第4話 災禍のデート(前編)

「なんだか久しぶりですね、ちゃんとしたデート。」

「うん、本当に。最近なにかと忙しくて、休日も時間作れなかったりしたから。ごめんね?」

「恵梨さんとなら家でも十分楽しいですよ」


 そう、今日は久しぶりの外出デート。つまりは至福。仕事に行くことで不足していく幸せをまた更に補充できる日。


 いつものダサいスーツではなく、一軍の私服。念のための小型拳銃、デリンジャーもボディバッグにしまってある。


 万全の装備、万全のデートプラン。今のところ順調に私の心は満たされている。


「あ、恵梨さんが作ってきてくれたデートプランってどんな感じなんですか?」

「色々考えたんだけどね。細かく計画するより、適当にぶらぶらしてみた方がいいかなって。」

「なるほど」


 そう、デートプランは、その場、その場で決めていく。決まっているのはちょっとしたプレゼントだけだ。


「まあ、のんびりぶらぶら、行こうか。」

「そうですね。」


 繋いだ手を握り直して、ゆったりと進み始めた。




 異変が起きたのは、メイと有名なキッチンカーのクレープ屋の列に並んでいた時だった。


 背後のベンチに座っている男女2人組。見た目は若く、まさに今時のカップル、といった格好をしていた。


 随分下手くそな尾行だ。初心者なのが見てとれる。


「メイ、待ってて。」

「······?」


─数分後────────────────


「で、誰からの命令だ?」


 呼びつけて、物陰でひっそりと恐喝した。銃を出す必要もない。


「お前こそどういうつもりだ、弥門みかど恵梨······!」

「彼氏とデート中なんだ、さっさと答えろ」


 壁に背をつけてへたりこむ男と、腰が抜けて動けなくなっている女。こんな無様な2人にかける時間はない。


「彼氏······?冗談も大概に······、」


 顎を蹴りあげ、胸ぐらを掴む。痛々しいことはなるべくしないと誓っているが、苛立ちが先に出た。


「私が苛立ってることくらいわかるだろ?」

「知らねえよ」


 口内の血を吐き出し、睨み返してくる。


「お前の惚気話に興味なんざ······」

「もういいよ、君。」


 現れた男はスーツ姿で若々しかった。


「十分頑張ってくれたよ。じゃあね。」

八釘やくぎさん!」


 八釘と呼ばれたその男は、朗らかな笑みを浮かべたまま、尾行役の男に歩み寄る。


 そして、男の腹に何かを刺した。


「もう逝っていいよ。」

「············っ!!!」


 刺されているのは五寸釘だった。声も出ないようだ。毒でも塗っていたのか。


 その温厚な仮面の下に隠された猟奇性は、この程度ではないと思う。傍観者である自分ですら、胸騒ぎが抑えられない。


「さて、こんにちは。はじめまして。八釘と申します。」

「それはどうも。で、なんの用だ?」


 デリンジャーを取り出しセーフティを外す。


「弥門さん、用事というのは······、」


 左足を一歩下げ、警戒体勢をとる。


「△についてです。」


 どうしようもない胸騒ぎは、その瞬間に確信に変わった。

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