第15話 嫌な予感はよく当たる

 丘咲との映画を終えた俺は帰路に着いていた。あの話を聞いてからか何故か嫌な感じが胸の中に渦巻いている。俺はそんな予感を忘れるように頭を振り、今夜の怪盗の事について考える。

 今朝のニュースの通りなら、トレードカンパニーという名前だったはずだ。俺はその場所を調べるために携帯でマップを調べてみる。ここからだと電車で2時間近くかかる場所にあるらしい····


「結構遠いな····」と呟いていると、大野さんからメールが来た。『待ち合わせ時間は9時に駅へ』随分簡素なメールだが、これは携帯を誰かに見られても大丈夫なようにという訳か? そう考えると昨日のメールは処分しておくべきだろうと思い。俺はメールを消して、家までの道を走った。



 〇



「ただいま」


「おかえり〜」


「今日もまた遅くなる」


 俺は前回と同じように岸本の家に行くといい。岸本にもメールをしておく。『今度はピザでも取ろうぜ』という奢れ構文を受け取り、19時前には家を出るため俺は夜に向けて準備をする。

 準備を済ませてリビングに行くと、ちょうど夕食の準備ができたようで俺は席についてご飯を食べ始める。


「龍斗くんとは仲良くしてる?」


「あー、まあ普通に友達って感じかな····」


 俺は突然、葛木の話をされて返答に戸惑ってしまった。そう昔はよく葛木や山口と三人で遊んでいた。ただ、父さんの仕事の都合で引っ越した時から連絡を取らなくなった。


 いや····正確には俺から連絡をしなかったのが原因だろう。山口とは高校で再開し、またあの頃のように仲良くなれたが、葛木からは睨まれただけで話はできなかった。

 この事を親に言ったら変にお節介とかを焼くかもしれないから、仲がいいと言う事にしている。


「それならよかった。昔みたいに家に遊びに来ないから心配だったのよ」


「また、都合が合えば遊ぶと思うよ」


 その時は私の料理を奮ってあげるわ!と楽しそうにしている母さんには申し訳ないが、その日は来ないと思う····


 〇


 食事を終えて時計を見ると18時半を指していた。俺は準備していた荷物をとって、靴を履いて外に出ようとする。

 すると突然、携帯が鳴った。俺はメールかと思い確認をすると、そこには『助けて』と一文だけ添えられた丘咲からのメールが来ていた。さっきまで考えていた嫌な予感を思い出し、俺は荷物を置いて外に飛び出した。


 丘咲に聞いた話だと、バイト先は二郎坊という居酒屋のようだ。俺は携帯のマップを使い二郎坊を見つけ、そこまで走る。

 途中で大野さんには『今日は休みます』とメールを入れておく。そして再度走りだし俺は二郎坊に着いたが、まだ夜が更けていないのに店が閉まっていた。店の中で何かあったのではと思い裏口を探す為に路地裏に入った。


 奥に進むと開けたスペースがあり、そこで頬を腫らし麻縄で縛られた丘咲が倒れていた。俺は助けるために近づいたが、それに気づいた丘咲が「来ないで!」と叫んだ。

 その言葉と同時に頭に重い衝撃が走った。丘咲が泣きそうな顔で、また何かを言おうとしているのが見えるが、俺の耳には届かない。

 覚束無い足どりで、再度丘咲の元へ向かおうとすると、さっきと同じようにまた頭を何かで殴られ視界が真っ赤に染まる。

 俺は次の攻撃を避けるために丘咲がいる方へと転がり顔を前にあげる。そこには怒りの形相にバットを持った一人の男が立っていた。

 少し時間を要した後、男が口を開いた。


「僕の寝子ちゃんを奪おうとするクソ野郎が!」


 そう叫ぶ男に俺は理解した。こいつが丘咲の言っていた。バイト先のストーカー野郎だと。


「お前は丘咲の恋人か?」


 俺は刺激をしないように冷静に問いかける。すると男は口を開いて話し始めた。


「僕と寝子ちゃんが出会ったのは、今からちょうど一年前でね。僕が困っている時に助けてくれたんだ。他の皆は僕が困ってるのを見て笑っていたのに、寝子ちゃんだけが僕の事を助けてくれた…何で助けたのって聞いたら、困ってたら助けるのは当たり前だって言われてね。そして僕が嫌な事を言われていると寝子ちゃんは注意もしてくれたんだ。

 その時、僕は理解したんだ。寝子ちゃんは僕の事が好きだって、だから寝子ちゃんの事を知りたくて色々な事をしたよ。

 でも相思相愛なんだし僕が寝子ちゃんの事を知るのは当たり前だから悪いことじゃないよね? でも最近、寝子ちゃんが僕に話しかけてくれなくなってね。だから今日寝子ちゃんを見守るために後ろからつけたんだ。そしたら僕の寝子ちゃんを狙うクソ野郎の君がいた。その時、僕は理解したよ。

 寝子ちゃんが最近話しかけてこないのは、悪い奴が寝子ちゃんを誑かしたんだって、だから寝子ちゃんの携帯で呼んでみたんだけど、案の定来てくれてよかったよ。これで泥棒野郎を成敗できるんだから。」


 無茶苦茶で明らかにヤバいやつだ····! そう叫びたくなるほど気持ち悪い言葉の羅列に吐き気を覚えた。

 俺が恐れおののいていると、男はまた話し始めた。


「それに寝子ちゃんも悪いんだよ? 僕がいるのに他の男と一緒に遊ぶなんて」


 そう言って丘咲の事を睨みつけた。丘咲の頬の怪我はこいつの仕業ということが分かり、俺は丘咲に被害がいかないように、できるだけ、この場から離れて声を上げる。


「おい!勘違い野郎!」


「今なんて言った?」

 よし、こっちを向いたな


「勘違い野郎って言ったんだよ。聞こえてないのか木偶の坊が!」


「なんだとぉ!!」


 激高した男がこっちに駆けてくる。俺はそれを避けて背中を蹴り飛ばす、男はよろめき壁にぶつかるが直ぐに持ち直し再度俺にタックルをしかけてきた。それを避けようとしたが、さっき頭を殴られたダメージが残っており足がもつれタックルをもろに食らう。


「僕をバカにしたな!!」


 そう叫びながら男が俺を殴り続ける。それを見た丘咲が口を荒げた。


「アンタなんて好きなわけないじゃん! 勝手に勘違いして私の友達に当たんな、この変態野郎が!」


 その叫びに男は手を止めて立ち上がる


「僕の事を今なんて言った?」


 男はバットを再度拾い上げ丘咲の元へ行こうとする。俺は咄嗟にマズいと思い男の足へとしがみついた。


「離せ! クソ!」


 そう男は叫び俺の背中をバットで殴る。しばらくして俺の手が緩んだのを確認し手を止め再度丘咲の元へ近寄る。


「君は僕が好きなんだろ!! なのになんで裏切るんだ!」


 男の声が路地裏に響いた。丘咲もそれに臆することなく、俺を助けるために自分に矛先を向けようとしている。


 そんな丘咲の震える手を見て、俺はまた覚束無いまま立ち上がる。幸い男は丘咲に夢中になっているのか、俺が立ち上がっていることに気付かない。俺は男の後ろに忍び寄り持てる力を持って、後頭部めがけて両手を叩きつけた。

 それを食らった男は体をガクッと揺らして倒れた。俺は安堵からか倒れそうになるが、何とか持ち堪えて丘咲の元へ駆けより麻縄を解こうとする。すると丘咲が「後ろ!」叫んだ。

 その言葉を最後に俺の意識は闇に落ちた。

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