第25話 成功か失敗か
ビルの中に入って暫くすると、大野さんからメールで写真が送られてきた。どうやら、ペンダントの写真らしい。
こんな事を言うと失礼になるが、思っていたより、みすぼらしく感じる。ダイヤモンド自体は煌びやかに見えるが、それを留めているチェーンの部分は年季が入っているのか、少し錆びが混じっていて燻んで見える。 写真を香織にも共有して、同じようなネックレスをした人がいないか、二手に分かれて探すことにした。
〇
周りを見渡しながら歩いていると、遠くに困ったようにあたふたしている香織が見えた。どうやら、ナンパをされているようだ。
俺は止めに入ろうと近付いた。するとそれに気付いた香織が、俺の元へ逃げてきた。ナンパをしていた男もこちらに気付いたようで、近づいてくる。
ん? よく見てみると男の首元には俺達が見た年季の入ったとは言い難いが、ピンク色の宝石がついたペンダントがぶら下がっている。
どうやら、俺達が探していたコルト・ウォーリーとは、この人のようだ。
「もしかしてこちらの女性の知り合いかな?」
「私の妻です」
日本語が堪能のようだ。片言だが流暢に話す姿に驚く。
「それは失礼。綺麗な人だと思い、つい声をかけてしまった」
「だ、大丈夫です…!」
綺麗と言われて照れているのか、少し緊張しながら香織が返事をする。
「名前を名乗っていなかったね。私はコルト・ウォーリー、コルトで構わないよ」
「私の名前は…」
名前を告ようとする前に「お互いにパーティーを楽しもうじゃないか」と口を挟んできた。
そして矢継ぎ早に話したいことだけを告げると「それでは私は失礼して」と立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってください」
「はい?」
俺はこれから去ろうとしている。コルトを引き止める。
「そのペンダント····」
「おや? これの素晴らしさが分かりますか? 実はとあるオークションで落札しましてね。」
「ああ、あのオークションですか····」
「もしかして、あなたもあのオークションの参加者だったのかい?」
「ええ」
もちろん嘘である。俺はオークションなんて知らないし行ったこともない。
「ダーリンはオークションに行った事があるの?」
「君にあのペンダントを贈りたくてね。しかし、残念ながら落札はできなかったんだ」
即興だが上手くできたと思う。
「なるほど·····それでこのペンダントの事を聞いたという訳か」
「それもありますが 、その以前見た時とは違うような気がしましてね」
「本当に参加者のようだね」
「失礼ながらお聞きしたいのですが、宝石以外の部分は?」
「アレはどうも年季が入っていたようで、流石に綺麗な宝石には綺麗な物を合わせたいと思ってね。今はお守りとして持ち歩いているよ。」
「お守りですか····?」
つまりは交渉の余地があるということか? ここで俺は考えていた作戦を実行する。ここで作戦を説明しておこうと思う。
ピンク色のダイヤモンドなんて、あまり聞いたことがない話なので、価値が高いのは分かっていた。そこで俺はピンク色のダイヤモンドに合うチェーンを探して、ハワイの宝石店に足を運んでいたのだ。
もちろん、コルト・ウォーリーが、ペンダントその物を大切としているのなら、この作戦は破綻するが、一つの作戦として準備をしておいた。
この作戦が失敗なら別の方法として怪盗らしく奪う事も考えていたが、平和的に解決できるのならそれに越したことは無いので実行に移す。
「もしよければ、そのチェーンを譲ってもらう事は可能ですか?」
「譲るだって?」
「もちろんタダでとは言いません。実は私はチェーンが好きで集めているのですよ。
確かにそれは少し年季が入っていますが、ビンテージ品と思えば美しいと思いましてね」
そう言うとコルト・ウォーリーは「変わった趣味だね」と苦笑いをする。
「もちろん、譲るのは構わないが、それで君は私に何もくれるのかな?」
俺は持ち歩いていたカバンから、箱を取り出す。
「この中から一つお譲りします」
「これは…!」
箱の中には、10数個のペンダントのチェーンが並んでいた。ハワイの高級なお店に頭を下げ、一つだけ売って貰い後は返すという約束をし非売品だったが借りた物だ。先払いで前回貰った50万円を換金し渡したので快く応じてくれた。
そしてコルトは箱の中をじっくりと眺めて、指をさした。
「これはどうだろうか?」
コルトが指さしたのは宝石が埋め込まれたチェーンだ。
「こちらですね」
手袋を付けて取り出す
「もちろん大丈夫です」
一番高いと思われる物を選んだな…と、俺は心の中で呟く。
「それは良かった。なら、これを君に」
そう言ってコルトもポケットから手袋を取り出しお守りと称していた目的の物を取り出す。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
最後はお互いに握手をして立ち去る。するとさっきまで静かにしていた香織が話し始めた。
「これでミッションは完了かな?」
「そうなるな」
それにしても随分とあっさりと言ったな····少し肩透かしを食らったような気がする。しかし、まあ何事もなく無事に回収できた事は良しとするべきだろう。
俺は携帯を取りだして大野さんにメールを送る。
『無事に目的の物を手に入れました』
『入口で待っているから、直ぐに戻ってきなさい』
「直ぐに戻ってこいだってさ」
「分かった!」
〇
「中々早かったのね」
「たまたま、香織をナンパした人がコルト・ウォーリーでしたので」
「よくナンパされるわね」
「まあ!私は可愛いからね!」
そう言って胸を張る香織を大野さんが鼻で笑う。
「今のはどういう意味!?」
「中身に品は無いもんな」
「ちょっと晶くんは黙ってようか!」
軽い小競り合いをしていると、大野さんが口を開く。
「私はホテルの方に戻って、あの情報屋に会ってくるわ」
後は自由にしておきなさいと言って、足早にホテルへ向かっていった。
「さて、俺はこのチェーン達を返しに行ってくるか」
「あっ、私も一緒に行っていい?」
とりあえず、二人でお店に向かうことにした。
〇
「ふふふーん♪」
横を歩く香織から鼻歌が聞こえてくる。その指には綺麗な宝石があしらわれた指輪が付けられていた。
「本当に、貰っていいの?」
「俺は指輪とか付けないからな」
少し過去に遡ること十数分前····
お店に着くと、店員が直ぐにこちらへ向かってきた。俺はその店員に借りていた物を返したのだが、そこにすぐさま店長が出てきて。「50万も貰ったのだから、何かサービスしてあげなさい」といい。一つだけ無料で提供してくれる事となった 。
どれがいいのか分からず、適当に目に付いた指輪を選んだのだが、俺はアクセサリーとか付けないので香織にプレゼントし今に至る。
よく考えたら、この指輪って日本円で30万近くしていたよな。流石に高すぎたか?とも思ったが店長は、またご贔屓にと笑顔を浮かべていた 。多分だが、俺をお金持ちだと勘違いしたのだろう。悲しい事に今回し支払った50万で全てなのに····
「これって結婚指輪みたいだよね!」
香織の唐突な言葉に俺はむせてしまった。結婚指輪って一体何を言ってるんだ?
「変な冗談はやめてくれ····」
「ごめんごめん!」
そう笑い、香織は先々と前を歩いてく、数メートル離れた位置で咄嗟に振り返り何かを言った。
「私は…でもいいよ…」
タイミングよく車が横を通り、何を言ったのか聞こえなかったので、俺は何を言ったのかを聞いてみたが、そこの立っていた香織の顔は赤くなっていて何でもないとはにかみ、先にホテルに行ってるねと言い走り去っていった。
その姿を見て俺は何か大切なことだったのか? と考えながら首を傾げ、ホテルへと足を運んだ
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