第18話 体育祭 午前の部
がんばれー!
いけいけー!
応援の声が聞こえてくる。今日は体育祭の日、俺はクラスのテントの下で自分の出番を待っていた 。
「ねえ、そろそろ呼ばれるよ」
そう言ってきたのは寝子で俺と二人三脚をする事になっている。
「分かった、直ぐに行く」
俺はそう言って前を歩く寝子に付いていった。
「右から足を出そう」
そう作戦を立てていると、隣にいた別のクラスの生徒が声をかけてきた。
「貴様が噂の女誑しか?」
「いきなり失礼だなお前」
その噂は一体どこから出たんだよ。そう考えていると目の前の女の子が自己紹介をした。
「私の名前は来栖詩歌(くるすしいか)。貴様は麻耶さんに相応しくない、二人三脚では私たちが勝つ」
「山口とは、ただの幼馴染だからな?」
山口は確かに美少女だが、仲がいいというだけで、ここまで敵対視されるとは思わなかった。
「ねえ、山口さんとあんたってどんな関係なの?」
心なしか不機嫌そうな寝子も話しかけてきた。
「貴様····それほどの美少女まで誑かしておいて、麻耶さんまで狙うとは、不届きな!」
「変な風に言うな!」
周りの人達はすぐに俺達に視線を向けた、俺は周りに勘違いだと慌てながら話す 。
「まあいい、今は貴様への宣戦布告だけで十分だろう」
試合で会おうと言って自分のクラスメイトの方へ向かっていった。
「凄い敵視されてたね」
「本当にな」
山口も罪な女だと考えながら、先程の作戦の続きを寝子と話す。
〇
「それでは二人三脚を行う方達は位置に着いてください」
その合図を背に俺たちはレーンへと向かっていく。
「いきなり、貴様とやる事になるとはな」
横には先程の来栖がいた。
「こちらこそ、よろしくな」
「貴様とよろしくする筋合いは無い」
俺が一体何をしたと言うんだ····?
「そんな人、ほっといて準備しようよ」
寝子の言う通り、横で「卑怯な手は使うなよ」と言う来栖の事は無視する。
「それでは位置について」
「よーい、どん!」
その合図を聞き同時に前に躍り出る
どうやら隣りの来栖ペアとは、殆ど実力に差がないようだ。そう分かるように僅差のないレースが繰り広げられている 。
「中々やるようだね!」
「その言葉をそっくり返すよ!」
お互い互角のレースを繰り広げていたが、来栖と一緒に走っていた女の子は着いて行くのに必死で足を滑らせてしまった。それにつられて来栖も転倒し、足を抑えていた。どうやら捻挫をしてしまったらしい 。
俺は寝子に一言謝り、紐を外して捻挫した来栖を背負った。寝子は、転倒したもう一人の女の子に肩を貸しゴールの方まで歩く、背中の上で、泣いているのか来栖の嗚咽が聞こえる。俺はそれを聞こえないふりして、ゴールへと向かった。
俺達は5位で来栖ペアは6位、どうやら2組揃って最下位のようだ。去り際に真っ赤な顔をしながら「感謝する」と呟いた来栖を見れたのは役得だろうと思いながらクラスへと戻る。
「俺の独断ですまなかった」
俺がそう頭を下げると、クラスメイトたちは口々に「気にするな」や「かっこよかった」と言ってくれた
「見捨てた方が何か後味が悪かったと思うぞ」
そう岸本も慰めてくれた。
「寝子も悪かったな」
「気にしないでよ、もし晶が止まってなかったら私が止まってたから」
俺はクラスの皆に感謝をしてテントの下で休むことにした。
〇
「もうすぐお昼ご飯だね。一緒に食べようよ!」
そう聞いてきたのは香織だった。
「母さんが来てるから一緒でもいいなら」
そう返すと、岸本や寝子も集まってきたようで、一緒に母親を探すことにした。
「晶! こっちこっち!」
年甲斐もなく、凄くはしゃいでる母を見つけて、俺は恥ずかしくなり目を逸らす。
「ほら! 早く来なさい」
「何で山口もいるんだ?」
「何? 私がいたらまずいわけ?」
「別に違うけど」
そういう訳じゃない。誘う予定ではあったが、先にいるとは思ってなかっただけだ 。
山口と少し話していると、香織達も弁当を持ってやってきた。山口が香織ちゃーん!と抱擁をしに向かっているのを見て俺と岸本は拝む、それを見て呆れてる寝子と共に、母さんが用意したレジャーシートに腰を下ろす 。
「ほら! 晶の好きなオムライスも作ってきたからね」
「お前の母ちゃん、すげえな…」
岸本が母さんの作ってきた。山盛りの弁当を見て言葉を漏らす、正直俺もすごいと思ったので同意する。
ただ、一つ気になることがある。何故、この輪の中に葛木が座っているのだろうか、俺はかなり疑問に思ったが触れないようした 。
「龍斗くん、美味しい?」
そう聞く母さんに葛木は「美味いっす」と返す、何だこの光景はと俺は額を抑える 。
「それにしても、香織ちゃんに寝子ちゃん? とっても可愛い子達ねえ」
その言葉に、照れながら返事をする二人。
「どっちが晶の彼女?」
ぶー! と俺は飲んでいたお茶を吹き出した。
「何言ってんだよ!?」
俺がそう驚いたように問いかけると、冗談よと母さんが笑う。
「悪かったな二人とも」
俺が二人の方へと目を向けると、顔を赤くして照れていた。やめろよ…俺も照れるだろ 。
困っている俺を見て岸本はニヤニヤと笑い山口は少しむくれ、葛木は気にも止めていなかった。そんな風に和気あいあいと食事をして午後の部に備える。
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