第6話 自分からへし折るタイプ


 仕事のお昼休憩時間。

 ルームシェアっていったって私の部屋は1LDKだからなぁ、と私用のタブレットで物件情報を検索してみる。

 プライバシーは守りたいし、住むなら引越しした方がいいんだよなぁ。


「あら、結城さん、引っ越すの?」

 画面が目に入ったのか、背後から同じチームの先輩に声を掛けられた。

 陽菜多の話をすると、「で、結局一緒に住むことにしたんだ?」と問われ、「いや、断っているので……」と、我ながら何とも曖昧な返事になった。

 

「え、でも物件情報見てるじゃない」

「いや、これは、もし、万が一住むことになったら、2LDKってどんな間取りがあるのかなって」


「乗り気じゃない」

「うーんでも」


 何か問題でもあるの?と問われ、何が問題なのかを考える。


「……あの子、異様に私に執着するんです」

「ん?」


「しかもたまに話してる最中に顔が赤くなったり、怒り出したりするし、思春期だからなのか最近は扱いも難しくて」

「ほぅ。もっと詳しく」


「この間なんて、夜も遅い時間に部屋の前で待っていたんです。その直前に街中で遭遇した時は私の事無視したくせに」

 あ、因みにその時同じチームの渡邉といたんですけど、と付け加えると、先輩は「なるほど」と深く頷いた。


「一緒に居たい、とか言うし」

「随分と直球ね…」


「…先輩さんもなにか思うところあります?」

「まぁ、そこまで状況証拠が揃っていたら」


 なるほど、そうしたら先輩も私と同じ考えなのかもしれない。


「……ですよねぇ、あの子は、私を母親代わりだと思っているのかもしれないって」

「は?」

「はい?」


 あまりにも驚いた顔をしているので、「私、変な事言いましたか」と問いかけると、「結城さんってフラグを自分からへし折るタイプ?」と別方向からの質問が飛んできた。

「フラグ?へ?」

「これまで異性と…ああ、何でもいいけど、他人とお付き合いしたことは?」

「え、ありませんけど」


 ふぅん、と先輩が私の事を頭の先からつま先までじろじろと見る。

 まるで品定めされるような見方に、思わず身じろぎしてしまう。

「あのぅ」

「見た目は悪くないのよねぇ。美人ではないけど可愛らしいっていうか。健康そうっていうか」

「それ褒めてます?」


 なるほどねぇ、と笑う先輩の言う事がひとつも分からず、ただ私は戸惑うしかなかった。

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