報告書

 マッケナ暦40年 太陽の日 1日

 眠気が吹っ飛ぶ事態に遭遇。なんと、喋る狼が僕コニー・アーベルの前に現れた。

 辺鄙な土地で、廃村となったこの場所でリンゴの世話をすることはや5年、人食い狼調査から外されて以来の狼と接触。

 人間と対話も可能、人馴れもしており、哲学的なことを言ったり、無邪気だったり様々な表情を見せてくれる。

 彼はリンゴが大好物。

 偶然も偶然、孤独に世話をしていた努力が報われた瞬間だった。リンゴを取引に使う。

 生態調査をさっそく開始(本人の承諾を得た上での調査である)

 名前不明、性別は雄で成獣、体長は140センチほど、体重は抱えた感じだと30キロ。

 瞳は、珍しい、というより有り得ない綺麗な青色をしている。

 本来はどの狼も琥珀色、金眼と呼ばれている目をしているはず。

 まだまだ謎が多いけど、間違いなく彼はイレギュラーな存在だ。

 増々興味が湧いてくる。

 引き続き生態調査を行う。

 コニー・アーベル


 コニーはノートに書き留めたあと、テント内に置く。

 

『ねぇねぇ狩人さん』


 狼は軽快な足取りで駆け寄る。

 海のように澄んだ青い瞳は穏やかな表情。

 足元は白く、胴体にいくにつれ灰が混じる毛並みを持つ。

 軍用のサイドバッグを胴体に装着している。


「もうお腹空いた?」

『違うよ、ボクをなんだと思ってるのさ』


 鼻息を強くして、コニーを睨んだ。


「ごめんごめん。それで、なんだった?」

『この近くに骨が埋まってたよ』

「ほ、ね?」


 コニーは傾げつつ、狼のあとをついていくことにした。

 廃村の中央に設置したテントから60メートル離れた先に草土を掘り返したばかりの窪みがある。

 覗けば、人か獣かも区別がつかないほどバラバラの骨が土にまみれていた。

 コニーは黒縁メガネを指先でかけ直し、戸惑い、ジッと見下ろす。


「ほ、本当に、骨だ……どうして村の近くに……ニオイで気付いた?」

『ううん、埋めた跡っていうのかな、他の場所より膨らんでたから気になって、掘ってみたよ』


 辺りを見回しても特に何もない。

 廃村から離れた果ての大陸、その先は国境ゲートがある小さな谷だけ。

 コニーは眉を顰め、目の隈を擦る。


「僕が……ここに狩人として配属された時、いつ廃村になったのか誰も知らないって聞かされていた。これは、念の為軍に報告書を送るよ」

『軍の人が来るの?』

「多分、とにかく戻ろう」


 テントに戻る頃には、コニーの顔はやや青ざめていた。

 折り畳みイスにそっと腰掛け、ミニテーブルに紙とペン。


『顔色悪いね、大丈夫?』

「あぁうん、大丈夫……僕は、だいじょうぶ。リンゴ、カゴに入ってるから食べておいで」

『うん、食べる!』


 青い目を輝かせて、カゴにぎっしり詰まったリンゴを1個、大きな口に運ぶ。

 鋭く太い牙を貫通させ、シャクシャク、と熟した甘さを味わう。

 果汁も逃さず、飲み込んだ。


『んまい! でもあの骨……ヒト、なのかなぁ? もしかして?』


 狼はなんとなく、本当になんとなく呟いた……――。

 

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