにも青年の姿はなかった。代わりにお酒を飲んでいる町長を見つけたため、聞いてみたのだ。

「ああセイントですね。こういう賑やかなのは苦手だと言って、一人で何処かへ行ってしまいましたよ。一緒に行くと言ったのですが断られてしまいましてね。

 こんなおじさんたちに囲まれているのは嫌だったのでしょう。

そうだアーセタさん、あなた探してきてくれませんか?」

町長はお酒で酔っているのか、赤くなった顔で、普段よりもやや乱暴な口調で言った。

「あの、それでどこか心当たりはありませんか?」

 この町はそれほど広くはないが、見つけ出すのは一人では無理だろう。

 最後まで一緒にいた町長ならなにか知らないかと思って聞いてみた。

「そう言えば、川の場所を執拗に聞いていましたので川にいるのかもしれませんね」

「ありがとう。行ってみます」

 町長の言葉を信じて、アーセタは川へ向かった。


 この辺りに川は一つしかない。下りる場所は幾つかあるが、この場所から少し上流に行けば大きな滝がある。ここで見るものはその滝くらいだ。きっとそこに行けば会えるだろう。

 川は大きく浅瀬も深みもあるが、滑るところや危険なところはだいたい把握している。夜で視界が悪いとは言っても難なく歩ける場所だ。

 穏やかな川のせせらぎを聞きながら、青年を探して滝に向かって歩いていった。

 川の周りは小さな林になっていて軽く鬱蒼としているが、その林が切れて滝が見えてきた。

 ここの滝は五メートルの高さから、二メートル幅の水が降って来る、この辺で唯一名物と呼べる立派な滝である。とは言っても、わざわざこれを見に来る観光客はいないのだが……。

 大量の水が川に降りしきり、大きな滝壺を作っている。

 滝の水で月の優しい光が反射して、まるでイルミネーションのようにキラキラと輝いている。

 その輝きの中、一人の青年が滝壺の中で佇んでいた。

 夜の暗闇の中でも浮かび上がってくるような白い肌、背中まで伸びた金色の長い髪、背の高くスリムな体型に長い足。こんな田舎では見られない美青年だ。

 アーセタは思わず頬を赤らめて、言葉を失くして青年に見蕩れていた。

「誰?」

 それまで滝を眺めていた青年がゆっくりと振り返った。

 アーセタは言葉を失くして、青年の姿を凝視していた。これまで家族以外の男性の裸なんて見たことなくて、頭が真っ白になってなにも考えられなくなっていた。

 優しい二つの瞳に見つめられて思わず息を飲み込み、その場に立ち尽くしていた。

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