第5話 災禍のデート(中編)

 この八釘という男、相応の裏があるのはわかるが、まったく本心が読めない。


 私になにを求めている?


「△、食いつきましたね。」

「一体なにを考えてる?」


 先ほど男に刺した五寸釘を抜き、動けなくなっている女の脚に突き刺した。


「△、正体不明の最高峰兵器。一種の核兵器とも呼ばれるそれには多くの伝説があります。」


 段々と掠れていく女のうめき声は、喉を釘で貫かれ完全に消えた。


「中には『死人を蘇らせる』『人を新たな生物へと進化させる』なんてものも。」


 動かなくなった女の死体を男の死体の方に寄せる。


「ほぼ迷信ですが、一部の人間はその存在が事実であることを知っています。」


 トランクの中からガソリンを取り出し、二人の死体にかけていく。


「『原核実験消滅事件』『星ヶ星0118事件』『ジング・麒麟解凍事件』、これらのテロに関わった者だけは。」


 ポケットから出したライターに火をつけ、死体にかすらせた。


 一気に炎が広がり、瞬く間に辺りを包んだ。なかなか大きな火事になるだろう。


「お前も△が欲しいんだろう?推測するなら、△を探すのに協力しろってところか。」

「話が早くて助かります。ほとんど合っていますね。」

「長々話すな。さっさと説明しろ。」

「分かりました。では······、」


 腰からピストルを抜いて、こちらに構えてきた。


「△の手がかりを見つけました。一時協力体勢といきましょう。」


 協力体勢と言っている人間が、ほぼ脅迫の形をとっているのだが?


「なら相応の態度があるだろ、そんなもん構えてなにするつもりだ?」

「念のためですよ。お気になさらず。」

「チッ、その気ならいいよ······。」


 瞳を冷たい膜が覆っていく。身体中の神経が研ぎ澄まされ、何もかもが見えて、聞こえて、感じられる。


「フッ、ハハハッ、噂に違わぬ!まるで人ではありませんね。」

「人でなしに言われてもなあ。」


 身を屈めて接近し、至近距離からの射撃。が、体をよじって避けられ、ピストルによる連続射撃で対抗してくる。


 距離は未だ変わらないが、デリンジャーのような小型拳銃では装弾数で押し負ける。リロードの隙に接近される。


 突き出される左手を右手で抑える。至近距離で互いに射撃を続けた後、こちらの左回し蹴りが脇腹にヒットした。


 隙を突いて一発射撃。心臓を捉えた。


「さすが、まともに殺り合っては勝機は薄いですね。」

「······防弾チョッキか。最新式か?」


 弾は全く届いていない。


「まあ、またすぐ会うことになるので、こちらとしては慌てることはありません。」

「ならそもそも来るな。」

「失礼、あなたの戦闘能力を計れただけ、収穫でした。」


 火事の中、トランクを持ってこの場から離れていく。追うつもりはないが、一つ言っておかねば。


「おい!」

「何か?」

「仕事中ならいつでも来い。でもな······、」


 気味の悪い目をしかと捉えたながら、言い放つ。


「デート中は何があっても邪魔するな。」

「······恋人の方にご執心ですね。」

「私の彼氏を馬鹿にするな。なんなら端的にあの子の可愛いさを五時間で説明してやるから······、」

「遠慮しましょう。」


 去っていく背中を目で追うが、火の手が迫って邪魔をする。


 本来、メイのことは敵には言わない。言うとしても死に際のやつだし、知ったやつは殺す。


 だが、こいつはおそらく知っていた。私に恋人がいることを。


 本来なら殺すところだが、今回ばかりはしょうがない。△のこともあるし、何よりデートをこれ以上中断させたくない。


 ストレスがまた一気に溜まった。

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