第24話 「ちょ・・・やめ・・・そこは触らないで!」ミナは襲撃された
「わが~~~~~~~~!」
俺の腰に取り付き泣き喚く若い男。
情けない事この上なき
俺を含め、親しい者からは『とうざ』と呼ばれる人の良い男だが――――。
「お主はもう二十五であろうが!
「何を申されます! 命永らえて再び若と相まみえたのですぞ! これが泣かずにおられましょうか!?」
腰に回った腕にさらに力がこもった。
「泣くより先に、お主の命を救った二人に礼をせい!」
その様をミナとクリスが苦笑いして見つめていた。
「この二人がな、回復魔法……とかいう術を使ってお主の傷を治したのだ!」
「なんと……この可憐な南蛮の
「南蛮ではないが……まあとにかく治したことには変わりない」
「ありがとう……ありがとうござりまする! もはや二度と、若とまみえること適わぬものと覚悟をしておりました! この
床に頭を擦り付けるようにして何度も礼の言葉を述べ立てる。
時折、「天女の如き慈愛!」とか、「薬師如来の御業!」とか、「
最初は誇らしそうな顔をしていたミナとクリスだったが、いつまで経っても終わらない
触れると面倒そうなので助けはせんがな。
「はあ……藤佐の感傷的な性格にも困ったものだな……」
「いいえ。そうとも言い切れませぬぞ?」
口を挟んだのは
医師の
瀕死の傷を負った藤佐が命を繋いだのは、この医師の存在なしには語れぬ。
「先生ほどの腕を持つ医者が藤佐の言い分に賛同するのか?」
「はい。
「そうか。先生の目から見てもそう思うか」
「医者として今日ほど口惜しく思った日はありませぬ。それなりに医術を修めたと自負しておりましたが、井の中の蛙にございました。まだまだ精進せねばなりませぬ」
先生の目がぎらつき始めた。
今にもミナやクリスに弟子入りすると言い出しかねない様子。
藤佐に加えて先生の相手もせよと丸投げするのは気の毒か――――。
適当な話題で注意を逸らしてしまうとしよう。
「ところで、先生は
「わたくしでございますか? いえ、京屋敷ではございません。大坂屋敷をお訪ねしておりました」
「そうか。往診の日であったか」
「左様でございます。お陰で京の地震は逃れたものの、気付けばこちらに」
「済まないことした。当家に用が無ければ、神隠しになぞ遭わずに済んだものを」
「神隠し? ほう、これは神隠しにございましたか。ならばここは異界ですな。丁度良い」
先生は清々した顔つきで話す。
「太閤殿下の横暴振りには辟易していたところでございます。やれ千宗易殿と付き合いがあった、やれ関白秀次卿と付き合いがあったと、何かにつけて目を付けられ、
「肝が据わっておられるな」
「医者にございますので。患者を治すことに比べれば、大概のことは驚き慌てるに値しませぬ」
「神隠しは驚き慌てるに値すると思うが――――」
ドタドタドタドタッ!
慌ただしい足音と共に、大人数が――――。
「「「「兄上っ!!!!」」」」
「待て――――グフッ!」
小さいのが次々と俺に飛び掛かって――――誰だ!? 腹を目掛けて飛び掛かって来た奴は!?
「離れんか!」
「兄上!」
「兄上じゃ!」
「本物じゃ!」
「会いたかった!」
「新五郎! お松! お鶴! お千! 離れよと言うのが分からんか!」
弟一人に妹三人、何を言っても聞き分けず「嫌じゃ離れぬ!」と言ってきかない。
この大騒ぎを前にして、さすがの藤佐も静かになり、先生は口元を押さえて笑い、ミナは目を丸くし、クリスは――――。
「ふわああああ……。可愛いねぇ……」
と、目を輝かせて「おいでおいで」と犬や猫を誘うように手を差し伸べた。
すると弟妹達は動きをピタリと止め、クリス――――ではなく、横にいるミナに狙いを定めた。
「南蛮人!?」
「綺麗な髪!」
「目が真っ赤!」
「それいけ掛かれ!」
「ちょ……やめ……そこは触らないで――――!」
クリスが「どうしてぇ?」と半泣きになる中、ミナは四人がかりで手籠めにされ、あられもない姿になってしまった。
なかなかそそる――――いやいやそうではない。でかした弟、妹よ――――それでもない!
おほん……済まぬなミナ。骨は拾ってやるからしばし耐えてくれ……。
「はっはっは……楽しそうだな……」
弟妹達の騒ぎに紛れ、気付かぬ内に部屋の外には人垣が出来ていた。
母上、八千代、山県に左馬助。そして――――。
「父上!? お、起きても良いのか!?」
母上と八千代に支えられて立つ父上の姿。
思わず先生の顔を見ると、大きく頷いた。
「往診した際は臥せっておられました。ですが、こちらへ来てからお加減がよろしいようです」
「寝たきりだったではないか! たったの数日で歩けるまでに回復するのか!?」
「わたくしも初めての経験です。
「……神隠しが原因か?」
「確かなことはなんとも……。ただ、わたくしの腕だけでは難しゅうございました。喜ばしくありますが、医者としては悔しくもあり……」
先生が深く溜息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます