第4話 私、何か怒らせるようなことしましたか?


「ぶっはぁー!それでね!Blu-rayディスクとグッズも届くわけですよ」

「ほぉー。アニメの2クール分のディスクを一気に購入となるとかなりの出費じゃないですか」

「そうなの!フィギュアや細かいグッズも合わせるとトータル10万は超えたわ」


 焼鳥を頬張りながら、それを冷たいビールで流し込む。

 今日は仕事終わりに同僚の男性社員とともに飲みに来ていた。

 水曜日で平日のど真ん中だけれど、週の後半の活力を養うためには必要な、最高の一時なのである。


 ふたりとも研究職だからか、自分の好きなものへはとことん拘りがあるし、のめり込む。

 例えばこの同僚は、ドール、いわゆる人形が好きなんだけど、親から譲り受けた一軒家の一室をドール専用にし、24時間空調管理をしているらしい。

「この間も新しい子をお迎えしたんだ」と、新しく購入(お迎え、というらしい)したドールの写真を見せてくれた。


 わたしもフィギュアを集めている手前、その気持ちはなんとなーくだけど、分かる。

 いや、流石に24時間の空調管理とか衣装手作りとか、そこまではしないが。


 まぁ、こんな生活してたら彼女はできそうにもないよな。

「僕は結城さんもなかなか彼氏できそうもないと思うけど…」

「お、なんだ戦か?受けて立つわよ?」

 私の周りは敵だらけなのかもしれない。


「まぁでも、自分のエネルギーを自分の好きな事に振り切っている感はありますよね。その分、生活はダメダメだもの。今、家に未開封の郵便物も溜まってるし」

「いや、僕は生活はそれなりにちゃんとしてるけど……。って、郵便物はちゃんと見た方がいいですよ……」


「えー…、そこも仲間だと思っていたのに」

 あ、そういや不動産管理会社から着信が何件か入ってたな、とふと思い出す。

 おそらく、浄水器か格安を謳った電気会社乗り換え案内の営業電話だ。

 そう思って、折り返してないんだけど。


「さて、帰りますか」

「何言ってるのよ。もう1軒行くわよ」

「えー。今日は平日ですよ。僕、はやく家に帰って新しい子の着せ替えしたいのに……」

「文句の多い男はモテないわよまだ時間も早いんだか…ら……」


 うだうだ文句を垂れている同僚を引き連れていると、バッタリと制服姿の陽菜多に出会う。

 どうやらあちらも友人達と遊んでいた帰りのようだ。


「あっ、ひな――」

 た、と言葉を続ける前に、陽菜多は私の後ろにいる同僚を一瞥すると、スッと目を逸らして行ってしまった。


 明らかに真正面でお互いの目があったのに、だ。

「え、ええーー……」


 反抗期はまだ続いてるんだろうか。

 それとも何か怒らせるようなことをしたのだろうか。

 思い当たるのはこの間の電話だけれど、あの子、尾を引くタイプじゃないんだよなぁ。


「ねぇ!2軒目行こうって僕を引っ張ってきたのって、結城さんだったよねぇ!?」

 2軒目の店でそんな文句を言う同僚を尻目に、私はそれどころではなく、首をひねって黙り込んでいた。

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