第16話 結末

 目覚めると俺は丘咲の膝の上で眠っていた。何を言っているか分からないと思うが、俺が一番状況を理解できていない。そんな俺の慌てる様子を見て、丘咲が笑っている。


「えっと、さっきの男は?」


「通りすがりの人が助けてくれた」


「通りすがりの人?」


「そ、通りすがりの人」


 そうなのか…と俺は呟いて、上体を起こす。


「起き上がって大丈夫?」


「まだ頭は痛いけど、いつまでも膝を借りてる訳には…」


 言い終える途中で丘咲が俺の頭に手を乗せて、もう一度、膝枕の体勢を取らせる。


「じゃあ、まだ寝てなくちゃね」


 そう言って笑う丘咲に俺が見惚れていると、怪訝な顔でどうしたの?と問いかけてきた。俺は話を変えるために意識を失った後に何があったのかを聞く。


「分かった教えてあげる」


 そう言って、あの後の話が始まった。



 〇



「後ろ!」


 丘咲がそう叫んだ時には、もう遅く、溝口の頭にバットが振り下ろされていた。血を流し倒れている姿を見て、丘咲は咄嗟に溝口に覆い被さった。そんな光景を見て男が口を開く。


「何で…!何でなんだよ!! 僕はこれほどまで君を愛してるのに! 何でそんな奴を守ろうするんだよ!」


 そう叫びながらもう一度バットを構え言葉を続ける。


「そんなにその男の方がいいなら、殺してやるよ!そんな奴!」


 そう叫び男は丘咲の肩を掴んで引っ張り壁の方へと投げ飛ばす。それでも諦めずに手を伸ばして溝口の方へと向かおうとする丘咲を男は一瞥すると再びバットを振り下ろそうと構える。


「やめて!」


 丘咲のそう叫ぶと路地の外から、大柄の男が飛び込んできた。男の姿は周りの暗さでよく見えないが、飛び込んできた男はストーカー男の腕を掴み反対側の拳で殴りかかった。殴られたストーカー男は後方へ吹き飛び、その痛みからか戦意を喪失させていた。

 そして呆然とする丘咲に男は言った。


「そこのバカを連れてどこかに行け、話はまた後だ」


 丘咲はフラフラとしながらも溝口を背負い。近くの公園へと向かった。



 〇



「そんな事があったのか…」


 俺は涙声で話す丘咲の頭を撫でながら話を聞いていた。


「ごめん…こんな事に巻き込んで」


 そう言って悔しそうに涙を流す丘咲に俺は言った。


「もし、俺が巻き込まれなくて、丘咲が危険な目にあってたなら、俺は気づけなかった俺を一生憎んだと思う」


 そう言うと丘咲は涙を拭いて、俺に抱きついた。


「生きててよかった····」


 丘咲はそう呟いて、さらに抱きしめる力を強くする。そうして時間が過ぎていくと、丘咲は何かを見つけたのか急に立ち上がって、「コンビニのトイレに行ってくる」と言って 、公園の出口の方へ向かっていった。


 〇


 そこには先程の大柄の男が立っていた


「先輩はどうしたの?」と丘咲が聞くと男は警察に引渡したと言った。


「何で助けてくれたの? 私はともかくアンタと溝口って仲が悪かったんじゃないの?」

「ねえ、葛木」と丘咲は後から付け足した。


「俺とあき····いや溝口は仲が悪いって訳じゃねぇよ。ただ色々とあるだけだ。後、俺の事は内緒にしといてくれ」


 それだけを言うと葛木は溝口に送って貰えと言って踵を返した。

 それを聞いて丘咲は「意地っ張りなだけじゃん」と呟き、溝口の元へと向かっていった。


 〇


「おかえり」


「うん、ただいま····」


 どこかぎこちない挨拶に首を傾げていると、丘咲が恥ずかしそうに言う。


「名前、晶って呼んでもいい?」


 突然の名前呼びに恥ずかしさを感じるが、それなら俺だけ苗字呼びなのも変だなと思いこう返した。


「なら俺も寝子って呼んでいいか?」


「····」


 無言で俯く····その姿も見て俺が「俺が名前で呼ぶのはダメなのか」と項垂れていると、丘咲が顔を上げ真っ赤な顔で「好きに呼べば」と言った。俺が嬉しさのあまり、その場で踊ると、怪我が悪化すると苦笑いで忠告された。

 その忠告に俺は「怪我をしてるのを忘れてた」と笑って頷き、二人で他愛のない話をしながら帰るのだった。

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