第26話 帰国
ホテルに着くと、もう情報屋は帰っていたようで、香織の部屋に通される。
「どうでしたか?」
一応心配だったので聞いてみたが、表情を見ると分かるが杞憂のようだ。
「大勝利よ」
ブイサインをしながら大野さんが笑う。
そんな中、香織は静かだなと思い、部屋の奥に目を向ける。どうやら、テーブルの上で山積みにされている札束に脳をショートさせているようだ。
「あれほどの大金なんて初めてだから、私も最初はああなったわ」
「俺も同じ気持ちです」
「さて、今から取り分の話しになるわ」
幾つかの札束を持ってくる。
「均等に300でどうかしら?」
「ちょっと多すぎません?」
学生が持つとなると、少し心配になる金額だ。
「なら、幾らが良いのかしら?」
難しい質問だな…早く借金が払い終えれるのなら、全部向こうに持って言ってもらいたいのが正直な気持ちではあるが、流石に貰わないと悪い気もする。
前回は絶対に渡すと言うオーラが凄かったし、今回も断ることはできないだろう。
「前回と同じで50万でいいですか?」
若い内から大金を手にし過ぎると金銭感覚が可笑しくなりそうだからな····
「そう····なら100万円ね」
「え?」
「前回渡した50万円を今回使ったでしょう?」
それぐらいは返すと大野さんが続ける。
「分かりました…」
金銭のやり取りを終えると香織も、こちらにやってきた。
「今回は晶くん様々だね」
「確かにな」
ここで謙遜してもいい事は無いので 素直に応じておく。
「それで、明日は何する?」
そう言えば、3泊4日の旅だったな····
「あー、確かに」
「観光したらいいじゃない?」
「何か忘れているような?」
かくゆう俺も何か忘れている気がする····香織は思い出したのか「あっ!」と声を上げて手を叩く。
「まだ、寝子ちゃん達はハワイにいるよね···」
そう言えばそうだった····! しかも俺達は一時の言い訳の為か、今日帰る予定だと話してしまっていたはずだ。
「もしかして残りの二日間····」
「ホテルで過ごすしかないね····」
どうやら、俺達のハワイでの思い出作りは、今日で終わりらしい····
〇
「だから、ずっとホテルに居たのね」
あれから一度もホテルから出ることなく、帰国の日を迎えた。
「今から飛行機かー」
「もう少し遊びたかったよね」
「せっかくハワイに来ていたのだから、そんなこと気にせずに遊べばよかったじゃない」
大野さんが勿体ないわねと言う。
「そんなこと言うけど、お姉ちゃんだってずっと部屋に居たじゃん!」
「私はインドア派なのよ」
この人、ホテルに居るだけでご飯も食べられるとか最高ねーとか言っていたな····
今回の旅行をきっかけに大野さんに対する認識が、少しだけ変わった気がする。以前までは大人のお姉さんでしっかり者って感じだったが、今はめんどくさがり屋でプライベートでは適当というイメージが俺の中で定着してしまっている。
俺は、そんな怠けな大野さんを、できるだけ優しい目で見る。
「何か馬鹿にしてる様な目ね」
「いえいえ、滅相もない」
「その発言が馬鹿にしてるって言うのよ。あーあ、そんな失礼な態度を取るんだったら、ハワイで会ったって言う丘咲さんに嘘ついたって言っちゃおうかしら。
以前、見学に来てくれた時に顔とか覚えちゃったのよねー」
大人気のないお姉さんだ····!流石の脅し文句に、俺はすかさず謝る。
「それはダサいよ、お姉ちゃん····」
香織の呟いた言葉が列を並ぶ俺の耳によく響いた。
〇
「また遊びに行こうね!」
無事に日本に着いた俺は、大野さんの車に揺られ家の近くの公園で降りる事になった。
「予定が無ければな」
お互いに手を振りあって別れる。まだ夏休みは始まったばかりだな····と、香織と別れ家に着くと、早速一通のメールが来ていた。
俺はそれを確認すると、自然とため息が零れてしまった。
『宿題が全く分からないから教えてくれー!』
どうやら岸本からのメールのようだ。適当な返事をして断ろうかと迷っていると、もう一通、誰かから送られてきた····
『宿題全然やってなかった····! お願い教えてー!!』
これは香織からのようだ。さっき別れたばっかりなのに直ぐに話す事になるとはな····
まあ、香織だけに教えて岸本に教えないというのは、酷な話なので、岸本と香織、そして次いでに勉強もできて、ツッコミも担当してくれる丘咲にもメールを送っておいた。
『明日、俺の家で一緒に宿題でもしないか?』····と
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