第17話 事の顛末

 丘咲を家に送ってから俺も自宅までの道を歩いている。ふと怪盗の件を思い出し携帯を見てみる。そこには大野さんから着信と香織からのメールが来ていた。

 内容は何かあったのかという心配したものだった。流石に『今日は休みます』と一文だけ添えたのは申し訳なかったなと思い、帰ってから連絡することにした。


「夜分遅くにすいません」


『あら、理由もなしに休むだけの文章を送ってきた溝口くんじゃない』


「その節は大変ご迷惑をおかけしました」


 やべえ····明らかに怒っているのが分かる。


『それで、なぜ休んだのかしら? もちろんそれ相応の理由があるのよね』


 俺は今日あった出来事を話した。


『なるほど、それなら仕方ないわね。

 もしも、無視してこっち来てたなら、私があなたをぶっ飛ばしていたわ。』


 物騒すぎる····


「それで、どうでしたか?」

 俺は話を逸らすように問いかける。


『割と上手くいったと思うわ』


 大野さんから今日の顛末を聞いた。少しミスもあったようだが、大事にはならなかったようだ。


「それは良かったです。後、香織は起きてますか?」


『今日は疲れたのか、もう寝ているわ』


 そう聞いた俺は今日メールをすることをやめて、来週の学校で合えばいいかと思った。



 〇


 この土日の間に寝子から電話で聞いた事だが、あのストーカー男は正式に逮捕されたようだ。ちょうど店の裏路地に監視カメラがあったらしく、それが決めてになったと言っていた。また、その後に警察署の方へ行き、これまでのストーカー被害についても話したらしい。それも罪状に付け加えられたようで、あのストーカー男は長いこと刑務所に入ることになると寝子が言っていた。

 無事に全てが片付いたなと俺は安堵し、学校に向かっている。


「おはよう晶!」


「おはよう」


 岸本が俺の肩を叩いてきた。


「金曜日はお楽しみでしたか?」と変なジェスチャーを交えて言ってくる。


「そんなんじゃねぇよ」


「まあ、それは置いといて、包帯とかどうしたんだよ?」


 そう俺はあのストーカー野郎に殴られた傷がまだ治っていない。土曜日に病院に行ったが、割と傷は深かったらしく頭は縫うことになり他にも打撲などがかなり酷かった。それで俺の今の姿は頭や腕などに包帯を巻いた。ミイラ状態という訳だ。


「ちょっと怪我しただけだ」


 俺は笑いながらそう返す、だが岸本はそれが気に食わないのか「お前が夜に何してるかは知らないけどさ

 怪我するようなことをしてるなら協力はできないぞ」と怒っていた。そんな岸本に言い訳を考えていると、後ろから肩を叩かれた。


「おはよ」


 後ろには寝子がいたようだ。


「怪我、大丈夫?」


「そういう寝子もな」


 寝子も怪我が酷いようで、俺と同じように腕や足に包帯を巻いていた。


「何か二人とも前より距離縮まってない?」


 岸本が怪しむように俺たちを見ている。すると何か合点がいったのか、手を叩いた後に語った。


「なるほどな。つまり、晶の怪我はプレイの一環という訳か!」


 おいやめろ····! 俺は慌てて寝子の方を見ると、額に青筋を浮かべ岸本を見ていた。


「しかもお互いで傷を与え合うとは····中々いい趣味だな。もちろん、この事は皆に内緒にしておくから安心してくれ!」


 やけに爽やかな笑顔でそう語る岸本を寝子はゴミを見るような目で見ていた。

 俺はそんな岸本を止めることなく、二人を追い越して前に行く。後ろから鈍い音と悲鳴が聞こえたが、多分大丈夫だろうと思い心の中で合唱をした。


 〇


 学校に着くと香織はもう来ていたようで、俺がおはようと言う前に凄い勢いで詰めてきた。


「お姉ちゃんから聞いたけど怪我は大丈夫!?」


「まあ、何とか大丈夫かな?」


 近い近い!と言いながら俺は返すと、少し安堵したのか「心配したんだからね」と言って距離を取ってくれた。

 ストーカー被害にあっていた人物は伝えていなかったので、寝子に詰め寄ることは無かったが、同じように怪我をしていることから、香織も察したようで。

 心配そうな目を向けた後、それを隠すように寝子にも挨拶をしていたが、かなり動揺しているのか、「おはよう」という言葉が何も言っているのか分からなかった。それを聞いた寝子は疑問符を浮かべていた。


「よーし席につけよお前ら」


 先生が来てホームルームが始まった。俺が怪我をしているからか、クラスメイトからの視線も痛い。先生も俺の怪我に気付いたようで「どうした溝口、喧嘩でもしたのか?」と問いかけてきた。俺は金曜日の出来事を濁しながら、一方的に殴られただけですと言っておいた。


「まあ、溝口がボコボコにされた話は置いといて」


 クラスメイトから笑いが零れる。

 言い方!と思ったが、さっきより雰囲気が良くなったようだ。どうやら先生は俺があまりいい目で見られていないことを察したらしく。怪我を笑いの種にして緩和してくれたようだ。俺は心の中で先生に感謝しつつ話を聞く。


「それと再来週には体育祭があるから、一限目は参加する競技を決めてもらうぞ、丘咲や溝口は参加できる種目があるなら教えてくれ。」


 そう言って黒板に種目を書き並べていく、参加できる種目か····俺がそう考えていると後ろから香織が肩を叩いた。


「どうしたんだ?」


「私と二人三脚やろうよ!」


 香織と二人三脚····? 俺が引きずり回される姿しか思い浮かばないんだが。


「怪我が悪化する」


「どういうこと!?」


 そんなコントを繰り広げていると、寝子が席にやってきた。


「怪我人同士なら悪化しないんじゃない?」


 確かにそれならお互い気を使えるしアリだなと思い、先生に伝えに行こうとする。しかし、香織が俺の腕を掴んだ。


「相棒の私よりも寝子ちゃんとやるんですか?」


 やめろその言い方は誤解を招く、その話が聞こえていたのか寝子はムスッとして、岸本は面白いものを見たような顔をしている。クラスメイトの男達は言うまでもなく武装をしているようだ。俺は腕を掴む香織の手を、そっと離して語りかける。


「香織の運動神経は目を見張るものがある、お前がいればこのクラスに負けは無い」


 俺は優しい目をしながら、お前は最終兵器だと語る。それを聞いた香織の目はキラキラを帯びていった。


「私が最終兵器····! 分かった!全力で頑張って皆を勝利に導く····!」


 よし、ミッションコンプリートのようだ。俺は寝子と二人三脚をする事を先生に伝えるために黒板へと向かった。背後でクラスメイト達が「あれが女誑しの力か····」と呟いたのを聞こえない振りをして。

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