第28話 ハプニング

「あー!腹減った!」


 気がつくと時刻は18時に差し掛かっていた。随分と宿題に夢中になっていたんだな····


「そう言えば、晶の親は居ねえの?」


 泊まるとは思っていなかったから、皆には話してなかったな。


「今日から明後日にかけて旅行に行ってる」


「仲良いんだ」


「いつも新婚みたいな雰囲気を漂わしてるくらいには」


「すっごい仲良し!」


 香織が驚いたような声を上げる。


「その話は置いといて! 夕飯どうするよ!」


 余程お腹が空いたのか、俺達の話を遮るように、岸本は机を叩いて大声で話す。


「なら、どっかに食べに行くか?」


 回転寿司はどうだ? と聞いてみると 皆から同意の声が聞こえる。


「友達と外食なんて初めて!」


 おいおい、悲しいことを言うなよ…その話を聞いた瞬間、寝子が即座に香織にハグをして「これからは沢山食べに行こうね」と話していた。



 〇



 先程のやり取りを終え、無事、回転寿司を食べ終えた俺達は帰路に着いていた。


「そう言えば、着替えとか持ってきてないから、今から取りに行ってもいい?」


「私も!」


 そう言えば、岸本は泊まる前提で服とかを持ってきていたが、二人は持ってきてなかったな。


 俺がそう考えていると、突然岸本が何かを二人の耳元で話していた。それを聞いた寝子は顔を赤らめ、香織はやる気になっていた。


「何を話してるんだ?」


「あー、それは内緒だ!」

 明日のお楽しみと続ける。


 一体何の話をしてたんだ…? その疑問が尽きないまま、俺と岸本は先に家に向かうのだった。


 〇


「いやー、食った食った!」


 家に着くと直ぐに人のベッドで横になりやがった…!


「椅子に座れよ…」


 それに対して「気にすんなって」と言う岸本に、俺がすかさず「ふざけんな」と返すと、二人の間で小さな笑いが起こった。


 こんなやり取りをして内に、泊まりの準備を終えた香織と寝子が家にやってきた。


「今更だけどさ、どうやって寝るつもり?」


 確かに····俺の部屋は流石に男女4人では眠れないし、勝手に親の部屋を使うのも良くないよな?


 一つ提案があるとするなら、俺と岸本がリビングで寝て、後の二人は俺の部屋で寝るのがいいか…? 俺はその提案を伝える。


「別に私達がリビングでもいいよ」


 ね、と香織にも同意を求める。すると香織もそれで良いのか、家主が部屋で寝るべきだよ!と言う。

 リビングで寝るとなると、疲れが溜まりそうだし、出来れば女子にベッドを使ってもらいたいが····俺がそう考えているとさっきまで静観していた。、岸本が口を開く。


「よく考えてみるとさ、男が使ってたベッドって何か嫌じゃね?」


 確かにそうだ…! 洗濯をしているとはいえ、うら若き乙女に男の寝ていたベッドを進めるなんて、酷い話だ

 とは言え、その事実は割と凹むが…


「晶のベッド…」

「晶くんのベッド…」


 二人して何かを考えていたのか、突然顔を赤らめて俺の肩を掴む。


「やっぱり、ベッドでいいよ」


「うんうん!流石にリビングだと疲れちゃうし!」


 急な手のひら返しだな!? 一体なんでだ? と岸本に聞いてみたが、自分で考えろと言われてしまった。考えても分からないから聞いてるんだが····?


「よし!それじゃあ、俺と晶はリビングで雑魚寝だな!」


「まあ、それが妥当かな」


 寝る場所も決まったので、俺達は近くの銭湯に向かい。明日に備えて眠るのだった····


 〇


「という訳で、昨日話した通り今日はプールに行くぞ!」


「そんな話を俺は聞いてないんだが?」


 朝起きてすぐに岸本からそう聞かされる。もしかして、外食の帰り際に耳元で話していた事か? 俺がそう問いかけると、そうだ!と元気よく返事する。

 いや、教えろよ!と叫びたくなる気持ちもあったが、まだ朝なので抑えることにした。


「ほら、晶も用意しないと」


 何処からか既に準備を済ませた、寝子がやってきた。


「ちょっと待て、今から部屋に行くから」


 俺が階段を駆け上がると、後ろから寝子の制止の声が聞こえたような気がする····多分気のせいだよな?

 そして俺は部屋に着きドアを開けると、そこには、現在進行形で着替えを行っている香織の姿があった…俺は咄嗟にやばいと思い扉を閉めようとしたが、目の前の絶景に思うように体が動かず、目線が釘付けになってしまう。すると、「いつまで見てるの!?」と叫び

 香織が俺に向かって何かを投げてきた。


 これは、殺傷力の高い枕だな…いや正確には、ただの枕だが 、その速度が優に人の出せる域を超えている。俺は避け切ることができずモロに、その枕を食らってしまった。当然枕から出たとは思えない、鈍い音を上げて腹に直撃し俺は後方へと吹き飛んだ。流石に香織もやり過ぎたと思ったのか、直ぐに着替えて、俺に大丈夫かと声をかけに来たが、これは俺の自業自得のため、甘んじて受ける罰だな。俺はそこで意識を失った…


「あれ…ここは」


 俺が目を覚ますと、1階のリビングで眠っていた。周りを見渡してみると、そこには苦笑いをしている岸本がいた。


「やっと起きたか?」


 さっきまでのは夢だったのだろうか、なら良かった。俺は岸本に、今朝は素晴らしい夢を見たと言うと、岸本は後ろを指をさした。そこには、香織と寝子が立っていた。


「反省してないみたいだね」


「ほら、正座して」


 どうやら、夢ではなかったらしい…


 〇


 無事に説教を終えた俺は、プールに行く為の準備を済ませ、玄関へと向かっていた。


「さっきはすまなかった」


 俺は前を歩く香織に謝る。


「別にいい」とやれやれと言いたそうな仕草で呟く。


「あー、でも、そのなんだ…お前も女の子だもんな」


「喧嘩売ってるのかな?」


 何か慰めるべきかと思い声をかけたが、ここで俺のデリカシーの無さが発揮されてしまった。


「そういう意味じゃなくてだな! その、き…綺麗だったって意味で言った訳で」


 いやいや、俺は何を口走ってるんだ! 流石に変な事を言い過ぎたと思い。悪いと更に謝るが、俺のその発言を聞いた香織は、少し顔を赤らめて言う。


「き、綺麗とか… 軽々しく言っちゃダメだよ…!」


 恥ずかしそうに語る。その姿に、悶絶しそうになるが何とか抑える。


 確かに今の発言は軽率だった…!


 また謝りそうになるが、香織から、謝るの禁止!と言われ、お互いに今回の事は忘れる事にした。

 その話を終えた後、俺達の後ろで「甘々や」と呟く。岸本に気づいて二人して飛び上がったのは、また別のお話である。

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