第20話 勉強は効率的に
「今からビシバシ教育していくから絶対に合格しろよ」
「勉強なんて反対です!」
「そうだ! そうだ!」
今、俺は香織や岸本たちと勉強会を開いている。こうなってしまったのは昨日に遡る····
〇
「体育祭が終わったからって気を緩めるなよー」
夏休みに差しかかる頃、先生が気だるそうに話す。
「言っておくが、今回のテストで5教科中赤点が3つ以上ある奴は夏休みの間、全部補習だからな」
「えー!」っとクラスメイト達の叫び声が聞こえる。
「晶ー!また飯奢るから勉強教えてくれよ〜」
背伸びをしながら岸本がそう話す。
「俺も勉強があるから無理だ」
俺がそう断ると「さよなら俺の夏休み····」と呟きながら項垂れる。
「もしかして頭がいいの?」
後ろで俺の背中を叩きながら香織がいう。
「こいつは頭がいいぞ! 毎回テストの順位も10位以内にはいるしな!」
「凄いね!」
「あと、丘咲も頭が良かったな」
「寝子ちゃんも凄いね!」
そう二人で話していると、それが聴こえたのか寝子が顔を赤くして「うるさい」と呟く。
「とりあえず勉強は個人的にやれよ、今回こそは俺も一位を目指しているからな」
ちなみにいつも一位は来栖さんだ。
「もっと気楽に行こうぜー」
俺の話を聞いて、めんどくさい奴を見るように岸本が笑う。
「そう言えば、香織は勉強の方は大丈夫なのか?」
俺がそう聞くと「まあ、それなりにできるかな····?」と少し疑問符を浮かべながら話す。
「本当かよ····」と思ったが、俺には関係の無いことなので、特に追求はせずこの話は終わった。
〇
夕飯を終えて部屋で寛いでいると大野さんから電話が来た。
『もしもし、今大丈夫かしら?』
『はい大丈夫です』
俺がそう返すとそらならよかったと言い本題に入った。
『夏休みの間、ハワイへ旅行に行きたのだけれど、あなたの予定は大丈夫かしら?』
『ハワイですか····?』
『もちろん遊びに行くわけじゃないわよ。怪盗の仕事としていくわ』
『え!? ハワイで怪盗になるんですか!?』
『詳細については、また話すから安心してちょうだい』
もちろんお金も私が持つと語る。
確かにお金は心配だが、それ以上に海外での活動の方が心配だ…俺がそんな風に考えていると、少し声を落として大野さんが話し始めた。
『香織から聞いたことなんだけど、赤点が3つ以上あると夏休みは無いそうね?』
『そうですね。でも、香織はそれなりに勉強はできると言っていたので大丈夫では?』
俺がそう言うと大野さんはため息を吐いて語った。
『強がったのよあの子は』
強がった····?
『香織の今の学力では5つ全部赤点でもおかしくないわ』
『は?』
『驚く気持ちわかるわ。でも残念ながら本当よ』
『俺に用ってのは、もしかして····』
『そのもしかしてよ』
『香織に勉強を教えてあげてちょうだい。もちろんこれは相棒としての役目よ』
『でも、俺も自分の勉強で····』
『香織から聞いたわよ。10番以内は堅いそうじゃない?』
岸本、お前を恨むぞ····
『別に無理強いはしないわよ? ただ前回休んでおいて、無理なんて酷な話だとは思うけれど』
『是非ともやらせていただきます』
その言い方は狡いと思う。
〇
そして今に至る。俺の家では香織と岸本と寝子を含む計四人で勉強をしている。寝子もテストの順位で、いつも上位にいるので頭を下げてお願いをした。岸本はついでに誘ったら喜んで付いてきた。
「それじゃあ、簡単な問題でも出すから、口頭でいいから解いてみてくれ」
俺が香織にそう言うと「ばっちこい!」と元気に返す。
「それでは2の2乗はいくらだ?」
「簡単な問題だね!」
そんなの楽勝ですと言いたそうに胸を張って答える。
「22!」
「とりあえず、中学生からやり直してこい」
「なんでそうなこと言うの!?」
香織は不貞腐れながら「合ってるよね?」と寝子に聞いている。寝子は苦笑いをしながら「間違ってるよ」と首を振る。ガーンという効果音が付きそうなほど残念そうな顔している香織に追い打ちをかけるように岸本が呟いた。
「4だよな?」
「正解だ」
「何で合ってるの!? 岸本くんは私と同じバカだと思ってたのに!」
「悪いな、俺は天才なんだ」
「何だって!?」
二人のバカそうなやり取りは置いておくとして、これは本当に大丈夫か? 俺は一抹の不安を抱えながらも香織に勉強を教えていく。
「今の問題は今回のテストでは出ないと思うから
一旦忘れて教科書を開いてみようか」
俺がそう話すと「それなら安心だね」と笑顔で言う。いやいや、今回のテストはもっと難しいからな?
それから一週間の間、俺と寝子によるツーマンセルで、香織に勉強を教える事となった。岸本は地頭が賢いのか俺達の話を聞きながらスラスラとプリントを解いていた。
そして地獄の一週間を乗り越えた時、香織の顔立ちは、どこか勇ましさを感じるような顔に変わっていた。
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