第61話 到着

夕暮れの柔らかな光が、森を金色に照らし出していた。


フィルニアは振り返り、カイとミナに声をかけた。

「もうすぐグリーニアにつくよ。」


グリーニアとは、フィルニアの故郷の村の名前だ。


「見えてきたわ。今は、魔物に襲われていないみたいね。」

フィルニアの声には安堵の色が感じられた。


そして、その向こうに見張りのエルフの影があった。


フィルニアはミナに、そっと語りかけた。

「ミナ、もう大丈夫よ、ついたわ。

 物資はどうする?アイテムボックスは秘密にするんだよね。」


ミナは短く頷いてから、答えた。

「あっ、うん。荷車に乗せて運んできたように見せよう。」

と言って、ミナは手を前に出し空間を裂く。

そこから一台の大きな荷車を取り出した。


「でかい荷車だなぁ。」

カイはつぶやいた。


ミナは、自慢げに言った。

「たくさん持ってきたからね。

 これに乗せられる分の100倍以上はあるよ。

 取り出すから、積み上げてくれる?」


「「わかった。」」

とカイとフィルニアは言った。


ミナは荷車から次々と物資を取り出し、それをカイとフィルニアが手際よく荷車に積み上げていく。

やがて荷車には大量の物資の山ができた。

ミナは満足そうに言った。

「こんなもんでいいかな。」


カイに一枚の紙を渡して言った。

「これが、持ってきた物資の一覧だよ。渡すの忘れてた。」


カイは紙に書かれた一覧を見つめ、感嘆の声を漏らした。

「よく一日で、これだけ揃えられたな。」


ミナはにっこりと笑って、言った。

「ある商会長と知り合いになれたんだよ。」


カイは感心の声を上げた。

「へぇ〜、ミナの行動力は、すごいなぁ。」


そのやり取りを見守っていたフィルニアは、見張りのエルフに声をかけた。

「お〜い。ライアン!援軍を連れてきたよ〜。」


ライアンの視線がフィルニアと二人の子供に向けられた。

「おぉ。フィルニア。よく帰ってきてくれた。すごい荷物だな。」


フィルニアは少し息を整えながら言った。

「これは、全部。戦いの物資だよ。

 運んでくるの大変だったんだから、運ぶの手伝ってよ。」


ライアンは、フィルニアがどれだけ困難を乗り越えてきたか、それを思うと感謝の言葉しか出てこなかった。

「ありがとう。助かる。それで、援軍は?」


フィルニアは、ミナとカイを指差した。

「ここにいる二人よ。」


ミナは自信に満ちた声で自己紹介を始めた。

「ミナと申します。Cランク冒険者です。」


続いてカイも、笑顔を浮かべて自己紹介をした。

「カイと申します。Cランク冒険者です。」


ライアンの視線が二人に移った。

「その若さで、Cランク冒険者とはすごいな。来てくれてありがとう。」


ライアンは僅かな期待を込めて言った。

「他には来てくれるのかい?」


フィルニアの答えは、淡々としていた。

「これだけよ。」


ライアンは明らかにがっかりした顔をして言った。

「そっか・・・。」


フィルニアは、ライアンに言った。

「文句言わないでよ。

 そもそも、王国からの安全保証の提案を断ってきたのはこっちなんだから。」


ライアンはすぐに気持ちを振り払って言った。

「わかってる。ちょっとそこで待っててくれ、物資を運ぶ者を呼んでくる。」


フィルニアは、ライアンの背中を見送りながら、つぶやいた。

「ミナ、カイ。ごめんね。」


「フィルが謝ることはないよ。

 Cランク冒険者が二人では物足りないってことがわかった。

 それだけ厳しい状況ってことだろうな。

 これだけの物資でたくさんと言っていたってことは、

 多分、ミナの準備した物資は十分以上とみていいだろう。

 戦力をあげること、これが課題なんだろうな。」


カイは、フィルニアとライアンとのちょっとした会話から、この村の状況を分析していたのだ。



村の門をくぐり、ライアンは数人の戦士を引き連れて帰ってきた。


ライアンは、フィルニアたち三人に向けて声をかけた。

「改めて、

 ようこそグリーニアへ。

 来てくれてありがとう。

 感謝する。

 長老のところに行ってくれないか。

 物資は大切に預かるよ。」

その言葉には、誠実さと感謝の心が込められていた。


「わかったわ。

 ミナ、カイ、荷物を預けて、私についてきて。」

フィルニアは、村の中へと足を進めた。


その先に長老の家があった。

木々に囲まれたその建物は、村の長老が住むに相応しい風格を持っていた。


「ここがこの村グリーニアの長老の家よ。入りましょう。」

フィルニアの言葉に、二人は頷いた。


その扉を開くと、そこには長老ソレリアと、この村グリーニアの戦士長アイレンが待っていた。


「戻りました。援軍として、ミナ、カイの二人を連れてまいりました。」

フィルニアが報告した。


続いて、一歩前に踏み出したミナは、自信に満ちた声で言った。

「ミナと申します。」


ミナに続いてカイも自己紹介をした。

「カイと申します。」


長老ソレリアが言った。

「よくぞ来てくれた。

 たくさんの物資も持ってきてくれて大変ありがたい。

 心から感謝申しあげる。

 アイレンよ。この村の状況を話てやってくれないか。」


アイレンは深呼吸を一つし、声を整えて語り始めた。

「説明させていただく。

 各地のエルフの村から、エルフの戦士達が集まってくれた。

 それぞれの村は、安全を確保してもらうことを優先してもらうことになった。

 この村グリーニア意外は、魔物を倒すのではなく、罠をはり、追い出すことを目的に動いてもらう。

 そして全ての魔物を、このグリーニアに誘導するようにした。

 そのかわりに、このグリーニアに戦士を集めた。

 つまりはだ。このグリーニアに全ての魔物が襲ってくる。

 グリーニアの戦況が、エルフ族の運命を握ることになる。」


フィルニアが尋ねた。

「それで、私がいない間に、魔物の数は減らせられたの?」


アイレンは頷いて言った。

「かなりの魔物を倒した。減っているはずだ。

 だが、襲ってくる魔物の数が減る様子はまだない。

 いくら倒しても、尽きることがないのだ・・・。」


続けてフィルニアは、アイレンに聞いた。

「魔物の全体の数は把握できたの?」


アイレンは首を振った。

「まだわかっていない。」


フィルニアの目が、アイレンを問い詰めるように、きつく見つめた。

「それじゃ、何も変わっていないじゃない。新たな情報は?」


アイレンはフィルニアの質問に、重たい言葉を口にした。

「銀色の狼の目撃情報が入った。

 紅月狼(コウゲツロウ)より、はるかに強いとのことだ。」


それを聞いたカイは、魔物図鑑を取り出し、調べ始めた。


フィルニアはアイレンを見つめて言った。

「それじゃ、状況は悪くなっているじゃない・・・。」


フィルニアの声には不安と落胆が混ざっていた。


カイがアイレンに尋ねた。

「銀色の特徴を持つ狼は、魔物図鑑にも載っていないですね。

 新種ってことですか?」


アイレンは少し驚いた声で言った。

「王国の魔物図鑑にも載っていないのですか?」


フィルニアは、アイレンを責めるように言った。

「戦士長が、知らないなんて・・・。

 王都のCランク冒険者に指摘されるなんて、恥ずかしくないの?」


カイは続けて質問した。

「魔物を倒すと、普通は、肉体は残り、心臓付近に魔石がありそれを取り出す。

 そうすることで、魔物を討伐したことになる。

 だけど、この付近に現れるウルフ系の魔物は、肉体が残らず、魔石だけが残る。

 なぜこのウルフ系の魔物だけ違うのですか?」


「あぁ、そうなんだ。

 我々も不思議に思っていたが、わからないんだ。」

アイレンは正直に言った。


「わからないことだらけね。」

フィルニアはアイレンに向かって言った。

フィルニアの声には厳しさと、ちょっとした怒りの気持ちが感じられた。


フィルニアはそのまま長老ソレリアに向き直り、

「王国の提案を受け入れて、安全保障を受けていればこんなことにはならなかったんじゃないの?」

と問い詰めた。

フィルニアの声には苛立ちと失望感が滲んでいた。


長老ソレリアはゆっくりと口を開いた。

「フィルニアよ。

 エルフ族には、守らなければいけない文化や歴史があるのだ。

 そう簡単なことではないのだよ。」


長老ソレリアの声には深い哀しみとした信念が感じられた。


フィルニアは続けて声を強めて言った。

「ドワーフの国のことを知ってる?

 ドワーフ族は、王国を受け入れているわ。

 そして、その文化も歴史も、王国はドワーフ族のやり方を無理やり変えようとはしていない。

 ドワーフ族は、文化も歴史も含めて保護されそして発展しているわ。」


再び、フィルニアは長老ソレリアに向き直り、冷たく言った。

「エルフ族は、相手の国を信頼しない。

 だから、王都に行っても、多くの助けを呼べないのよ。」


その言葉は、エルフ族の実態を鋭く突いていた。


長老ソレリアは深く息を吸ってから言った。

「フィルニアよ。申し訳ない。苦労をかけてしまった。」


長老ソレリアのその言葉には、心の奥底から来る深い後悔と感謝の感情が込められていた。


そして、長老ソレリアはミナとカイに向かって、言った。

「来てくれてありがとう。許してくれ。

 これまでの非礼を詫びよう。力を貸してくれ。」


その言葉には敬意と期待感が交錯していた。


しかし、ミナは立ち上がり、

「そんな難しいことどうでもいいわ。

 強い敵がいるなら勝つ!

 私にとってはそれ以外興味はないわ。」

と言い放った。


カイは急いでミナを座らせ、

「おい。空気を読めって。」

と苦笑しながら言った。


カイの口調にはあきれと、やや申し訳なさそうな感じが混じっていた。


最後に、カイは皆に向けて、

「なんと言っていいのか分かりませんが、全力を尽くさせていただきます。」

と深々と頭を下げた。

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