第29話 常夏の楽園

 玄関での一悶着を終えた俺達は、近くの市民プールにきていた。


「それじゃ、また後で」


「おう」


 俺達4人は水着に着替える為、更衣室の前で別々に別れる。



 〇



 夏休みだという事もあり、更衣室にも人が溢れて帰っている。俺は人混みを躱しながら、空いている場所を見つけて着替えを始めた 。

 すると岸本も俺の近くで空いている場所を見つけたようで、隣にやってきた。


「結構、筋肉ついてるな?」


 岸本が俺の体を見てそう話す。実は怪盗を始めた時に筋トレも一緒に始めたのである。


「最近筋トレに凝っててな」


「あの運動が苦手だった晶が筋トレか…」

 成長したな〜と続ける。


「お前も勉強を始めてみたらどうだ?」


 俺がそう言うとうへぇと顔を歪め、これ以上は話さないと言わんばかりに、そそくさと着替えて更衣室を出ていった。


「先に行くなよ!」


 着替えを済ませ、先に出ていった岸本を追いかける。


「俺は分が悪くなると逃げるからな、取扱には注意しろよ」


 随分と嫌な取説だな…


「それにしても女子はやっぱり遅いな〜」


「俺らは海パン履くだけだからな」


「確かにな」



 〇



「お待たせ!」


 俺と岸本が二人で待っていると 、着替えを済ませた香織達がやってきた。


「似合うかな?」


 俺の隣に来て、顔を赤らめながら香織が聞いてくる。


「似合ってるけど、かなり派手じゃないか?」


 確かにすごい似合ってはいるが、胸元が、ちょっとセクシーすぎるな、それに布面積がかなり少ない気がする。


「やっぱ、お姉ちゃんのを借りたのが不味かったかな?」


 大野さんの物なのか…と言うか、大野さんってこういう感じの水着を着るんだな。少し下世話になるが、変な妄想をしてしまいそうだ…

 すると香織は、俺の鼻を伸ばした顔を見て不快に思ったのか、頬をムッとさせて叫ぶ。


「エッチな顔してるー!」


 公共の場でなんて不名誉なことを叫ぶんだ!


「してない!してない!」


 必死に否定をするが 、周りの人にも今の言葉が聞こえていたようで、ヒソヒソと話し声が聞こえる…


「香織だけじゃなくて私の水着も見てよ」


 周りからの視線に気圧されていると、そんな事はお構い無しとばかりに軽くポーズを決めた寝子がやってきた。どうやら俺達からの感想を聞きたいようだ。


「残念だな、どこがとは言わないが」


「フリルとかがあるヤツの方が良かったんじゃないか?」


 要望に応えるために、岸本から俺へと感想を答えていく。


「じゃあ、このプールを血の海に変えよっか」


 ニコッという効果音が付きそうなほどの眩しい笑顔と、ドスの効いた声が響いた。


「嘘嘘!超似合ってます」


「そうそう!全体的にスラッとしていて…」


「晶はお仕置ね」


「今から褒めようとしたんだが!?」


 横で岸本が当たり前だと言いたそうな目で見る


「こんな所で留まってないで、早く泳ぎに行こうよ!」


 確かにここで集まっているのも迷惑だしな 、俺達は香織の提案に賛成して移動する事にした。



 〇



「まずは流れるプールからだな!」


「はしゃぎすぎだって!」


 岸本が「ひゃっほーい!」と叫びながらプールに突撃していく


「俺達も行くか」


「うん!」


 後に続いて流れるプールへ向かうことにした


「本当に水が流れてる!」


 香織が驚いて声を上げる


「初めてだったのか?」


「ビニールプールでしか遊んだことない!」


 そう言えば、プールの授業でも、水の深さにビックリしていたな


 つまりはプールに来るのが初めてという訳か、親の残した借金のせいで、青春時代は殆ど無かったんだなと考えてしまう。ちょっと、悲しい気持ちになる。


 俺はできるだけ優しい声で「それなら思う存分楽しまないとな」と言った。

 香織もその言葉を聞いて「うん!」と頷いて笑ったのだった。



「あれに乗りたい!」


 流れるプールに身を任せていると、香織が突然、空を指さした。どうやらウォータースライダーを指さしているようだ。しかも、あれは二人で乗れる奴である。


「寝子と乗ってきたらどうだ?」


 俺はラッコのような気持ちで、この流れに沿っていきたい気分だと言い訳をする。


「さっき思う存分楽しもうって言ったじゃん…あーあ、一緒に乗ってくれないなんて楽しい気分じゃないなー」


 こいつ、棒読みで言ってるな…!


「ねえ、私もあれに乗りたいんだけど」


 一体どこからやってきたんだ!?


「乗りたい者同士で乗るのはどうだ?」


「さっきのお仕置まだ決まって無かったよね?」


 ぐっ…! 痛い所を突いてきやがった


「ちょっと待ってよ! 私が先に乗るって話をしてたんだよ!」


「でも、私には約束があるけどね」


 二人の言い合いが、どんどんヒートアップしていく


「ちょっと、周りの目もあるから落ち着いた方が」


「じゃあ、晶が決めてよ」


「それなら私も文句はないね」


 二人の圧が強い、そして周りの人達からの舌打ちが凄い。


 ダメだ…俺には決めきれない。斯くなる上は…!


「ちょっと!?」


「どこに行くの!?」


 俺は流れに沿って全力で泳いで逃げることにした…



 〇



「そんな事があって、こっちに来た訳か」


 泳いで逃げていると、たまたまプールサイドの方で寛いでいる。岸本を見つけたので、俺も避難することにし、さっきまでの出来事を話していた。


「罪な男だなー、略して罪男だな」


「変なあだ名をつけるな!」


 俺のツッコミに悪い悪いと岸本が謝っている。すると岸本は何かに気づいたのか、ウォータースライダーの方へ指をさした。


「あれ、見てみろよ!」


「あれ?」


 目を向けるとそこには楽しそうにウォータースライダーの列に並ぶ二人の姿を見つけた。


「別に俺じゃなくても良かったのか…」


「まあまあ、俺達はここでゆっくりしてようぜ」


 そう言って、俺と岸本は楽しんでいる二人を眺める事にした。


 そして時は流れてお昼を過ぎた頃、遊び疲れた香織と寝子がこちらにやって来た。「もう疲れたー」や「ご飯食べに行かない?」と言うので、プールはお開きにしてお昼ご飯を食べて解散する事なった。



 〇



 あれから昼食を取って解散し、自宅に着いた頃、香織からメールが来た。『今日はとっても楽しかった!

 また遊ぼうね!』楽しんでくれていたようで何よりだ。


 寝子からも『今日は楽しかった。また誘ってね』と


 岸本からは『授業じゃないプールって最高だな! それと宿題は、また教えてくれよな!』と来ていた。


 俺は『こちらこそ楽しかった』と皆に返事をして、ベッドに寝転がる。


 高校生活最後の夏休みか〜、残り二週間しかないが思い出は、まだまだ作れるな!

 そう思っているとプールで遊び疲れたのか睡魔がやってきた。


(夏休みの事はまた後で…)


 そう考えているうちに眠ってしまっていたらしく気がつくと夜中になっていた。

 俺は携帯に来ていた香織からの『おやすみー!』というメールに返事をして、また眠りにつくのだった。

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