不思議な魔法の言葉と、手紙

 マッケナ暦40年 月の日 15日

 青い目をした狼の生態調査について、彼の年齢は恐らく4才。

 人間年齢にすれば30歳の僕より年上となるはず。

 ただ、100年前に絶滅したとされていたので、参考となる本は残っていない。

 何故人語を話すのか未だに不明。

 人食い狼と呼ばれる種族『ウェアヴォルフ』の調査より難航している。

 雑食だし、目は青いし、サイドバッグには色々入ってるみたいだし、増々謎が増えるばかり。

 今回分かったこと、赤いフード付きコートは恐らく形見だ。

 それとサイドバッグのポケットにコートを戻した時、空のミニワインボトルが1本、入っていたのが見えた。

 あれも形見なんだろうか。

 引き続き調査を行う。 


 手帳をテントにしまい、コニー・アーベルは折り畳みイスに腰掛けた。

 ホルスターに収めたシングルアクションの軍用自動拳銃。

 首に提げた楕円形の認識票。

 黒縁フレームのメガネをかけ、目には隈が薄っすらできている。

 成人男性の背丈、痩せ気味の体。

 電池式のランタンをウグイス色のテントに吊るし、明かりを照らす。

 その傍ら、海のように澄んだ青い瞳をもつ狼が伏せていた。

 足元は白く、胴体にいくにつれ灰の毛が混じる。

 軍用のサイドバッグを常に装備しているが、片側だけポケットの留め具ごと破損していた。

 リンゴをむしゃむしゃ、シャクシャクと食べている。

 果肉も果汁も逃さず、大きな口と鋭く太い牙で喰らう。


 コニーは厚みのある封筒を開け、手紙を抜いた。

 手紙もまた厚みがあり、高級便箋に指先が一瞬躊躇う。

 それでもしっかり掴んで文字を読む。


『なんて書いてあるの?』

「他愛のないことばかりだよ、あとはまた狼の話を聞かせてくれってさ」

『狼の話?』

「訓練時代に、メリナ様と話す機会があったんだ。その時に色々独自で調査していたことをね。彼女は頻繁に来ては興味津々に話を聞いてくれたよ」

『ふーん、愛してるってやつかなぁ』


 コニーは片眉を顰め、便箋が微かに歪む。


「まさか、当時メリナ様はまだ13才。有り得ない」

『恋と愛は年齢も性別も種族の壁さえも凌いでしまう魔法だよ。有り得ない話じゃないと思うな』

「君は、また哲学みたいなことを……」


 狼はニコニコと続ける。


『テツガクのことはよく知らないけど、愛している、は不思議なんだ。胸がキュウって締め付けられる、温かいような怖いような』

「うーん、よく喋る狼だ」

『独りが多いと喋ることも増えるもん』

「まぁーそう、かも?」

『そうだよ』


 呆れつつ、コニーは目の隈を撫でて手紙の続きを読む――。

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