第12話 美少女転校生

「ねぇねぇ土曜日のニュース見た?」


「見た見た!怪盗って二人いたんだ!」


「それに凄くない?

 大手の企業の闇を暴いていたよ!」


 俺は今通学路を歩いている。前の学生たちが話しているのは、土日の間に耳が痛くなるほどニュースで聞いた話。内容は世間を賑わす怪盗のことだ。『怪盗にまさかの相棒が!』という見出しの新聞も朝から家で目にしたな。


 そしてゴルド社で入手した契約書の数々によってゴルド社の社長は解任となり、契約を交わしていたと思われる闇金関連の企業は軒並みに検挙されていった。

 ゴルド社も倒産とまでは行かなかったが、闇金に関わっていた人物たちを解雇しクリーンな会社になるらしい。それでも、世間についた悪いイメージは拭えないと思うが····


 それと大野さんに聞いた話だが、お金も義賊らしく返せる人には返したらしい。中には返せない人もいたらしいが、そのお金については一部を受け取って、その人の親族にこっそり届けたらしい。SNSを通じて感謝をしている被害者の人も多くいたようだ。

 感謝されるのはいいものだなと改めて実感してしまう。


「おはよう!」


「おはよう山口」


「何か嬉しそうだね」


「そう見えるか?」


 そう見えてしまうくらいには、口角が上がってしまっているのかもな、そう思っていると。山口も「口角が上がってるよ」と言ってきた。


「そう言えば、転校生が来るらしいよ」


 女の子かな男の子かなと話す山口の隣で俺は戦慄した。あの話は嘘じゃなかった····と。


「そ…そうなのか?」


「そうらしいね! でもクラスはまだ発表されていないらしいってさ」


「それはよかった」


「何がよかったのよ?」


 つい本音が出てしまった。いや待てよ····他のクラスの方がマズイ気がする。

 誰かが怪盗を褒めてる話をしてみろ。「やっぱり私ってかっこいいよね!」とかポンコツをかますかも、下手したら「相方がかっこいい」とかの話なったら「晶くんはかっこいいよね!」とかも有り得るな····ダメだ、俺のクラスに来ることを祈らないと。


「何で祈ってるのよ?」


「あっいや別にそんな訳では」

 つい動作に出てしまったようだ。


「もしかして女の子が来ることを祈ってるとか····?」


「そういう訳じゃないぞ」


「ふーん、本当かなー?」


 何で不機嫌になるんだよ! 俺は横から睨まれているのを感じながら、学校までの道のりを歩いた。



 〇




「おはよう!」


「おはよう岸本」


「金曜日の夜はどうだったよ?」


「お前マジで違うからな、変なこと言ったら殺すからな」


「冗談だって」


 笑いながら言うこいつは信用ができない。そうやって、岸本と話していると丘咲がやってきた。


「二人ともおはよう」


「おは「ちょっと聞いてくれよ!」よう…」


 俺の挨拶を遮るな!


「こいつ金曜日に大人の階段を登ったらしいで」


「おいやめろ!」


 俺は慌てて口を塞いだが、時すでに遅く。


「ケダモノ」


 丘咲は絶対零度のような目で俺を見ている。


「マジで違うからな! 俺はまだ綺麗なままだから!」


「その発言もどうかと思うけどな」


 お前のせいだぞ! と叫びたい気持ちを抑えて肩を殴る


「丘咲、今のは冗談だから、金曜日はこいつの家で遊んだだけだから」


「変な冗談やめてよ」


 そう言って笑う丘咲を見て、とりあえず安堵する。


「いや、金曜日は····」


 俺は岸本の耳元で焼肉と呟く。


「金曜日は夜遅くまでゲームをして楽しんだよな!」

 よし買収完了


「そういえば転校生はうちのクラスらしいね

 他のクラスの生徒が先生から聞いたって言ってたよ」


 なんと言うか助かった。これで香織が変なことを言うのを、止めることが出来るな。

 横で女の子か!男の子か!と叫ぶ、バカを無視して丘咲と雑談をする。そうしている内にチャイムがなって、ホームルームが始まった。



 〇



「よーしお前ら席に着け」

 先生がやってきた。みんな転校生を期待しているのか、ザワザワとしている


「お前達も知ってると思うが今日は転校生が来ている」


「女ですか!? 男ですか!?」


 その気持ちは分かる。転校生と言えば気になるよな。


「それは来てからのお楽しみだ

 それじゃあ挨拶をしてくれ!」


 みんながドアが開いたのを見て驚愕する。俺だって、もしここが初めの出会いであったのなら。みんなと同じような反応をしていただろう。


「今日から、この学校に通うことになった大野香織です!

 よろしくお願いします!」


 まさしく美少女と呼べるような容姿の人が入ってきたんだ。それはもうクラスの中は歓喜とかした。


「彼氏はいますかー!?」

「かわいー!」

「可憐だ!」

「好きだー!」


 とんでもないほどの質問と声が教室に響き渡る。それと「好きだー!」は勇者すぎるだろ!


 俺はできるだけ目を合わせないようにしていたが、俺を見つけたのか香織が俺に手を振る。その瞬間、一斉に教室の生徒が俺を見た。


「あの陰キャに?」

「嘘だろ····」

「趣味が悪いよ〜」

「落ち着け俺の右手····!」


 俺のクラスメイトが酷すぎる。そして最後の奴よ、手に持っているコンパスを仕舞え、そんなバカなやり取りをしていると。

 香織は「あ!」と声を上げて葛木を指をさす。

 周りの生徒たちが疑問符を浮かべていると、まさかの発言をしだした。


「あの時はカラオケに誘っていただいたのにすいません!」


「は?」


 葛木よ、その困惑は正直分かるぞ、そして周りの生徒たちが葛木に対しても声を上げ始める。


「ナンパしたんじゃね?」

「葛木くんならありえるかも」

「でも、失敗したって事だよね····」

「これは恥ずかしい」


 葛木はクラスの中でも悪い意味で目立つ。不良で、口も悪いから委員長とかと言い合いになるもの日常茶飯事だ。だからっていきなり公開処刑は酷いと思うが…まあ香織の場合は、そんなことを考えて言った訳ではなく、純粋に罪悪感から来たんだろうと思うが。


 俺も今の葛木は苦手だが、割り込んだのは事実だし助け舟は出そう。


「ごめん葛木! あの時は俺が割って入っちゃったから、本当は大野さんも遊びたがっていたのに····」


 こういう雰囲気は嫌いだし、これで少しはマシになるだろう。そして余計なことを言わないようにと、俺は香織に目配せする。よし、香織も頷いたし何とかなるだろう。


「そうなんですよ。本当は遊びたかったのに、急にやってきて強引に手を掴まれ連れていかれたんです!」


 誰が俺に続けと言った! 何だよその私は分かってますよって目は、お前はとはやってられねぇよ!、コンビ解消だ!


「うわー」

「流石だぜ陰キャ」

「女を取っかえ引っ変えしてる噂は本当なんだ」

「静まれ俺の左手よ····!」

 俺に対するヘイトが溜まっただけじゃねぇか····!


 まあ過程はどうであれ、葛木が責められることは無くなったのはよかった。

 俺は葛木の方にチラッと目を向ける。すると、俺と目が合った事にムカついたのか「チッ」と舌打ちをして机に突っ伏してしまった。


「とりあえず落ち着けお前ら」


 先生が俺たちに声をかける。


「大野は空いてる席に着いてくれ」


 空いてる席と言えば俺の後ろの席だ。また周りからの視線が痛いなと思いながら、香織に挨拶をする。


「二日ぶりだな」


「うん!」


 俺達二人の仲のいいやり取り見たからか、自然とさっきまでの悪い視線は消えていく。俺はそれに安堵しつつ、ホームルームを終えるまで香織と話していた。

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