第31話 波乱の出し物

「今日は先日に話した。文化祭の出し物について意見を出してもらうからな」


 始業式から数日後····。文化祭について話し合う機会が設けられた。


「まずは何をしたいかだな····

 とりあえず意見のある奴から、手を上げていってくれ」


「はい!」


 おや? 香織が元気そうに手を上げたようだ。


「飲食店がいいです!」


「飲食店ね····」


 先生が黒板に書いていく。


「参考までに何が食べたいとかはあるのか?」


「えっと····」


 こっちをチラチラと見ている····何でだ?


「確か、この前に晶くんが何でもありだった言っていたから····」


 小さい声で何かを呟いている····。暫くすると、意見が固まったのかキリッと顔を上げる。


「きりたんぽが良いです!」


 きりたんぽとは、すり潰したうるち米を、先端から棒に包むように巻きつけた秋田県の郷土料理である。って····違う違う! もしかしてあれか? 俺が先日、何でもありだったと言った事を覚えていたのか?


「また随分と珍しいものが来たな····」


 先生も困惑して腕を組んで唸っている。


「まあ、ありか無しかで言えばありか····」


 ありなのかよ····香織も自分の意見が通って嬉しかったのか、ガッツポーズをしている。

 この意見を筆頭に様々な意見が飛び交い始める。そして、ある程度意見が出尽くした時、一人の男が手を上げた。


「はい!」


「はい、北野」


 こいつの名前は北野圭吾(きたの けいご)、前回の南口に続いて体育祭の時に絡んできた坊主の男だ。


「水着喫茶とかどうですか?」


「は?」


 一体何を言ってるんだ····? この案には、周りの生徒(主に女生徒)から反対の意見が上がる。


「待ってくれ! 男も水着で参加する! それでどうだ!?」


 そう語る北野に先生から怒声が飛ぶ。


「どうだじゃねえよ····! お前後で反省室な」


「そんな!!」と悲しそうに突っ伏す男に、クラスメイトから冷たい目線が集まる。


「お前はよくやった。俺達にとっては英雄だ····!」


 クズ眼鏡こと南口が慰める。


「俺は間違った事は言ってない筈なのに、何でだろうな····」


 少し悲しそうに眉を下げて話す····。いや、普通に間違いだらけだからな?


「あー、他の意見はあるか?」


「それなら男女逆転カフェとか、どうすか?」


 クラスのギャルが手を上げて話す。


「ほぉ、面白そうだな」


 男女逆転カフェ····? つまりどう言う出し物だ? ある程度の想像がつくが····。


「それって、どういう出し物なんだ?」


 俺の疑問に答えるように、クラスの男子がギャルに聞く。


「つまり、女子は男装して、男子は女装ってこと!」


 いやいやいや! 女装!? 普通に嫌なんだが····!


「ちょっと待て! 女装とか俺は嫌なんだが!」 「そうだそうだ!」 「俺達に人権は無いのか!?」


 クラスの男子生徒達が抗議を始める。


「そうだ! そんな酷い提案がまかり通るのなら、俺の水着喫茶だって良いはずだ!」


「あ? お前の意見なんか聞いてねぇよ」


「ひっ!」


 ギャルの低い声が響く····これには流石の北野も、後ずさってしまう。


「他の女の子はどうかな?」


「私は賛成かな?」 「岸本くんの女装姿を見れるとか楽しみ!」 「男装····? ちょっとしてみたいかも!」


「まあ、一応は多数決で決まるからな?

 他に意見は無いか? 無いなら今から多数決を取るが····」


 そう言って先生は多数決を取り始める。


「まずは飲食店がいい人」


 香織を含めた、一部の生徒が手を上げる。


「次はお化け屋敷がいい人」


 無難に俺はお化け屋敷に手を上げることにした。


 〇


 そして時は流れ、あの二つの案がやってきた。


「それじゃあ、水着喫茶がいい人」


 案の定、北野と南口が手を上げる·····というか、前に絡んできた残りの二人も手を挙げているな。

 ただ、手を挙げてる人数は意外と少ない。


「よし、次は男女逆転カフェがいい人」


「「「「はーい!」」」」


 殆どの女生徒が手を挙げてるみたいだ。もしかして男女逆転カフェで決まりか?


「多数決の結果、男女逆転カフェに決定した。

 まあ、男子は残念な結果になる奴が多いと思うが、頑張ってくれ」


「どういう意味だ!」と男子達からの声が響く····。

 改めて考えると、俺も女装をするのか····そう考えていると、香織が俺の肩を叩く。


「大丈夫! 似合うと思うよ····!」


 そんな慰めはいらないんだが!


「よし、一旦話を終えてくれ」


 その声で、先程までの喧騒はピタリと止まる。


「それじゃあ、明日から文化祭の準備があるから、しっかりと頑張るように」


 先生がそう話し、後は自由にしてくれと続ける。すると先程、男女逆転カフェを案に出したギャルが手を叩く····。


「それじゃあ、明日に衣装合わせしよっか!」


「いきなり過ぎないか?」


 それにはすかさず、俺も声を出してしまう。


「早めにしないと、熱が冷めちゃうじゃん?」


 確かにそうだが····。


「それに男子の女装姿とか、面白そうだし」


 それが絶対本音だ! 多分今クラスの皆と心が繋がった気がする。


「なら明日の放課後から頑張れ」


 そう言って先生は教室を後にした。先生が去った後も話は続いていく。そして着々と男達の外堀は埋められていくのだった····。

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