第33話 文化祭

 文化祭当日


「おー、結構似合ってるな」


 今、俺の目の前には執事服をした寝子が立っている。


「そう? 自分じゃあ、あまり分かんないけど似合ってるならよかった」


「ねぇねぇ! 私はどう!?」


 横から割り込んでくるように入ってきた、香織に目を向ける。確かに似合っているが、可愛すぎやしないか?


「まあ、似合ってるな」


「何か適当じゃない!?」


「ん、結構似合ってて可愛いと思うよ」


「流石、寝子ちゃん!」


 こういう風に褒めるんだよ! と俺に怒ってくる。

 いや、俺だってそう褒めたいけど、流石に恥ずかしい····!


「もうちょいで開店だから、晶も着替えようぜ」


 既に着替えを済ませた岸本が俺の肩を叩く。相変わらず似合ってるなコイツ。


「あれ? もしかして丘咲ちゃん? 本物の男の子かと思ったぜ」


「そう?」


 役にハマって嬉しいのか、得意げに寝子が笑う。


「おう! スタイルが良いっつーか、俺らに近いというかさ!」


 おい····俺は横目で寝子を見る。 さっきの打って変わって、頭に青筋を浮かべている。


「元々、男っぽい所もあるし趣味にしてもいいんじゃね?」


 お前は前が見えてないのか? 拳をグッと握りしめた寝子が岸本の服に掴みかかる。


「殴られるか脱がされるか、どっちがいい?」


「ちょっとやめてよ! 変態!」


「はぁ!?」


 言い争っている二人の姿を見ながら、俺も着替えることにした。


 〇



「お帰りなさいませ、ご主人様!」


「キャー、可愛い!!」


 そうして始まった男女逆転カフェは、意外と人気な様子で、最初は面白半分で来ていた客が多かったが、現在では外部から来たお客さんも増えてきて、街中にあるレストランのような賑わいを見せている。


「忙しいなマジで!」


「おー、お疲れ様」


 控え室にホール担当の生徒達が戻ってたので、交代する。


「おか、お帰りなさいませ、ご、ご主人様!!」


「おや? 随分可愛い格好じゃないか溝口くん」


「え? なになに来栖の知り合い?」


 最悪だ····! どうやら今来たお客は来栖と、その友人らしい。


「自分で着た訳じゃないからな?」


「そうなのかい? 似合っているから自分からだと思ったよ」


 ちょっと待て! 何でナチュラルに、口説いてくるんだ!?

 これ以上はマズイぞ、向こうのペースに乗せられてしまう。


「し、失礼しました、ご主人様

 それでは席の方へご案内します」


「ああ、よろしく頼むよ」


 別に男装してないよな? そこらの男の人よりも、余裕でかっこいいぞ····


「ご注文は、お決まりでしょうか?」


「何にしようかな」


「私は、このメイドさんのスパゲッティーにしようかな」


 ふむ、友人さんはスパゲッティーっと、忘れないようにメモを取る。


「それじゃあ、私はオムライスにしようかな···· 改めて思うけど、本当に似合ってるね」


 クソ! 来栖の奴、絶対にわざとだろ!? 俺は赤くなった顔を、手に持っているボードで隠す。


「か、かしこまりました!」


 慌てて厨房に戻る俺の姿に、周りの人達から可愛い等の褒め言葉が飛ぶ。

 来栖の奴め、後で覚えとけよ!


 〇


 あれから他に知り合いが来ることもなく、平穏無事に仕事をこなせている。そして、今から休憩に入ろうとしていたところ、新島から声をかけられた。


「ちょっと悪いんだけどさ、今からお店の宣伝に行ってくんない?」


「今から休憩に入ろうと思ってたんだが····」


「これあげるからお願い!」


 そう言って渡されたのは、他のクラスの出し物に使える金券だった。

 確か、金銭での取引は禁止だったから、外部の人や内部生に問わず、金券を校門で買って使うんだったな。

 まあ、貰えるというのならやってもいいかな? そう思って宣伝を引き受ける。


「本当!? 助かるー!」


 そう笑って新島は俺に看板を渡す。


「それじゃあ、友達と待ち合わせがあるから、よろしくねー!」


 いや、遊ぶ為だったのかよ!? でも、引き受けてしまった事に間違いは無いし、頑張ってみますか····

 俺は貰った金券をポケットにしまって、教室を後にするのだった。


「男女逆転カフェはいかがですかー」


 すれ違う人達に好奇な目で見られながら、看板を掲げて宣伝をする。


「随分、可愛らしい格好をしているわね」


 うげ、その声は····

 俺が後ろを振り向くと、そこには大野さんが立っていた。


「えっと、よく俺だと分かりましたね····」


「さっき、あなたのクラスに行った時に香織から聞いたのよ」


 黙っていてくれよと頭を抱えてしまう。


「似合ってるからいいじゃない」


「褒められても嬉しくありませんよ····」


 それは残念と首を振る。そして、俺の姿を見て満足したのか、また今度ねと言って、どこかへ歩いていった。


 それにしても、この宣伝はいつまで続ければいいのだろうか? 大野さんとの邂逅以来、特に誰かと出会うことなく看板を掲げている。

 そろそろ戻ろうかな? と思った時、不意に肩を叩かれた。


「おはよう晶」


「ん? ああ、山口か」


「男女逆転カフェだったっけ? 結構大盛況じゃん」


 山口も男女逆転カフェに訪れたようで、料理が本格的だったと話す。


「てか、よく俺だって分かったな」


「宣伝してるって、晶のクラスの人達が言ってたからさ····」


「ああ、そういうこと····」


 大野さんの時もそうだが、何で俺のクラスの人達は、直ぐに俺の事を教えるんだ?

 いや、それはまあいいとして、珍しく覇気のないように感じる。俺は何故か気になったので聞いてみる事にした。


「あ、えっと、ごめん。後で····、いや別に何でもない····」


「いやいや、普通に気になるから、最後まで言ってくれよ」


「あはは、それもそうだよね。

 あのさ、後夜祭の時予定はある?」


 後夜祭? そう言えば、特に予定なんかは作ってなかったな····


「いや、別に予定は無いぞ」


「それなら良かった」


 そう言って笑い話を続ける。


「話したい事があるから、屋上で待ってる」


「え?」


「伝えたから絶対に来てよね!」


 そう言って、慌てた様子で駆けていった。

 後夜祭の時に話があるか····。学園にある七不思議を思い出してしまう。

 いや、そんなことは無いか! と自分の中で結論付けて、教室に戻る事にした。


「····」


 そんな俺達の姿を、誰かが見ているとも知らずに····

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