第3話 可愛ければいいとか、そういう問題じゃない
気づけば陽菜多も高校生になり、私はちょうど三十路の社会人になった。
流石に親子とまでは思われないだろうけど、一周り以上の年の差はある。
「大丈夫。芽衣ちゃん可愛いよ?」
そういう問題じゃない。
今日も今日とて、陽菜多からの電話である。
仕事終わりで疲れているのに、姪っ子からの電話を無視するのは忍びなく、結局通話ボタンをタップした。
この子の電話は特にいつも大事な要件はない。
今日学校でこんなことがあった、テストで良い点が取れたと自身の話をすることもあれば、私の職場周りのことを聞いてくることもあった。
職場周りのことを聞いてくる時は大体が、気になる人はいないか、連絡を取っている人はいないか、だとかの人間関係に終始して、まるで尋問を受けているかのような気分になる。
「はいはい、あんた以上に連絡取っている人なんて、なかなかいないわよ」
そう言うと、電話の向こうのあの子は明らかに嬉しそうな声で「あっ、そう」なんて返してくるのだ。
いつまでたっても叔母ちゃん離れができていないのだ。
ただ今日の電話は、開口一番、ルームシェアの件についてのプッシュだった。
どうやら本気らしい。
「だってさ、ルームシェアすると男連れ込めないじゃない。私だって彼氏とかのひとりやふたり」
「え、芽衣ちゃん、彼氏つくる気あったの!?」
いま目の前に陽菜多が居たら、頭をひっぱたいていたかもしれない。
こいつら親子は揃いも揃ってデリカシーってもんが無いのだろうか。
とまあ、気を取り直して。
「こう、30代ってまだ若いのよ。まだまだ迸るものがあるっていうか、まだイケるっていうか」
「分かる。女性って歳を重ねるごとに性欲も増すっていうよね。芽衣ちゃんがスマホでよくエッチなサイト見てるのも知ってるし」
「いやなんでしってるのそれわけわかんないんだけど!」
慌てる私に、大丈夫だよ、と優しく囁きながら、電話の向こうの姪っ子は言う。
「私もそういうとき、ある」
そういう問題じゃないと思うし、いつまでも子どもだと思っていた姪のそんな性事情知りたくない。
「あんたに何が…」と言いかけて、はたと思い出す。
そういやこの子、現役女子高生で思春期真っ只中だった。
しかも陽菜多は、一般的に見てもそこそこ可愛い顔立ちをしている。
こんなの、周りの多感なお年頃の男子が放っておくわけがない。
「え、陽菜多ってもしかして…彼氏とかいたり……」
「はぁっ!?いないよっ!?バッカじゃないのっ!?」
突然の反抗期である。
滅多にない、結構な剣幕である。
思わず心臓が飛び跳ねた。
そんな言い方しなくてもいいと思うんだ。
おばちゃん、ちょっとびっくりしたよ。
「あ、ごごごごめんねっ」
「……まさかとは思っていたけど……この鈍感っ…チッ」
あれ、いま舌打ちしました?
おばちゃん、初めての姪っ子の反抗期にほんとに泣いちゃうよ?
「芽衣ちゃんのバカ!!」
ブツンと切られた通話終了の画面を見る。
なんなんだこの子は。
そもそもどんな恋しているんだ、と心配になったけれど、思春期だから仕方ないか、とそう結論づけることにした。
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