第67話 キミは……私の切り札だ!



 皆をかばう様にジャナスの前に立ち塞がるファスター。


「ジャナスの戦士よ、良いのか? こんな所で闘って。お前らは極々稀にしか生まれない、お前を含め10体と王のみ」


「またお前が邪魔するか。だがその様な事をよく知ってるな」


「お前らは地上の特定の放射線に弱い。こんな所で戦っていれば例え私に勝っても数時間後死ぬ。お前が出てくるということは捨て駒か。必死だな」


「一瞬浴びるくらいなら寿命を多少縮める位だ。すぐ片付ければ問題ない。もっともこれは王の命令だ。兄者達の貴重な命をさらすなと。王の命令は絶対である」


《ならここでついえよ!》とファスタ―



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078013431040




 出し抜けに瞬間移動とサイ・セイバーで縦に一刀両断。だが即座にサイキック修復して何食わぬ顔のジャナス戦士。



《わが部族は人間と違って意識体の在りかは移動できる。故にどこを斬られようとサイで繋げればいくらでも平気だ。

 ワレは同時に10分割されても復元可能。そして即反撃だ。だからムダ。更に他の9人の戦士達はワレより高位。

 その分割可能数は上位程およそ倍増していき、そのトップは1万分割でも生き残る。ワレなど中では最弱。完全体の王なら散って戻れる。


 死なん!


 両性を持ち、スーパーサイキックを有する完全無欠の神に最も近い種族。

 だから王は最強なのだ!

 何万年と地下を支配した魔王さえ葬り、力の劣らぬその実子を新魔王として5層目の下僕しもべとして従わせた我が種族こそ真なる支配者。諦めろ》




 そう言い放つと同時に瞬間移動と瞬間剣撃で10閃もファスターを斬り捨てて断裁した。


 だがそれだけバラバラにされながらファスタ―も平然と元へ戻る。



《ナニィ! 人族がまさか! 人間の死ぬ意識体のある部位:脳を、そして弱点の首、心臓も切った筈……なぜ戻れる?! いかなる超速魔法治癒でも手遅れな筈!》


《こんな特性お前らだけだと思うのか? 嘗てこれを駆使する者にやられたんだろうが》


《ま……まさか、お前、あの勇者の……!》


先生マスター直伝のサイキック分離・合体はお前らに決して引けをとらぬ!》


 ならばと念力で体を潰そうとするも、ファスターも対向。

 思念攻撃の応酬は互角で、いつ迄も勝負がつかない。

 


[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078013435503





 やがて瞬間移動で互いに隙を伺い合い、予知合戦となる。


《行動も読ませず、予知力も互角とはな。ククッ、だが人族よ、これならお前の負けだ。知ってるぞ、3時間お前を引き付けておけば装置の限界、時間切れになるだけだ》



《それはどうかな》




  **




 一方、新たな指令にたじろぐ面々。そもそも縦・横・高さが千mという物を改めて眼前で見ると何と巨大な事か、それはもはや一つの大山だ。各々が繰り出す魔法大技でもビクともしない。


 その内スーパーラヴァは火炎触手:プロミネンス攻撃を始める。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078013440635




 四天星達を寄せ付けず、皆逃げるだけとなって只々途方に暮れる。


 その間、電気系魔法では解体に寄与出来ないと踏んだエマは壊滅状態のサイキック部隊を少しでも救おうと、斬られた十五人をその移動速度で一所へ掻き集め、邪魔して来る魔物たちと闘いながら治癒を始める。


「クッソォ……なんてヒデェ傷なんだ……焼けただれてやがる……」


 レーザーでの損傷は大きく、焼けて消失している部位が大きい者は救えない。また、救えそうな者も魔法治癒に手間取り時間がかかる。


 ルナ達も今出来る事を必死に模索する。


「ねえ、ルカはサイキックが得意、ルカのサイで何とかアブレーション出来ないの?」


 試してみるもファスターの数十分の一程度、

「これじゃ何時間あっても足りない……」

 と項垂れる。四天星達の大技でさえ、どの結果も小さ過ぎる。


 だめだ……せっかくここまで……


 絶望で完全に力が抜けてしまうルナ。

 瞳の光が消え、伏目で虚ろに濁ってゆく。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078013446932




――― 虐待を受けていた頃の諦めの眼と現実逃避の心に逆戻りとなる。




 やっぱりどの世も不条理だ……

 いい人達バッカリ損をする。

 結局ボクは無力だ……物理フィジカルなんて……

 手も使わず物ひとつ壊して浮かす事も出来ない。

 ボクは何の為にこの世界に来たんだ……




 と、そこへ突然ファスターのテレパスが脳内に飛び込んできた。


《ルナ、この声が聞こえるか?》

《!!…… ファスタ―さん!》


《見ての通り私は今、手が離せない。だがあらゆる事を想定して今まで量子演算智をして来た。そしてこの状況での答えはそう……

 ――― キミだ! キミがやるんだ!》


《えええぇ!……いくら何でもムリです!……だって皆みたいな遠隔から出来ることなんて何も……ボクなんてこの中で一番……無力なんです……》




《いかに魔法力に長けた強者つわものでもこの巨大な魔の塊を私の様にバラすのは厶リだ。

 何十年と練り続けた魔力だから魔法での解体には時間が要る。

 だがキミは今や物理フィジカルステータス60万以上だ。誰にも無い神から与えられし力。


 その移動速度はサイや魔法のそれ、即ち空間を飛ばしての瞬間移動と違い特別な意味を持つ。


 その超高速で実空間移動しても摩擦で燃え尽きず存在を許される熱や衝撃への耐性は、今や隕石の大気圏突入速度にさえ耐える。

 最大倍率で活動を望むキミはあの超溶岩熱にさえもあらがえるはずなんだ。近づいてみろ》



《って……信じろと ?!……くっ……でも……でもあなたが言うならやってみるしか……》


「いくぞっ! 今の全力っ! ステータス最大60万っ!」


 最大倍率で備え、おそるおそる近寄ると格好の餌食とばかりプロミネンスが頭上から襲いかかりルナを勢いよく呑み込む。


 だがその猛攻を難なく片肘で受け止めるルナ。

 損壊はおろか、


「……ホ、ホントだ……火傷すらしない……」




《少しずつでもいい、その死の鉤爪リーサルルクロウでバラバラにしろ。

 今のキミなら鋼鉄だろうが溶けかけた岩だろうが切り裂ける!

 そして空へと弾きとばせ、後は皆で上空まで運ぶ。

 最後にBROSに宇宙へ吹き飛ばして貰う!

 仲間達がキミを支えるから、信じて全力を尽くせ!




―――こんな窮状を考えて呼んだキミは

        ……私の切り札だ!――――




 分かっての通り3時間以内に全てだ! 演算ではギリギリ間に合うはずだ》






「……でもそんな……こんな巨大な……

    ムリです……

      ボクみたいな劣等種なんかに……」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078013451461







< continue to next time >


――――――――――――――――――――

負け癖に戻るルナは自分を克服出来るのか。

圧倒的に厳しいこの状況。それでも応援しても良いと思う方は、♡、☆、フォローで力をいただけると頑張れます。

――――――――――――――――――


イメージBGM (youtube) 『Argon』

https://youtu.be/5Sj8bla8aDg

(ファスターVSアンドロジャナスに)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る