第13話 大吾、ケンカを売られる
深尾一郎をリーダーとするゴランズがダンジョンを一番最初に発見したという事実は揺らぎようが無い。いずれ教科書にも載るかもしれない。
気の合う仲間とキャンプに出かけ、林の中をわいわい歩いていたら、偶然迷宮に繋がる扉を見つけたのである。
この時点で深尾たちは自分たちのチャンネルなど持っていなかった。
しかしこの奥にとんでもないモノがあると直感した彼らはその場でアカウントを作って配信を始める。
それがゴランズの始まりだった。
無論バズった。
政府が止めなさいと警告するくらい、多くの人間がダンジョンに飛び込んだ。
そんな中、ゴランズは常に先を行った。
大吾たちが体験した「チュートリアル」の進め方や、レベルの上げ方、敵の倒し方は、ゴランズが手探りで見つけ出したもので、彼らがダンジョンにおける開拓者だったのは間違いない。
さらに彼らはホーリーズという男三人と女性二人で構成されたグループとコラボすることで、さらに視聴者を得た。
ダンジョンを冒険する配信がゴランズだとしたら、ホーリーズはダンジョンを楽しむための配信を続けていた。
彼らのライブ配信はもはや映画を越えるエンターテインメントであると評する人たちもいたほどである。
そしてトドメとばかりに彼らは、あのダンジョンめぐりあい配信で誕生した「あずさとカイジ」と手を組むようになる。
この三組による最初の合同配信はとうとうあのフルヌードの姫と同じほどの視聴者数にたどりつくまでになった。
しかしそのフルヌードの姫がとんでもない配信をする。
みんなで手から火を出そうと言って、ほんとに成功しちゃったあの「鬼道配信」である。
これがきっかけになり、ついに政府はダンジョンを解禁し、急激な速さで法整備を整える。
鬼道も使えなければそもそもライセンスも持っていなかったゴランズ達は、いったん国の要求に応えるためという理由で、配信をしばらく休むと宣言した。
それから今に至るまでゴランズもホーリーズもあずさとカイジも配信どころかSNSにコメントのひとつも書き込まない状況が続き、彼らの存在はあっという間に忘れられ、現在のダンジョン配信は大吾チャンネルの一強といっていい状態にあった。
そんな中、ゴランズが久々に行った動画配信こそ、大吾チャンネルへの口撃だったわけだ。
『いまさらダンジョンとか鬼道が嘘っぱちなんて言うつもりはないよ。あのダンジョンが大昔の遺産だってことは俺が一番よくわかってるしな。けどさ。政府の連中がああだこうだとやって来て、結局私物化しようってのは良くないと思うわけよ』
メキシコのプロレスラーがつけそうなマスクで顔を隠すゴランズのリーダー深尾。
彼の後ろには残りのメンバーが三人座っている。彼らもまた素顔を隠していた。
『俺が疑ってるのはさ。大吾とその女が政府の手先かもしれないってことで、政府の連中が自分たちのやりたいことをするために大吾を操ってるって思ってるわけ。何のためになんてのはまだ分かんないよ、けどさ……』
長くなりそうなのでまとめると。
政府は迷宮を私物化して何かを企んでいる。(何かはわからない)
大吾と壱予は政府に雇われたスパイであり何かを企んでいる(何かはわからない)
壱予がやたら強いのは腕に巻かれたアクセサリのせいで、あれが報酬を倍加させているに違いない。そのやり方は卑怯だ(検証はしていないので憶測だけど、間違いないと思う、多分)
さらにゴランズは言う。
『壱予が言ってたよな。鬼道は想像して使うって。あれは間違いなく嘘だね。いや悪い。嘘って言い方は良くなかった。半分嘘で半分本当ってことかな。俺たちも鬼道使ってみたけどさ、絶対言葉にした方が強い効果出るよな。みんなもそうだろ?』
実はこの意見はゴランズだけの主張では無かった。
壱予は確かに、鬼道は手で印を結んだり、言葉で何かを呟く必要はないと断言している。
しかし「火よ出ろ!」といったふうに、自分のやりたいことを言葉に出したときの方が明らかに鬼道の威力が増すのである。
『壱予は凄い鬼道を使うよ。それは認める。けどさ、あいつは嘘をついてるんだよ。他の連中が自分より強くならないように、うまくコントロールしてる』
この主張に賛同するコメントは結構多く、さらにFランクという底辺ダンジョン探求者でありながら、雑魚敵を一撃で粉砕し、おまけに絶対的な存在だったヨツデくんまで不可思議な術で倒してしまった大吾への不審感もあった。
壱予は嘘をついている。
おまけに大吾はズルをして他の探求者より多くの報酬を得るよう細工をしている。
それが壱予の腕輪にあるのでは……?
という疑いはじわじわとネット界隈で広がりつつあった。
『おい大吾。お前、調子に乗ってんだよな。ただの弱男がいい女拾って、偶然バズって、政府とねんごろになって。みんなのおかげ、みんなのおかげって、こびへつらってるけどさ。俺はわかるぜ。お前のその腹黒い、裏の素顔がさ』
ゴランズのリーダーはそう決めつける。
『笑ってんだよな。騙される連中を影でこそこそ、だせえって。楽しいだろうな。今まで散々な人生だったもんな。けど聞けよ。俺は騙されねえ。いいか、お前は説明する必要あるぞ。もし政府と手を組んでズルしてるんだったら、さっさと謝ってダンジョンに顔見せるのはやめて、まあ、猫でも飼って、以前のしょぼくれた日常に帰れ。それだけだ、俺の言いたいことは』
ゴランズのディスはその過激な内容のおかげで多くの視聴者を稼ぐことになる。
当然、大吾と壱予にもその余波は届いてきた。
日頃から火のない噂は放っておけと平然としていた壱予。
今回も落ち着いていると思いきや、
「あの男の皮を剥いで裏返しにして縫い直してやる……!」
烈火の如く怒っている。
愛しい旦那さまが悪く言われたからだろう。
しかも怒ったのは壱予だけでは無かった。
今やトップ配信者の一人となっている大吾なので、それなりにファンがいる。
いくら何でもその言い方はひどい。
壱予姫ちゃんが可哀相だとゴランズのSNSに大量の抗議を書き込む。
それに反応したゴランズのファンもやり返し、ひどい騒ぎになっていた。
「良くないなあ」
大吾は胸を痛めている。
「俺なんかのために頑張んなくて良いのに……」
それに大吾はゴランズが文句を言うのも無理はないなとすら感じていた。
「俺が見る立場だったら、変だなって思うところは結構あるし……」
Fランクの自分がヨツデくんを倒したことがいまだに信じられないのだから、視聴者はなおさら疑うだろう。
「ここはもう、ありのままを伝えよう」
「む、配信にて宣戦布告ですわね。早速用意を……」
「いや配信はしない。このやり取りで利益を得るのは良くない」
大吾が考えたのは、手書きでメッセージを書いてSNSに投稿することだ。
この前お世話になったエンラバの編集さんにも協力してもらおう。
「壱予。俺が言ったことを書いてもらえるかな。お前は本当に字が上手いから」
「むむう」
手ぬるいと壱予は言いたかった。
しかし、保本大吾という男は一度決めたことは頑として変えないことを壱予もわかっている。
「……旦那さまがそれで良いのであれば、何でもいたします」
「じゃあ、まず今日の日付を書いてくれ。次に、皆様へ、ってのを一回り大きく」
「わかりましたです」
ボールペンを五つ浮かせて凄い速さで惚れ惚れするほど美しい文字を書いていく。
――――――――――
皆様へ。
ゴランズさんの配信を見ました。
その事で皆さんがいろんな思いを抱えていることを知りました。
いろんな意見がぶつかり合っていることも見ました。
この状況を私達は辛い思いで見ています。
そして、皆さんが私達に対して「おかしい」と疑うのも当然だと思っています。
ですから自分たちのことについて皆さんに伝えるべきことがあります。
まず、ゴランズの皆さん、
お前たちに生きている価値はない。いずれお前らの息の根を止め、その臓物を口から取り出してカラスのエサにしてやるからな。
「おい! 途中から全然違うこと書いてるじゃないか!」
「はっ、思わず心の声が出てしまいました」
「リテイクだ!」
「くっ、今までで一番難しい任務です……」
そんなこんなで半日以上かけて書かれた大吾チャンネルからのメッセージがネットに公開される。
(途中から)
まず皆さんに伝えたいことがあります。
私、保本大吾がダンジョンライセンスを取得した日に、壱予は宮内庁の関係者の方と会っています。
これは壱予が無戸籍だったため、このままではライセンスを取得することができなかったので、その対処をしてもらうためでした。
壱予が付けている腕輪は、その際に役人の方からもらった物です。
ダンジョンの中で壱予の力は余りに強すぎるので、それを弱めるためのアイテムだと私達は聞かされていました。
この腕輪が本当にそうなのか、それとも皆さんが危惧するような「チートアイテム」であるのかどうか、今のところ、私達もわかっていません。
先日の配信にあるように壱予はまだ一度も戦っていないのです。
まず次回の配信でこの腕輪の真偽を確かめたいと思います。これを付けているときと、そうでないときとで、不正があるかどうか、皆さんに判断していただきたいです。
少しでもチートを思わせるような効果が現れた場合、腕輪は政府に返却し、ダンジョン配信をやめる、チャンネルの閉鎖等も含めて今後を考えていきます。
また、宮内庁を含めた政府関係者とはそれ以降の接触はありません。政府と裏で繋がりがあるという疑問については、はっきりと違うと言わせていただきたいです。
今私達がお伝えできるのはここまでです。
ファンの皆さんにはこれまで多くのアドバイスやご支援を頂きました。
なにもかも未熟な私がここまで来られたのは皆さんのおかげです。
ですがこんな自分のために誰かと言い争ったり、結論の出ない議論に心と体を痛めるようなことはしないでください。
保本大吾
百合若壱予
―――――――――――
作者後書き
読んで頂きありがとうございます。
ダンジョンにおいて最大の敵はやはり人間だったという回です。
この騒ぎがどうなっていくか、次回以降で書かれていきます。
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