第12話 またまたバズる 後編

「私のターン! ここからがハイライト! そして物語の結末は私がショータイムで全身全霊でございます!」


 どこかで聞いたような決め台詞を連呼しまくる鬼導士。


『きたー!』

『さっきまでのは前座って言い切っちゃったなw』

『どうやってあんなの倒すのよ』

『数多すぎてカメラに収まり切れてないし……』


 そんなコメントが流れているのもつゆ知らず、壱予は真から渡された腕輪をグッと握って、効果を発動させる。


 表示しきれずに文字化けしていた壱予のステータスが見る見る下がっていき、大吾の貧弱な数値より若干上回るくらいに収まった。


「これくらいでよろしいでしょう」


 壱予はそう言うと、こっちに向かって鎌を振り下ろそうとする悪魔Aを一撃で灰にし、続けざまに悪魔BからJくらいの数を爆発四散させた。


 悪魔が倒れるたびに花火のように火花が咲く。

 そして聞こえてくるのは死んでいく悪魔たちの断末魔である。


『時代劇みたいに楽々倒していくな……』

『壱予姫ジェノサイドだ……』

『どうやったらあんな術が使えるようになる?』

『これじゃどっちが敵かわからなくなるな……』


 視聴者が若干どころか、かなり引いていることに気づいた大吾。


「壱予……、もう少し手加減してやれ。可哀相になってきた」


「む」


 確かによく見ると、血肉が飛び交い、断末魔だけがこだまする、教育上よろしくない配信になっていた。


「確かに今のご時世、コンピラに厳しいようですし、タロジロ表現ありきの配信は余計な制限をかけてしまいますわね」


『コンプラだろ』

『コンプラだな』

『じゃあタロジロ表現ってなんだ』

『たぶん、グロゴア表現のことを言いたかったんじゃないか』


「ではこういたしましょう! 戻れゴマでございます!」


 開けゴマじゃないのかというコメントも今は空しく、壱予のかけ声と共に、木っ端微塵になった悪魔たちが次々生き返り、さらに元々いた門まで押されて、ただの彫刻に戻っていく。


『復活させたー!』

『そんなこともできるのかよ!』

『死者復活って、ありえないだろ!』


 騒ぎ出すコメントに対し、壱予は冷静だ。


「元々ただの壁でございますので、戻せばいいだけの話でございます」


 あ、そりゃそうかと視聴者も我に返る中、ここでまたひとつ、大きな変化が起きた。


 大勢の悪魔たちが元いたポジションに帰っていく間に、何かが折れたような音がして、その直後、巨大な門が積み木のように崩れていく。


「あ」


 壱予は思わず呟いた。

 一度にたくさんの悪魔を押し戻そうとした反動なのか、門の方が持たなかった。

 がらがらがっしゃんと、跡形もなく門が崩れ去った。


「まあ……」


 門が崩れて先に進めるようになったのはいいけれど、ここまで大々的に破壊してしまうと、チュートリアルもできなくなる。

 門を壊しただけでなく、ダンジョンの初期イベントそのものをぶっ潰してしまったわけである。


「これはまずいでございますわね……」


『おい、今、まずいって言ったか』

『聞こえたような……』

『聞こえないような……』

『壱予ちゃん、妙にキョドってないか?』

『なんかやらかした感じだよね』


「さ、さあ、先に進むのです!」


 とにかく、この門を抜けると大事なアイテムを手に入れることになっているので、壱予は問答無用で大吾の足をつかんで引きずっていく。


 かつて門だったガレキの山を越えてしばらく歩くと、これを持って行けとばかりに銀色に光るアイテムが通路に落ちている。


 通称、記録の鍵。

 一人として同じ形にはならない、自分専用の、木製の鍵。

 

 これをぐぐっと握りしめると、場所がどこであろうと扉が出てきて、そこを抜けると自分が使ったダンジョンの入り口に戻れる。

 そして予想通り、鍵を持った状態でまた迷宮に入ると、出て行った場所にピッタリ戻れるという超便利アイテムである。


 この鍵にたどりつくところまでがチュートリアルと言って良いだろう。

 まあ、これ以降は誰が進んでも門のイベントは起きることなく、いとも簡単に鍵がある場所まで進めることになったけれども。


『大吾っち、おめでと~』

『チュートリアルクリア、おめでとう』


 皆が祝福してくれるが、大吾は灰になっているので手しか振れない。


『まさかFランクでこんなに早くクリアできるとはなあ』

『壱予ちゃんの存在がデカすぎる』

『この子、強すぎるよ』

『レベル減らした人達、悔しいだろうなあ』

『また迷宮に入る人増えるな』


 肝心の配信者がグロッキー状態、相方の壱予は配信のルールがあまりよくわかっていないのでただ笑顔で手を振るだけ。

 コメントだけが延々流れている状態で、ふわっと今回の配信は終わった。

 

 いきなり終わったと視聴者は驚いたようだが、大吾のあの姿を見れば仕方無しと苦笑して受け入れてくれたようだ。


「か、かえろう。もう立ってるだけでしんどい……」


 体の中の骨や筋肉がどこかに行ってしまって、ただの皮だけになった気がする。


「頑張りましたね旦那さま。今日も素敵でございました」


 ぴたっと体を寄せてくる壱予。

 

「壱予のおかげだよ……」


 皮肉でも何でもない。

 この子がいなきゃ、今日もここまで多くの視聴者を集めることは無かっただろう。


「ええ、そうですとも、そうですとも」


 こうして二人は迷宮を去って行く。


――――――――――


 誰もが倒せなかったヨツデくんをたやすく倒してしまうだけでなく、それ以降の集団戦闘ですら相手を圧倒し、鬼道をさらに深掘りして見せたこの配信は、大吾チャンネルの登録者数をさらに増やすことになった。

 拡大を続ける「ダンジョン配信」の中でも群を抜いて面白いと誰もが認めるようになり、もはや大吾はれっきとしたトップ配信者。


 しかし有名になればなるほど、厄介事も増えていく。


 というわけで、とあるダンジョン配信者のライブを一部抜粋しよう。


『おい、大吾。おまえ、どんだけ嘘ついてんだよ』


 マスクをかぶって顔を隠しながら、男は大吾チャンネルにケンカを売る。


『なにが敵の倒し方で報酬が増えるだ。そんなのあるわけないだろ。俺なんかもう何百匹も倒してるけどな、そんなの一度も無かったよ。みんなもそうだよな』


 そうそう。

 俺もそうだった。

 あいつは嘘ついてる。


『あの壱予って女が持ってる変な腕輪。あれだろ? あれを使ってチートやってんだ。つまりさ、結局お前、宮内庁の犬なんだよな?』


 あること無いことどころか、無いことばかりで大吾を告発する男。


 深尾一郎ふかおいちろう

 チャンネル名、ゴランズを運営する彼は、実を言うと一番最初にダンジョンの存在に気づいた先駆者であった。


――――――――――


 読んで頂きありがとうございます。

 次回から、思わぬ集団との戦い(?)に巻き込まれていきます。


 ご意見、ご感想、評価、よろしくお願いいたします。

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