第27話 お泊まり会

「後は丘咲ちゃんだけかー」


「約束の時間に遅れるなんて珍しいよね」


 約束した通り、後日宿題をする事になり、先に着いた岸本と香織は寛ぎながら、遅れている寝子を待っている。


「てか、大野ちゃんも誘われてたんだ」


「私だって、岸本くんが居るのは初耳だよ」


 そう言えば、誰が来るとかは話していなかったな····

 俺がやっちまったか?と考えていると、家のチャイムがなった。


「多分寝子だろうから、行ってくる」


「「いってらー」」


 本当に寛いでんなこいつら····


 〇


「いらっしゃい」


「あ、うん、お邪魔します」


 少し緊張しているのか、ぎこちない動作で靴を脱ぐ。


「今日はありがとね。誘ってもらって」


「皆でやった方が早く進むからな」


「皆…?」


「え?」


「え?」


 俺と寝子は交互に顔を見合わせる


「えっと、他に誰かいるの?」


「香織と岸本がいるけど」


 誰がいるのかを聞くと、寝子が深いため息を吐いた。


「緊張して損した····」


「緊張····?」


「何でも無い····! てか、早く部屋まで案内して!」


 早く早くと捲したてる姿に急かされ、言われた通り部屋まで案内する。


「それじゃあ、俺は飲み物とか取ってくるから」


 俺がそう言うと、岸本から順番に飲みたいものが上がっていく。


「俺はコーラでよろしく」


「私もコーラがいい!」


「私は何でもいいよ」


 じゃあ、全員コーラでいいか



 〇



「そう言えば、何か残念そうにしてたよなー?」


 晶が去った後、岸本が寝子に話しかけていた。


「別に残念がってないけど」


「いやいや、俺は残念がってたと思うけどなー!」


 大野ちゃんもそう思うだろ? と同意を求める。


「確かにそうかも…?」


「だから、違うって…!」


「あれか? もしかして、誰がいるとかメールで来てなかったから、二人っきりと勘違いしたとか?」


「……」


 図星だったのか、顔を赤らめて無言で俯く寝子に、岸本が、更に追い打ちをかける。


「ほーん? 丘咲ちゃんは意外と乙女だな〜」


「……」


 無言で立ち上がる寝子に何かを感じ取ったのか、その場から香織が退散していた。しかし、それに気づかない岸本は、更にからかう様な発言をする。


「もしかしてさ、あいつの事が好きだっ「死ね!!」ぶへっ!?」


 岸本が話終える前に、寝子の回し蹴りが顔に当たったようだ。


 大きな音を聞きつけ、慌てて部屋のドアの開けた。晶の目の前には伸びている岸本と恐怖に怯えるように肩を抱いている香織、そして顔を真っ赤にして息を切らしている寝子がいた。


 その光景を見て心の底から晶は思った。一体何があったんだ…?と。



 〇



「大丈夫か…?」


 俺はさっきまで伸びていた岸本に話しかける。


「割と痛かった」


「ごめん、強く蹴りすぎたかも」


「本当にな!反省しろよー!」


 そう抗議する姿に、寝子が目を細める。


「やっぱり、もっと強くても良かったかも」


「嘘嘘! 俺が悪いんです!」


 本当に何があったんだと思い、部屋の隅で震えている香織に声をかける。


「何があったんだ?」


「私は何も知らないよ」


 明後日の方向を向いて話す姿に確信する。これ以上は触れたらヤバい奴だなと。


「取り敢えず、早く宿題しない?」


「姉御の言う通りだぞ」


 いつの間に舎弟になったんだお前は、まあ、本来の目的は宿題だったので、俺もそれに同意してテーブルの上に宿題を広げる。


「もう終わりかけ…?」

 俺の宿題を見て香織が呟く


「俺は夏休みに入った時から遊ばずに頑張ってたからな」


「真面目だ…!」


「晶は友達少ないから、遊ぶ機会が無かったんだな」


「追い出すぞ岸本」


 俺の傷をエグるように的確な口撃を打ち込んできやがった。


「ちなみに私も、もう終わるけど」


「マジか····俺はまだ少ししかやってねえ····」


 少しでもやってるだけ、まだいいほうな気がするが····


「甘いね!私はまだ手もつけてないよ!」


 それは自慢することじゃないでしょ! 寝子もそれは思ったようで、香織にツッコム。


「と、取り敢えず、やれるだけやってみようか!」


「そうそう、何なら俺今日泊まるからよろしくな!」


 岸本は寝間着も持ってきたと笑う。用意周到過ぎないか? 別にいいけどさ…


「じゃあ私も泊まろうかな?」


「流石に女の子が泊まるのは…」


「何? 何か問題あるわけ?」


「いや別にないです」


 圧が怖い!


「寝子ちゃんが泊まるなら私も泊まる!」


 それに便乗して香織も泊まると言い始めた。


「じゃあさ!今日中に宿題を結構進めて、明日は皆で遊びに行こうぜ!」


「岸本の癖にいい事言うじゃん」


「癖にって酷くない!?」


 確かに岸本の癖にいい事を言ったな…でも本来の目的は宿題だから、条件でも付けてやる気をあげるか。


「せめて、半分以上は終わってからな」


「頑張るね!」


「俺もだ!」


 上手くやる気になってくれたようだ。香織は前回のテストで分かった通り、やればできる子なので、傍について教えるか、俺はそう考えて香織の横に座る。


「え?私も一緒がいいんだけど…」と、ボソッと寝子が呟いた。


「ん?なんか言ったか?」


「あっ、いや別に…」


「寝子ちゃんも一緒に宿題する?」


「やろうかな」と嬉しそうに寝子が言おうとすると、突然、岸本が割り込んできた。


「晶が大野ちゃんを教えるなら、丘咲ちゃんは、俺を教えてくれよな!」


 その提案を受けた寝子は笑いながら言った。


「分かった…じゃあ、死ぬ気で教えてあげるね」


「え?」


 どうやら、岸本は龍の尾を踏んだらしい。俺と香織は、その理不尽なやり取りを見て、静かに黙祷をし宿題を再開するのだった。

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