第30話 始業式
明日から、もう学校である。
結局、この二週間は家で過ごす事となった。と言うのも、香織がプールに行った翌日に風邪をひいてしまったからである。
お見舞いにも行ったが、随分タチの悪い風邪だったのか熱は下がったものの咳が中々止まらず、今日に至るまで、全くと言っていいほど治らなかったらしい。
流石に香織抜きで遊ぶのは申し訳ないという話になり、治るまで待っていたら、もう夏休みを終える一歩手前に差し掛かっていた。
そして現在、俺は香織にメールで夏休みの宿題の写真を送っている。
体調が悪くて宿題が全く進まないと嘆いていて、少し可哀想だったので答えを写してもらおうと思い送る事にした。
これを岸本に見られたら、「ズルい!」や「俺にも見せて」とか言われそうだなと思ってしまう····。
とは言っても、前にメールで『明日で宿題制覇だ』ときていたので大丈夫だろう····そう考えながら、前回皆でやった所以外のページを送っていく。
「よし、これで明日には間に合うかな····?」
無事に宿題が終わる事を祈って、明日の準備に取り掛かることにした。
〇
「昨日は本当に助かったよ!」
「それはどういたしまして」
朝学校にやってくると開口一番、香織から感謝の言葉を貰う。
「何の話だ?」
俺と香織のやり取りを聞きつけてか、岸本が近くにやってきた。
「昨日ね、晶くんから宿題を写させてもらったんだ」
「へぇー、良かったじゃん!」
こいつは偽物だな····! 普段の岸本なら、絶対に「ズルい」や「俺にも見せて欲しかった!」とか言うはずなのに····
「どうしたんだ? 普段のお前なら一言ぐらい文句言いそうなのに」
「おいおい、俺だっていつまでも子供じゃないんだぜ····!」
マジか····成長したんだな。香織も嘘····? と言いたそうな目で見ている。
「おいおい、そんな疑うような目で見るなよ。隠していたけど、俺は天才って奴なんだ」
「宿題は間に合ったのか?」
二人で岸本を訝しんでいると、そこに眼鏡かけた男がやってきた。
確か、こいつの名前は南口明広(みなみぐち あきひろ)だったかな? 前の体育祭で絡んできた四人組の一人だったはずだ。
それにしても、今何か気になる言葉が聞こえたような····
「間に合ったってどういう事だ?」
「ん? ああ····昨日、岸本の野郎に宿題を見せて欲しいとせがまれてな、それで写させてやったんだよ」
俺達は一斉に岸本の方へ向く。
「結局写させて貰ってんじゃねえか····」
「いやいや、俺一人の力だから!」
「そういや、溝口とかには、話すなって言っていたな」
「天才····! ぷっ!」
「ちょっと、大野ちゃん? その煽りは俺に効く····! てか、南口くんさぁ! 言ったじゃん話すなって!」
「だって、お前嫌いだもん」
イケメンは死すべしと南口は語る。
「じゃあ、なんで見せてくれたんだよ!?」
「勘違いしてるところ悪いが、俺って実は馬鹿なんだ」
「は?」
ふと気になって、岸本のやってきたという宿題を見てみる。そこに書いている答えは殆ど間違えていた。
「本当だ····。間違いが多いな」
「ふっざけんな!」
そんな岸本を見て笑いながら去っていく。南口に、クズだなとしか感想が浮かばなかった。
「マジで間違ってんのかよ····」
「大丈夫だよ! 間違っててもやってきた事に間違いはないから!」
香織が岸本を励ましている。
てか、やってきた事に間違いはないって、お前ら二人とも写しただけだから?
俺がそう言うと、何処からかやってきた寝子も「うんうん」と頷いていた。
「よーし、席につけよー!」
暫くして先生が教室にやってきた。
「今日から、新学期だな。それと今から始業式があるから合図があったら向かうように、それが終わったらホームルーム。そして解散だ」
はーい! とクラスの皆が返事をして、始業式の時間まで待つことになった。
〇
それにしても眠たいな····ここの校長先生の話は長いと定評がある。前で並んでいる岸本も眠たそうにしている。
「これいつまで続くんだろうな?」
そう言って後ろに振り返る
「後、一時間は話してるかもな」
そう言うと、うへぇーと岸本が嫌そうな顔をする
「お前ら静かにしろよ」
げっ····先生がやってきた····
「えー、でも長くないすか?」
マジでそれな····!
「安心しろ、俺もそう思ってるから」
先生も同じ気持ちのようだ····。
〇
「いやー、それにしても校長先生の話は、いつも長いな!」
始業式を終えて教室に戻ると、先生が笑いながらそう話す。
「長い始業式を終えた後で、少し悪いが····今から少し長めのホームルームの時間になるからな」
えー! と抗議の声が聞こえてくる。
「まあまあ、落ち着け····今から話すのは文化祭についてだ」
さっきとは一転して、教室から歓声が響き渡る。
そう言えば、うちの学校の文化祭は、かなり力が入っていたな····去年は後夜祭があり、BBQやキャンプファイヤーをした。それにこんな七不思議も存在している。後夜祭の時に告白すれば末永く幸せにいられるなんていうロマンチックなものだ。
「文化祭って楽しいの?」
皆が歓声を上げているのを見て、香織が、そう問いかけてくる。
「色々な出店があるし、意外と何でもありな所があるからな」
何でもあり····? と香織が首を傾げていると、近くの席の岸本も会話に加わる
「去年はメイド喫茶とかもあったぞ」
「メイド服を着れるの!?」
キラキラとした目で驚く
「そうそう、近くのホンキーホーテとかで、衣装を買ってきたりしていたぜ」
「へぇー····晶くんのクラスは何かしたの?」
「俺のクラス? 確か····俺のクラスは普通の飲食店だったぞ」
「普通って?」
「ケバブを売っていたな」
「それって、おかしいと思うけど!?」
前のクラスの委員長が猛プッシュして、勝ち取ったケバブだが、今に思えば俺もおかしいと思う。
「おーい、そこ静かにしろよー」
「す、すいません!」
どうやら、話していたのを注意されたようだ。
「とりあえず、明日から空いた時間を使って文化祭の話があるから、皆も心して取り掛かるように!
それじゃあ、帰りの準備をしようか」
先生の号令を合図に帰りの挨拶が始まる。それにしても文化祭か····どこか波乱の予感がするが、一体どうなるのだろうか····
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