第11話 またまたバズる 前編
地下迷宮、B5の関所に存在する隠れボス。
稼いだレベル分の経験値をよこせば門を開けてやろうと一見親切に接してくれるが、拒んだり返事が遅いとブチ切れて門の中から出てくる沸点の低い奴。
正式名称は不明なので、その外見から「四つ手の門番」と名付けられ、初心者にも容赦しない攻撃力とガーゴイルのようなおどろおどろしい見た目に最初は皆も恐怖した。
しかし、あの馬鹿でかい門から出てきたわりに、近づいてみると身長は100センチしか無いことが判明し、よく見たらゆるキャラみたいで可愛いかもしれないと皆が気づき、今や「ヨツデくん」と親しまれ、ある意味バズってしまった敵である。
とはいえ、ヨツデくんはそんなことで大目に見てはくれない。
四つの手に握られた刀をぶんぶん振り回して、強風を容赦なくぶちまけてくる。
「どわああああっ!」
団扇であおがれる紙のようになぶられる大吾。
『この吹っ飛び映像、いろんな配信で見たな』
『やられとる。やられとる』
『勝てるわけないんだって』
そして受け身もしないで地面に叩きつけられる。
「あぎゃっっ!」
特大のダメージを喰らったらしく、手の甲に描かれた文字が赤く変色する。
あと少しで死ぬぞという親切な警告である。
体力は時間の経過と共に少しずつ戻っていくので、こうなると逃げ回って自然回復を期待するしか無い。
しかし、大吾は逃げない。
そしてなぜかヨツデくんも動かない。
『あれ?』
『どうした大吾っち、死ぬ気か?』
『逆にどうしたヨツデくん。やらんのか?』
「皆様、お聞きください」
さっきから腕を組んで師匠ヅラしていた壱予がついに口を開く。
「どれだけ激しい攻撃を仕掛けようが、所詮は鬼道仕掛けの人形。ゼンマイと同じように動力が切れれば動きを止めます」
『確かに動いてないね』
『隙だらけだ』
『逃げれば逃げるほど追っかける仕様だったわけ?』
『また凄い情報ぶっこんだな』
『壱予ちゃん、どこまで知ってるの?』
視聴者がざわつき出す中、大吾は汗を大量に流しながらも右手を地面に置き、ゆっくり、深く、深呼吸を始める。
壱予に言われたとおり、この後起こることを必死に頭で思い描く。
ギュッと目を閉じ、血が流れるくらい唇を噛みしめながら、集中する……!
「わたくし、先輩方の配信を拝見させて頂いて、少々残念に思っていることがありました。それは鬼道の使い方です」
『ほお』
『いつも唐突に始める壱予ちゃんの授業だ』
『ってか大吾っち、何する気?』
「皆様が繰り出す鬼道は、基本、手から炎を出すだけ。あくまで攻撃手段としての鬼道です。しかしそれはほんの一面にしか過ぎない……」
そう壱予が語る横で、大吾の体のまわりをバチバチと火花が散っていく。
『おい!』
『なにが起きてる!?』
「鬼道はただ傷つけるだけにあらず! 守るため、創るため、生かすためにもあるのです!」
『おお!』
『なんか、かっこいい』
視聴者からの絶賛に対し、得意げな壱予はついに言った。
「つまり鬼道はともだち! こわくないよ! ってことでございます!」
『言いたかったんだなw』
『それなw』
『前から思ってたけど、あの子ネットの見過ぎだよ』
『わかっちゃう俺らも俺らだが』
「さあ旦那さま、やっておくんなまし! 結局最後は気合いでございます!」
お得意の意味の無い精神論を叫ぶ壱予。
それを合図にしたかのように、止まっていたヨツデくんが「えいしゃおら」と叫んではいないが、そんな勢いで天高く舞い上がる。
そしていつものように猛り狂う風の弾丸を大吾にぶちかます。
しかし。
「これでもう終わってください!」
叩き売りのごとく、地面をバンバンはたくと、強烈な炎が噴水のように湧き上がる。
例えて言うなら辛さ100倍の真っ赤なラーメンスープのような、どぎつい赤色をした炎。
ヨツデくんがかましてきた風とぶつかり、絡み合い、溶け合うと、なぜか炎はヨツデくんに向かい、一気に飲み込む。
炎はヨツデくんの体に侵入し、持っていた刀をすべて落としてしまうほど、ヨツデくんを苦しめる。
『カウンター!』
『すげえええ!』
『こんなんもできるわけ?!』
炎と風のパワーに門まで押されていくヨツデくん。結局、門の中に閉じ込められてしまい、ただの彫刻に戻る。
『勝っちまったぞ!』
『Fランクが押し切ったよ!』
『レベル減らさずに進めるのか!』
今まで誰も見たことがなかった迷宮の隠しイベントの噂を聞きつけたのか、すごい勢いで視聴者が増えていく。
しかも、ここで終わらない。
ヨツデくんが元いた場所に戻った直後、地面が激しく揺れはじめる。
門に彫刻されていたおぞましいバケモノたちが、ひとつ、またひとつと動き出し、実体化していく。
愚かな人間どもにいじめられたヨツデくんが、パパとママに言いつけてやるからなとばかりに元いた場所に戻ると、うちの子を泣かせた奴はお前かと、親戚一同引き連れてきた感じだろうか。
どいつもこいつも悪魔と呼ぶにふさわしいゲテモノっぷりで、いったいこれはなんのホラー映画だと勘違いする人も多そう。
『一気にハルマゲドン感が増したな』
『デビルマンの終盤みたいな感じだ』
『これ、どうする。倒せるの?』
『いや、無理だな。戦う前から倒れてるし』
視聴者の指摘通り、大吾は既に倒れていた。
さっきの戦いで真っ白に燃えつきていたのである。
「あたまが、おもい……」
頭の回転なんて言葉があるが、大吾はあの戦いで目が回るくらい頭を使って壱予のリクエストに応え、誰も見たことがない魔法を繰り出し、燃えつきた。
あれだけの悪魔の大軍。勝てるはずがない。
「つまりここからが私の出番、でございます!」
とうとう百合若壱予が動き出す。
――――――――――
後編に続きます。
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