第10話 怪盗参上

 香織と別れた後にトイレに寄ると本当に警察服が一着置かれていた。


「本物だ…」


 少しテンションが上がる。まさか興味が無いと言っていた、怪盗に自分がなるとは思ってもみなかった。だからこそ絶対に失敗はしたくない。

 そう思いながら警察服に着替え、下の階へおりていく。


「お疲れ様です!」


「おっ、お疲れ様です」


 突然、新人と思われる若い警官が話しかけてきた。


「いやーまさか他署との合同で警備に当たるなんて入った当時は思いませんでしたよ」


 合同か…となると見かけたことの無い俺がいたとしても、自分たちとは違う所属の警察官だと思われて見逃される可能性が高いな。


「そうですよね。僕も新人なんでびっくりしてます」


「お互い大変ですが頑張りましょう!」


 頑張りましょうと返し、警察官に紛れて窓の方へと向かい。香織が金庫を持ち出すまで待機する。

 ちなみにだが、今の俺の顔は特性のマスクで適当な顔になっている。これも大野さんの手作りらしい、あの人は本当にすごいよ。



 〇



「こちらコードネーム:シロ、応答を願う」


 どうやら準備が出来たようだ。


「どうだ?」


「コードネームで返してよー!」


「そんなことを言ってる暇はないぞ、こっちの近くには警察いるんだからな」


「あっ、そうだった」


 ごめんごめんと、笑う声が聞こえる


「金庫を屋上まで持ち出したよ」


「そうか、準備がいいなら俺は窓から飛び出して大声で叫ぶ、窓が割れた音が聞こえたら逃げ出してくれ」


「了解!」


 それじゃあ、深呼吸して…


 俺は全力で窓をぶち破るように走る。もちろん破った後に向かい側のビルに狙いを定めるのも忘れない。

 警察官が動揺し俺を唖然とみている。多分だが怪盗は女性であり、一度も誰かと協力をしているそぶりが無かったからこそ、この奇行にびっくりしているのだろう。


 難なく俺は窓をぶち破り、黒い画面を被って空にフックショットを掲げる。もちろん時間稼ぎのためのかっこいい決めゼリフも忘れない。


「フハハハハハ!! 我ら怪盗団の望むお宝はこの階には無いらしいな!」


 俺はトイレに置いてあった見取り図を掲げる。


「いつの間に!?」


「馬鹿そうな警察官からいただいた」

 という言葉も忘れずに言っておく。


「なるほどな、この階より上の12階にあるらしい…

 しかし、私が出る幕もなく。相棒がそれを盗み出すだろう」


「相棒だと? 怪盗は単独犯のはずだ…!」


 そりゃ今日から参加だからな、ぶっちゃけ俺って凄いよな、初日だぜこれ…


「怪盗がいつ一人だと錯覚していた?」


 そう言い。俺は向かいの建物にフックショットを放ち、大声で名乗りをあげる。


「私の名前はクロ! 白き怪盗と運命を共にする相棒である!」


 俺が上に引っ張られると同時にカメラのシャッターが光る。どうやらの下には報道陣が集まっているようだ。


 エアバックがちゃんと発動したことに安堵しつつ、黒いコートを羽織って別のビルを同じように飛び移っていく。 途中でヘリコプターも現れたが、俺は真っ黒だっからか、少し隠れると直ぐに見失ってくれた。

 香織は… うんあれだ、凄い速度でビルの間を駈けていっただろうから、ヘリが来る前には既に脱出地点に辿り着いている筈だ。


 俺は遅れながらも到着し、脱出地点として用意されていた大型のトラックに乗り込む。このトラックの免許も大野さんが持っているそうだ。

 トラックの荷台に入ると、着替えを済ませた凄く興奮しているシロこと香織がいた。


「すっごいよ!!」


「何がだ?」


「私、今までね。こんな風に失敗もなく成功したの初めてなんだ…多分、晶くんがいなかったら、迷わず私は金庫を持ち出して、お姉ちゃんの存在を危機に晒してたかも」


「なら、俺という相棒がいてよかったな」


 笑いながら俺が言うと


「うん!」


 彼女も笑いながら返す。その純粋な混じり気のない綺麗な笑顔に俺は不覚にも見惚れてしまった…


「ぼーっとしてるけど大丈夫?」


「ああ! 悪い大丈夫だ! そういえば大野さんはいつ来るんだ?」


「さあ? 仕事が終わるまでは来ないと思うからね」


 とりあえず着替えたらと言われ、俺も積荷を壁にして私服に着替える。


「てか、金庫は何処にあるんだ?」


「これだよ」


 そこには膝ぐらいしかない小さな金庫があった


「え? これ金庫? え?」


 ダメだ…困惑して上手く言葉が出ない。


「あはは、びっくりするよね。私も怪しいから力ずくで開けみたんだ。そしたら中を見て驚いたよ」


 力ずくって凄いな…


 俺も香織に言われて中を見てみると、確かに驚いた。中には数枚の資料が入っていた。それもただの資料じゃない、闇金などに紹介した際に紹介料が入るという契約書だ。ご丁寧に印鑑も押している。これが見つかれば確実に警察からのガサ入れが起きるだろう。


「もちろん、お金もあるよ」


 そういって大きなバッグを掲げる


「お金は別の金庫に入ってたんだけど。かなり大きかったから、向こうに飾られていたバッグに詰めて持ってきちゃった」


 これも力ずくで開けたんだろうなと思いつつ、よくやったと声をかける。


 お金は借金を返すのに一番大事だ。そして契約書に関しては、適当な警察署にでもばら撒くか予告状のように送り付けてやろう。闇金を紹介をしていたゴルド社は確実に再起不能へと追いやれるだろう。


「今はお姉ちゃんが来るまで待機だね」


「それもそうだな…」


 俺は今日起きた非日常の余韻を感じながら、壁にもたれかかる。

 疲れているのか、意識が落ちていく感覚がする。気がつくと俺は眠っていた…。

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