第35話 雨降って地固まる

「あの時は····! あの時はな! お前が居なくなったのを知って、山口は泣いていたんだ! 滅多に涙を見せないアイツが! いつも明るくて元気なアイツが!」


 俺には何もできなかったと、血が出るほど強く拳を握りしめている。


「それは····!」


「何でだよ! なんで何も告げなかった!? 俺達は友達じゃなかったのかよ····」


 さっきとは打って変わって弱々しい声で話す葛木を見て、俺は馬鹿な奴だなと自分を卑下する。


「ずっと、友達だと思っていた····」


「なら、何で! 後からでも良かっただろ!? 高校で会って、それでまた会えたでも良かったじゃねぇか! でも、お前は一言もなかった····!」


「それは····」


 それは···· 寂しかったからだ····。

 親の転勤が決まって、俺は街を去る事になった。俺だって、ずっと皆と遊んでいたかった。でも、俺が嫌だと言ったら父さんを困らせてしまう。家族が離れ離れになってしまう。そう思って俺は言えなかった。

 そして、それと同時にお別れの言葉を告げられなかった。告げてしまったら、もう会えなくなってしまうと思ってしまったからだ····。


 そして、俺と山口が再開したのは、高校1年の時だった。何時ものようにボーッと歩く俺の机を叩いて「久しぶり」と笑った。

 本当に嬉しかった。また会えたんだって思えた、だから俺は葛木にも、「久しぶり」って言って欲しかった。いや、言いたかった。でも俺にはそんな資格はないって、勝手に自分で決め付けていた。


 俺はありのまま、今思っていた事を包み隠さずに話した。


「ははっ····、資格なんているかよ····」


「そうだよな、俺は本当に····」


「本当にどうしようもない奴だな···· 俺もお前も····」


 葛木も? いやどうしようもない奴は俺だろう····

 勝手に居なくなって、自分から言えずに人から言われるまで待っているなんて····


「そんな、テメェにムカついて陰湿な事ばっかしてたのは、紛れもない俺だからな」


「でも悪いのは俺だろ? お前の話を聞くまで、忘れてしまっていたのもあるし····」


「それは確かにムカつくから、後でもう一発殴らせろ」


 えっ!? と俺は驚くように飛び上がる。そんな俺を葛木は見て、あの頃と同じような顔で笑う。


「そして、お前を殴ってから、俺も一発受け止める」


 それで仲直りだと話す。

 俺はそれに同意して、最後の一発をお互いに放つのだった····。


「山口の所に行ってこいよ。多分告白だろうからな」


 それは····さっきの話で改めて確認することができた。


「お前はいいのか? ずっと好きだったんだろ?」


「まあな、でも好きだからこそ、幸せになって欲しいんだよ。だから中途半端な理由で付き合うとかはやめろよな」


「それぐらいは分かってる」


「ならいい、じゃあ俺は行くからよ···· またな、晶!」


「ああ····! またな、龍斗!」


 そして、俺は約束の通り屋上へと向かう。答えはもう既に自分の中で決まっている····。


 ○


「あ、来たんだ····って! 何でそんなに怪我してるのよ!?」


「ここに来るまでに色々あってな····」


 俺は事のあらましを山口に話した。もちろん仲直りした事も含めて。もちろん龍斗が山口に惚れている事は隠した。


「そっか····仲直りしたんだ」


「改めて謝らせてくれ、悪かった! 何も言わずに居なくなって!」


「もういいって昔の事だしね」


 以前と同じように明るく笑う姿に安堵する。


「それと、今日呼び出したことだけどね」


 山口は大きく深呼吸をして話す。


「私は、晶が好き···· ずっと前から、それこそ小学校の時からずっと····。だから、付き合ってください」


 そう言って頭を下げる山口に、俺は····


「ごめん····、俺は山口とは付き合えない。

 その、俺には好きな人がいるんだ」


「そっか····」


 少し悲しげな表情をした後、さっきと同じように明るい表情に戻る。


「振られたけどさ、私達は昔と変わらず友達だよね?」


「それはもちろん····」


「ならいいよ····! だから晶もさ、めいいっぱい青春して、残りの学生生活を楽しんでね?

 あ、それと! 遊ぶ時とかは私や葛木も誘うこと!」


「ああ、また3人で遊ぼう····」


 うんうん! と頷いて山口は扉の方へ歩いていく。


「それじゃ! またね!」


「え、ああ、また····」


 慌ただしく、扉を開けて出ていく山口が心配になり、追いかけようとしたが、それを頭で振り払う。

 彼女を振ったのは俺なんだ。今俺が行っても辛くなるだけだろうな····

 俺は少し時間を開けて、屋上を後にした。


 ○


「うぅ···· 本当に振られたんだ私····」


 階段を降りてすぐ、山口は膝を抱えて泣いていた。

 咄嗟に笑顔を取り繕っていたが、それも鍍金が剥がれるように落ちてしまう。


「あはは、ホントに何やってんだろ····振られるなんて分かってたのにさ····」


 力無く立ち上がり、校門へと歩いていく。すると、たった今、帰ろうとしている葛木を見つけた。


「今から帰るの?」


 山口の声に気づいた葛木が振り返る。


「ああ····」


 山口の涙の痕に気付いたのか、何も言わずに立ち止まる。


「晶と仲直りしたんだって? 良かったじゃん!」


「まあな」


「また今度、3人で遊ぼうだってさ! どこに行こっかなー!」


「3人は久しぶりだな····」


「うんうん! って、さっきから元気なくない?」


「お前の方こそ」


「いやいや、私は元気だって!」


 そう話す。山口を見て岸本は頭を搔く。


「じゃあ、そういう事にしとくわ。でも、辛いなら泣いたっていいと思うけどな」


「あはは····さすが幼馴染み2号! 何でもお見通しだね!

 はぁ···· 私さ、振られちゃったんだ····」


「晶にか?」


 知ってるんだ! と驚く山口に、葛木は廊下で2人で話していたのを見たと話す。


「うわー、覗き見じゃん」


「故意じゃねぇよ····!」


「分かってるって!」


 あははと、山口は笑う。


「ねぇ、失恋って辛いんだね」


「そうだな····」


「もしかして、葛木も経験あり?」


「最近な····」


「ええ!? 誰々!?」


 纏わりつくように聞いてくる山口を躱しす。

 暫くすると聞くのにも飽きてきたのか、纏わりつくのをやめて話す。


「今から、晶も誘ってご飯食べに行こうよ」


「いいのか?」


「少し気まずいけど、久しぶりに3人で話したいじゃん?」


「分かった····」


 葛木は残っていた溝口のアドレスに『今から飯でも行かね?』とメールを送る。

 暫くすると、気まずそうにしながらも、そのメールを貰った溝口も合流し、久しぶりに3人揃って、溝口の家でご飯を食べる····。そして昔話に花を咲かせるのだった。

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平凡な俺がポンコツすぎる美少女怪盗の相棒とか大丈夫ですか? 糸田 川 @itoda_sen

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