第2話 噂の涅槃寂静生地獄さん
「ねぇ、道端で発狂してた例の子、普通に今朝登校してきたらしいよ?」
「え、マジ?」
「マジで」
「何で知ってるのさ」
「見てきたから」
「直接?アンタ、その子のこと知ってたの?」
「ううん、昨日の夜クラスLOINEで噂聞くまでは全然知らなかった」
「じゃあ何で」
「その子、二年蓮華組ってところまでは噂広がってたでしょ?興味半分で教室覗いてみたらさ、一人ヤバいのがいたんだよ」
「ヤバいの?」
「そう、もうヤバイ。この表現に尽きるね。なんだろあれ、多分何かのコスプレなんだろうけど、鬼?悪魔?赤いゾンビみたいでもあったかな」
「ごめんますますわからない。それが昨日の発狂した子だっての?」
「いや、始めは私も確信持てなかったんだけどね、そこのクラスの知り合いに聞いたら、どうもやっぱりアレがその子っぽいんだよ」
「赤ゾンビコスプレイヤー?」
「そ、レッド鬼悪魔コスプレイヤー」
「なんでコスプレイヤーが学校これてんの」
「もちろん担任とか教頭に止められたらしいよ。でも本人は意味不明な発言ばっかりでどうしようもなかったらしい。とりあえず危害はないから教室には残してあげてるみたいだけど。なんかもう、昨日発狂したのも、そういうのの前兆だったんじゃないの?」
「そういうの?......って、あー」
「そんなに気になるんなら今から見に行けば?」
「いやぁ〜、ちょっと怖いわ。帰り一緒にチラ見しよ」
「ビビリが。良いけど」
「てか次移動教室でしょ?飯食ってダラけすぎたねウチら」
「そうじゃん、やば」
二人の生徒がノートと教科書の束を抱えて教室を後にする。
その会話を盗み聞いていた一人の生徒が、何かを思って、静かに笑った。
「ほほーぅ?私はクラスLOINEでそんな話聞いてないなぁー?」
ボサボサの挑発。ホコリだらけの丸メガネ。畳の匂いがするカーディガンをまとった、華奢な女子生徒がつぶやく。
「てかあったんだ、クラスLOINE。ま、良いんだ、良いんだけども」
その生徒も、自分の机から、「
廊下を歩きながら、思考を巡らせる。
「なんて言ってた.....?あぁそう、二年蓮華組。ウチの学年の蓮華組に、レッド赤ゾンビ鬼悪魔が.....」
ブツブツ、ブツブツ。
「昨日、発狂した子だって?うぅん、何があった」
ブツ、ブツ、ブツ。
「彼女が師たり得れば、もしかしたら.......」
ブツ。
「でも一人で行くのは......」
ヌッ。
「......ヌッ?」
視界に現れた大きな影を知覚し、反射的に脳内で奏でたオノマトペにつられて立ち止まり、それから視線を上げる。
ちょっと上げても、彼女の身長では上げ足りなかった。
もっと、見上げてみる。
「あ゛」
艷やかな白髪。燃えるような赤い肌。
つぶらな第三の目。夏服の薄い布越しから主張する、魔性の肉体。
目の前の本人に確認せずとも、その人物が
「あ、アナタは......!」
「お、その顔は。少なからず、今日からお披露目の私の噂を、既にどこかで聞きつけている顔だな?」
動く紫色の唇の隙間から、鋭利な牙が覗く。
なんて力強く、それでいて澄んだお声だろう。
見た目は完全に異形や化け物のそれなのに、圧倒はされても慄きはしない。
運命だ!
私はすかさず、目の前の彼女に縋った。
「
「よく言うわ。度胸が無くて足踏みしてた小心者の癖に」
あっさり見透かされた。
やっぱりこの人だ!この方だ!この方を選ぶべきだ!
「しかしまぁ、姑息で根暗で小心者ではあるが、呆れるほどに何も持たず、何も知らない、清い人間ではあるようだ」
「えぇ、えぇ!その通りですとも!」
「認めるな莫迦が。面白い、面を貸せ。次の授業は諦めろ」
くるりと向きを変え、彼女は眼鏡の生徒に背を向けて歩き出す。
「僭越ながら、後に続かせて頂きます!」
昂りすぎて、自分が何を言っているのか分からない。
それでも、本能で感じ取っている。これが正解だ、と。
「お前、名前は」
「はい。小生、箱庭はぎれと申します」
「いかにも頼りない名だ。私は
「勿論です、涅槃寂静生地獄さん」
「上等だ」
午後の授業のチャイムが鳴る。
この二人以外の鼓膜の中で。
★つづきます!
まっててね!
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