第3話 とあるエンタメ系ニュースサイトのインタビューにて
日本中、いや世界中を騒がしたライブ配信から二週間後。
インターネット上で盛り上がるトピックやエンタメ情報を深く掘り下げるサイト「エンラバ」にて、配信者である大吾チャンネル管理人のインタビューが掲載された。
それは以下の注意書きが冒頭に書かれる異常なものであった。
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このインタビュー記事は俗に言う「フルヌードの壱与姫配信」から五日後に行われたものです。
極めて奇妙かつ不可解なインタビューになったため、当初は掲載を見送る判断に至りましたが、昨日起きた「
事の真偽に関して弊社は責任を負いません。
現在日本中を騒がす「
読者の皆様方も無謀な迷宮探索はくれぐれもおやめください。
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そしてエンラバのベテラン編集者が混乱するほどの破壊力を持ったインタビュー記事が公開された。
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裸の美少女、謎の武者、魔法対決、いったいこれはなに……?
日本だけでなく世界中を混乱させる大バズり配信者がついに口を開いた!
合成か、真実か、余りに突拍子がないのに異様にリアルな衝撃配信で、世界中でバズっている「フルヌードの
大吾チャンネルの管理人、大吾さんはあれから配信を行っておらず、自身のSNSも更新が途絶えており、様々な憶測が流れていました。
死亡説まで流れる中、我々は大吾さんからテレビ電話を使用したインタビューの許可を得ることが出来ました。
大吾さんの隣にはあの「壱予」さんもおり、当然服は着ていました。
――あの衝撃の動画は日本だけでなく世界中の人々が目にする特大コンテンツになっています。これだけの反響が起きたことを今どうお考えですか?
大吾さん:実感がわきません。自分はただ猫を探しに行っただけなので、こんなことになるなんて思ってもみませんでした。あと、配信中に保護猫を育てている方々に大変無礼な発言をしてしまい、とても後悔しておりまして、この場をお借りしてお詫び申し上げたいです……。
――いやいや、大吾さんはアーカイブの映像で壱予さんの体に編集を加えて裸を見られないようにしたり、要所要所で紳士的な行動をしていると称賛されていますよ。
大吾さん:そう言ってくださるのはありがたいのですが、あの配信で近隣の方々に多大な迷惑をかけてしまったのは事実なので……。
――と、言いますと?
大吾さん:実は自宅の場所が完全にバレてしまいまして、いろんな方々にご迷惑をおかけする形になってしまいました。
――それは大変でしたね……。あの配信からずっと沈黙を続けていたのはそのせいだったのでしょうか?
――はい。自宅にいられなくなったので誰にも知られないよう慎重に引っ越す必要がありました。その準備と、壱予さんを保護するための手続きであちこち動いていたらいつの間にか日数が経っていたという感じです。
――今はもう落ち着かれたのですか?
大吾さん:ええ。だいぶ、まあ。
壱予さん:すっかり新婚生活を満喫しております。
大吾さん:誤解を招くようなことを言うな!
壱予さん:でも籍を入れたのは間違いなく……。
大吾さん:まだだ! 届に判は押したが役所に提出はしてない!
壱予さん:なんと、まだ持っておられるのですか?! このいくじなし!
――えっと、壱予さんが隣におられるということは、皆でグルになってそれっぽい動画を作ったという、あの噂についてはどうなんでしょうか。
大吾さん:むしろ俺がそうであって欲しいと思うくらいで。
――ええ?
大吾さん:目が覚めたときに思うんです。夢ならどれほどよかったでしょうと。
――はあ……。
大吾さん:起きるといつも隣にこいつがいるんです。全部現実なんです。もう戻れないんです。会社も辞めたし、どこを歩いても変な眼で見られる気がして……。人に会うのが怖くなって……。
――あ、あの大丈夫ですか? 思えばずいぶんとお痩せになられた……?
大吾さん:そこはお構いなく……。大丈夫なので(疲れた笑い)
壱予さん:外に出ないで夫婦ふたりきりであれば、することなどひとつ。結果、旦那さまは痩せる。二人は幸せ、と言うことでございます。ほほほ。
大吾さん:なんでいちいち誤解を招くことを言うんだよ! 一緒の部屋にすらいないだろうが! なのに何で起きたら横にいるんだよ!
壱予さん:旦那さまが部屋に鍵をかけるから術を使って入るだけです! それに妻が夫の隣で眠るのは自然の摂理! なにもしない夫がおかしい! このいくじなし!
――あ、あの! とにかく、壱予さんの不思議な能力といい、あの謎の武者といい、世界中の知識人を集めても答えが出ない現象があの配信で起きています。あれはいったいなんなのでしょうか?
壱予さん:鬼道という、古代の呪術です。
――きどう?
壱予さん:あまり難しいことは考えず、今で言う魔法だとお考えください。
――つ、つまり、自分は魔法使いだと?
壱予さん:ええ、だって私、
大吾さん:(深い溜息)
――かざみ? いったいどなたですか?
壱予さん:私の師匠であり、義理の姉であり、新和の女王であり、優しいお方でありました。
――え、えええ? 新和の女王というのはその、なんなんでしょう?
大吾さん:こいつの言うことをいちいち真に受けちゃいけ……ぐわっ!
編集部注、ここで壱予さんが不思議な力で大吾さんを遠くに跳ね飛ばしてしまい、大吾さんは画面から見えなくなりました。
壱予さん:旦那さまからいくつかの歴史書を借りて調べましたところ、日本国における謎の一つ「空白の150年」に実は新和という国がございまして、私はその生まれなのです。とても実り豊かで大きな国でございました。
――はあ……。
壱予さん:風見さまは私達を楽しませようとして愉快なものをたくさん作ってくださったのですが、残念なことに産後の肥立ちが悪く亡くなられてしまいました。私は一番弟子として風見さまが残したものをひとつひとつ処理していったのですが、何をどうやっても片付けができず、風見さまがいなくなったことで制御不能にまでなった遊具施設があったのです。弟子一同総掛かりで遊具を封印することには成功しましたが破壊するには至らず、その封印は解かれようとしています。私はその対応のため、長い間眠りにつくことになりました。皆様が今熱中している「だんじょん」こそ、風見さまがもたらした最強の遊具であり、私の国を滅ぼした元凶なのです。
――えっと、これはいったい……。
大吾さん:頭を強く打ったんだろうと医者が言ってまして、その後遺症だと思います。だから真に受けちゃ……、ぐあっ!
編集部注、大吾さんは再びどこかに飛んでいきました。
壱予さん:皆様が信じられないことは百も承知です。しかし証拠がものを言います。これからますます迷宮はその入り口を大きく開き、皆様を誘い込むでしょう。素養のない方は決してお近づきにならないよう、警告しておきます。
――えええと、最後の質問になりますが、壱予さんは大吾さんとはあの時が初対面ですよね?
壱予さん:はい。
――世界中の人達が不思議に思っていることなのですが、初対面で大吾さんを旦那さまと呼ぶくらいに好意を持たれているのはなぜでしょうか。どうやら籍も入れられたようですし……、なぜそこまで。
壱予さん:皆様が仰られたいことはよくわかっております。なぜあのような冴えない風貌の殿方に惹かれるのか。特に秀でた特技もない、人としての魅力がまるでないあの方になぜと。
――そこまで言ってないのですが……。
壱予さん:私は人の中身を見ます。旦那さまが初めて私を見たとき、起きなさいと私に叫んだとき、私の肌に伝わってきた温もりは、新和にいたときからずっと私が欲していたものなのです。誰の手にも渡したくない。この方を私のものにしたいと強く感じました。どんなことをしても守ろうと……。
――凄い愛情ですね……!
壱予さん:はい。なのに旦那さまときたら私が裸で迫ってもギャーギャー騒ぐだけで手も触れない。いったいどうしたら、まことの夫婦になれるのでしょうか。こうなれば新和に伝わる伝説の媚薬など使って……
――えええと、ではインタビューを終えたいと思います。ありがとうございました。
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