君のことを知りたい

 国境に近い廃村を管轄とする狩人コニー・アーベルは、小さな果樹園でリンゴをもぎ取る。

 真っ赤に熟した大ぶりなリンゴを軽く投げた。

 大きな口がキャッチ、鋭い牙で果汁も逃さず噛み味わう。


『んまいっ! 今日のリンゴも酸味と甘みちょうどよし』

「すっかりリンゴのソムリエだね」


 ふさふさの尻尾を横に振り、得意げに笑う。


「少し訊いてもいいかい?」

『気分良いからね、どうぞどうぞ』

「喋る狼に会ったことはある?」

『……不思議なことを訊くもんだ』

「喋る例なんて少ないからね。君のような狼は他に存在するのか気になる」


 耳とぴくり、と動かしながら、狼は青い瞳を逸らす。


『まぁ、あるよ。ヴォルフっていう人食い狼』

「ウェアヴォルフにも喋る個体が、どこで」


 手を止め興味深くコニーは続きを待つ。


『ふかーい森の中にある、狩り禁止の町。人間と取引して暮らしてるんだ。ボクをいつか殺しに来るこわーい奴だった』

「殺しに? 町で何かやらかしたとか」

『しないよ、濡れ衣だったし。赤ずきんがなんとかしてくれたけど』


 赤ずきん、コニーはサイドバッグに入っている赤いコートを思い出す。


「赤ずきん、そろそろ教えてほしいな、せめてどんな人だったか」

『うーん……ボクにとっては師匠であり、お母さんみたいな人。ヴォルフも赤ずきんにはビビッてたね』


 小さな情報をノートに記す。


『とにかくヴォルフは、昔から因縁あるみたい。ボクみたいな種族とさ』

「パックとウェアヴォルフは因縁の関係……君といればいつかヴォルフと会えるかもってことか」

『会いたくないよ、二度と』


 低く喉を鳴らし、尻尾を垂らした。


「ごめんごめん、ほら特別サービス」


 もぎたてのリンゴをもう1個、狼に与える――。

 

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