第22話 ハワイ旅行
無事に夏休みを迎えることができた。香織と俺はハワイ旅行(怪盗)のため、飛行機に乗っていた。
「海外旅行なんて初めてだよ」
「それは俺も」
「向こうに着いたら、自由に遊ぶといいわ」
「いいんですか?」
「ええ、日時については着いてから話すとして、それ以外の滞在期間は遊ぶなり買い物するなりしてくれて構わないわ」
3泊4日の旅行と聞いていたので、純粋に楽しみな気持ちになる。
「向こうに着いたら先ずは海を見ないとね!」
「ちょうど夕方頃に着くらしいから、夕日に照らされた綺麗な海が見えるんだろうなぁ」
俺と香織はだらしない顔をしながら、ハワイへの想いを語る。
「ホテルへのチェックインも私がしておくから自由に行動してもいいわよ」
感謝の念を込めて、俺は大野さんに頭を下げるのだった。
〇
「着いたー!」
香織が両手を上げてはしゃいでいる。
「それじゃあ、私はホテルの方に先に行っておくわね。印をした地図を渡しておくから後で来てちょうだい」
「分かりました」
はしゃいでいる香織に声をかける。
「先ずは海にでも行くか」
「待ってよー!」
慌てて走ってくる香織の足音を背に、海が見える所まで歩いていく。
「綺麗な街並みだね」
「日本じゃお目にかかれないよな」
「うん」
「夕飯は何だろうか、せっかくの旅行だから、普段食べれない物を食べてみたいな、香織もそう思わないか?」
「…」
返事がない。俺は気になって後ろを振り向くと、香織は足を止めて左側を見ている。それにつられて俺も左側を見てみると、そこにある綺麗な光景に目を奪われた。
「凄く綺麗な景色だね····」
香織が呟くように言う。
俺達の目の前には夕日に反射して宝石のようにキラキラと輝く海が見えていた。
「この景色だけで、ここに来た価値があるのかもな」
「本当だね。一番のお宝はこの景色なのかも」
お互いに詩人のような感じで話してしまい。顔が赤くなるのを感じる。
「そろそろホテルの方へ行かないか!」
「そ、そうだね!」
羞恥心からか大きくなった声で話し合い、俺達は大野さんが用意してくれたホテルに行くことにした。
〇
「随分早かったわね?」
「景色は見れたので」
「そうそう! お姉ちゃんにも見せたかったよ」
「なら良かったわ。それはそうと、部屋は二部屋取っておいたから、私と香織、そして溝口くん一人になるわ」
「えー、別に晶くんも一緒でもよくない?」
「よくねーよ!」
危機感がないのかお前は!?
「もちろん、溝口くんが一緒がいいって言うならやぶさかでは無いわよ?」
「いえいえ!一人でいいですから!」
色々な意味で眠れない夜になってしまう!
「それは残念ね。それに、いつまでもホールで話していたら迷惑なるわ、早く部屋に向かいましょう」
後で話すことがあるからと大野さんは言う。
「話す事って何かありましたっけ?」
俺は部屋に向かう途中に気になったので聞いてみる。すると大野さんは呆れたようにため息を吐いて話す。
「遊ぶのもいいけれど、目的を忘れないようにね」
「そう言えば、かい…」
俺がそう言い終える前に口を塞がれる
「どこに目があるか分からないから、話はまた後でよ」
「す、すいません!」
そう言えば、まだここは廊下だったな…
「しっかりしなきゃダメだよ!」
香織がからかうように笑う。
「香織に言われると何か腹が立つな」
「何で!?」
「それは私も同意よ」
「お姉ちゃんまで酷い!」
香織のお陰か、さっきまでの緊迫した雰囲気はなくなり、軽く雑談を交えながら部屋に向かう。
「それと、今日は私の知り合いが部屋を訪ねてくるわ
念の為、香織と溝口くんは隣の部屋で話を聞いておいてね」
そう言って大野さんはイヤホンを取り出す。
「これを耳に入れておけば私達の会話が聞こえるようになるわ」
「分かりました」
「それじゃあ、私がいいって言うまでは、横の部屋にいてね。もちろん、鍵はかけておくのよ」
俺と香織は、その言葉に頷いて、隣の部屋に入ることにした。
〇
「あら、いらっしゃい」
大野さんの声がイヤホン越しに聞こえてくる。
「少し早く到着したが良かったか?」
少しこもった低い男性の声が聞こえてくる。
「別に問題ないわ」
「そうか、ならよかった」
「それじゃあ仕事の話に移りましょうか」
「ああ····今日、俺が来たのはフランスに在住している。アドリード家の当主からの依頼についての再確認だ」
「確かピンク色のダイヤモンドが付いたペンダントを探して欲しいだったかしら?」
「そうだ。そしてそれが、このハワイにあるアロヒホテルで行われるパーティーの参加者、コルト・ウォーリーが持っていることが分かった。
どうやら盗品として盗まれていたものが、一般のオークションに流出し、それをコルトが落札したようだ。物に関してだが、宝石と言うよりはペンダントのチェーンが必要らしい」
「宝石が要らないなんて珍しいわね」
「それ自体が母親の形見らしい」
「そうなのね。それと報酬に関してなのだけれど」
「俺の仲介料から差し引いて1000万は振り込もう。以前と変わらず受ける気はあるか?」
1000万だと····?とんでもない額だな····
「ええ、もちろん受けるわ」
「それと、ここに怪盗とやらはいないのか?」
「あなたみたいな情報屋に見せるのは癪だから今日はいないわ」
「手厳しいな····まあ、俺は仕事をしてくれれば何でもいいさ」
しばらく経った後、廊下からガチャっとドアを開ける音がした。
「もう行っていいのかな?」
「鉢合わせする可能性も有り得そうだから、時間を置いた方がいいかもな」
「分かった!」
それから暫く待っていると、大野さんが部屋の前にいるとイヤホン越しに話してきた。
「お疲れ様です」
「大体の話は分かったからしら?」
「ある程度は····ですけど」
それなら大丈夫そうねと大野さんが言う。
「それで、明日の夜開催されるパーティーにあなた達二人で参加してもらうわ」
「招待状がないと入れないっぽくないですか?」
「それは安心してちょうだい。何故なら二人は新婚の夫婦として招待されたお金持ちという事になっているわ」
「私達が夫婦····?」
香織の疑問符を浮かべながら固まる。それに仮に夫婦として入るとしても、肝心の招待状の有無が解決していない気がするが····
「さっきの情報屋が参加用のチケットを用意してくれてるわ。とあるお金持ちから買収したそうよ」
「なるほど、つまりはそのお金持ちが若い夫婦として参加する予定だったから、そのフリをしろって事ですね」
「正解よ」
「私達が夫婦····?」
「いつまで同じ事を繰り返してるんだ?」
「私達が夫婦····?」
ダメだ相当ショックを受けたのか、同じことを繰り返す壊れたロボットのようになっている。
「そんなにショックなのか?」
「はっ! べ、別にそんなんじゃないよ! ただ、その恥ずかしいというか、き····緊張するというか!」
香織が顔を赤くして俯きながら答える。そんな仕草を見てしまうと俺まで恥ずかしくなってしまう·····
「今のうちに夫婦の練習とかも必要かな!?」
「仮初の夫婦だから大丈夫だよ!多分····」
「でも、愛称とかも決めないと! ダ····ダーリンとか!」
「やめろ!こっちだって恥ずかしくなるだろ!」
「あらあら」と嬉しそうに大野さんが笑う
「私は部屋に戻るから! 晶くんは勝手に入ってきたらダメだよ!」
「流石に入らねえよ····!」
俺がそう言い終える前に香織は慌ただしく部屋に戻っていった
「いいものを見させてもらったわ」
「からかわないでくださいよ」
「別にからかっていないわ。それと香織のことよろしくね」
真剣な顔で言われると返事に困る…俺は赤くなった顔を隠すように後ろを向いて「分かってます」と答えた。
「それならよかったわ。それと夕食はルームサービスを呼んで食べてちょうだい」
料金はここに置いておくわねと言って部屋を出ていく。
それにしても、さっきの香織の反応、あいつも意外と恥ずかしがり屋なんだな。そうな風に考えながら、俺は料理を注文する事にした。
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