第21話 テストの行方はいかに?
「それでテストは上手く行きそうか?」
テスト勉強から一週間が経ち、ついにテスト当日がやって来た。緊張しているのか、香織の顔は険しく強ばっていた。
「多分何とかなるはず····!」
「随分弱気だな」
俺達が話していると、近くに岸本もやってきたようだ。
「やべえよ····」
普段の陽気さと違いどんよりとした空気を纏っているる····その姿に俺は驚きつつどうしたのかと問いかける。
「昨日テストの勉強をする予定だったんだが、思いの外、ゲームが楽しくて全然勉強できなかった」
「それは自業自得だろ」
「そんな事言うなよー」と涙目に肩を組んでくる。
「分かった分かった! 今からちょっと勉強教えるから離れろ」
「サンキュー!」
そう言って笑い教科書を開く。またそれにつられたのか香織や他のクラスメイトも俺の元に集まってきて、一種の勉強会のようになってしまった。
「よーし、テストの準備をするから席につけよーって、人気者じゃないか」
クラスにやってきた先生が俺を見て嬉しそうに笑う。
「勉強会的な事をやっていて····」
「まあ、仲がいいことで何よりだな、それはそうとして早く席につけよー!」
先生が声を上げると、俺の周りにいたクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように席に戻って行った。
前の体育祭以降、噂を気にせずに仲良くしてくれるクラスメイトが増えたので、何だか嬉しい気持ちになる····が、そんな気持ちは置いといて、今は気持ちを切り替えテストに勤しむことにする。
〇
「だー!上手くいった気がしねえー」
岸本が俺の机に項垂れている。
「昨日勉強しなかったにしても。ここ一週間は一緒に勉強してきただろ?」
「確かにそれもそうだよな····」
元気出たー!と立ち上がり自分の席で帰る準備をし始める。
「それよりも香織はどうだったんだ?」
「もう二人のおかげで100点満点だよ!」
「不安になるようなことを言うなよ」
「どこが不安に聞こえるの!?」
「その自信だよ」
俺がそう言うと「そんなに信用がないのかな」と落ち込む。
「大丈夫、ちゃんと点数は取れてると思うよ」
帰る準備を終えたのか鞄を抱えた寝子がやってきた。
「寝子ちゃん! やっぱり晶くん何かとは違って優しいね!」
何かとは何だ。
「香織は頑張ったんだし受かってると思うよ」
少し恥ずかしいが俺も労いの言葉をかけておこうと思い口にする。
「今何か言った?」
「ごめんね聞こえなかった」と香織が謝る。どうやら俺の声は周りの喧騒にかき消されてしまったらしい。まあ、恥ずかしいセリフなのでわざわざもう一度言う必要も無いだろう。
「受かってたらいいなって言ったんだよ」
「そうだよね!」
〇
そしてテスト返却日、結果によっては夏休みが消える可能性があるので、いつもとは違ってクラスメイトの顔は強ばって見える。
「それじゃあ、テストを返却するから名前を言ったら取りに来いよ」
順番ずつ名前が呼ばれていく····呼ばれる順番は席順のようだ。最初に呼ばれたのは丘咲だが、表情を見る感じだと余裕そうに見えるので心配の必要はなさそうだな。そう考えているうちに名前は呼ばれていき、岸本の番が来たようだ。緊張しているのかぎこちない動作で受け取りに行く。
「よっしゃあ!」
この声を聞く限りだと、どうやら赤点は回避したらしい。
「見てくれよ晶! ギリギリ赤点は二つだ!」
「本当にギリギリだな」
危なすぎるなと思い。それと同時に香織に対しても不安が募っていく俺がそう思っているように、香織も緊張しているのか顔を青くさせている。
「溝口」
どうやら俺の順番のようだ。俺はテストを受け取り順位に目を通す。少し順位は下がってしまっていたが、それでも学年上位には留まっている。そして席順なら俺の後ろは香織…
「大野」
「ひゃい!」
どうやら緊張のあまり噛んでしまったらしい。顔を赤らめてテストを取りに行く。周りのクラスメイトたちも、その姿を見て「可愛い」というから、余計に照れてしまったのだろう。
そしてテストを受け取って安堵の表情を浮かべた香織を見て俺は悟った。「やった!」と····
「見て!このテストの結果」
結果が嬉しいのか興奮したように香織がテストを見せてくる。そこには赤点が一つもなかった。目を擦ってもう一度見てみたが、やはり赤点が見当たらない。むしろ総じて高得点のように見える。いや、高得点だ70点以上をキープしている。
「凄いな!」
「やはり私は天才!」
「よっ!天才!」
俺も嬉しくなり香織を煽てる。
「本当に凄いと思うぞ、改めておめでとう」
「えへへ そんなに褒めないでよ、でも、これも全部勉強に付き合ってくれた晶くんと寝子ちゃんのおかげだよ!」
「それでも凄いと思うぞ 」
「もう褒めすぎだよー!」
デヘヘと溶けそうな顔で笑う香織にこっちまで嬉しくなる。すると寝子もやってきたようで、香織の点数を見て驚いたように褒めていた。
〇
『今大丈夫かしら?』
『はい大丈夫です』
あれから隣のクラスの山口や来栖までもが合流し香織を褒めまくる会が放課後になるまで行われた。もちろん放課後を迎えた香織はまるで液状生物のように緩んだ顔をしていた。俺はそれを見送ると自宅に帰り、大野さんからの電話を待つことにした。
『あなたと香織の友達の寝子ちゃんのお陰で無事に夏休みを迎えることができたようね』
感謝するわと礼の言葉を大野さんから頂く。
『俺も勉強会は楽しかったですし、何より無事に香織が合格するのを見届ける事ができて嬉しかったです』
『そう言って貰えると嬉しいわ。それで、親御さんから許可は取れたかしら?』
『一応話してみると日時が決まれば、いつでも行ってよしって感じでした』
俺はおっとりとした笑顔で許可をくれる母親を思い浮かべで自然の笑みを浮かべる。
『それなら良かったわ。それで日時の方なのだけれど
夏休みは来週からのそうね? ならちょうど今日から再来週の日に行く事にするわ』
『分かりました再来週ですね』
俺はペンを走らせてカレンダーに日時を書き込む
『朝の9時から乗って、夕方頃には到着の予定よ。ホテルの方は私が予約をしておくから安心してちょうだい』
『何から何までありがとうございます!』
『もちろん遊ぶのもいいけど怪盗の事も忘れないでね。実際の予定に関しては向こうのホテルに着いてから話すようにするわ』
『分かりました!』
俺が返事をすると大野さんは「それじゃあね」と言い電話を切る。
俺はベッドに寝転んで再来週のことを思い浮かべる。海外旅行は初めての経験の為、少し楽しみな気持ちと怪盗をするという事に僅かな緊張感を浮かべ、気が付くと眠りについていた。
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