第59話 エルフの里へ

朝の光が窓を通じて部屋に差し込み、ミナはベットに横たわる体を起こそうとした。

だが、ミナは体を動かすことができなかった。


フィルニアは、ミナの体を抱きしめ、寝息を立てている。

その顔は涙で濡れていた。

想像以上にフィルニアの心は揺れている。


ミナはしっかりとその光景を記憶に刻んだ。自分の横で静かに泣いているその姿を。


ビクッ


フィルニアが目を覚ましたその瞬間、その表情は恐怖で凍りついていた。


「大丈夫。私がなんとかする。」

と、ミナは柔らかくささやいた。


フィルニアの目には驚きが浮かんだが、そのままミナに抱きしめられ、安堵の涙を流した。


「ミナ、ごめんね・・・私、泣いちゃって。」

フィルニアが小さく囁くと、ミナは頷いて、そのままフィルニアを抱きしめ続けた。


その心地よさに、フィルニアは再び泣き出してしまった。

その温かさは、ミナの存在そのもので、フィルニアはその中で少しずつ心を癒していった。


フィルニアが泣き止んだ後、その顔を上げてミナを見つめた。

「ミナ、ごめん。」


ミナは微笑みながらフィルニアの頭を撫で、優しく語りかけた。

「フィル、泣いていいんだよ。これまでよく頑張った。」


フィルニアは涙ぐんだ目でミナに感謝の微笑みを送った。



ミナは、フィルニアが落ち着いたことを確認するとベットから起き上がった。


ミナは深呼吸をした。


「フィル、行くよ。私たちは決して負けない!」

と言いながら、彼女はフィルニアに手を差し伸べた。

ミナの眼差しは、前へ突き進む決意と未来への希望に満ちていた。



フィルニアは、ミナの手を握りしめ、

「うん」

と小さくつぶやいた。

その中には、恐怖と勇気が混ざり合った感情がほとばしっていた。


フィルニアは、故郷を救うため、これまでの心配や不安を力に変えなければいけない。


二人がリビングへと向かう中、カイはすでに準備して待っていた。

「おはよう、ミナ、フィル。心の準備は大丈夫かい?」

と声をかける。


「もちろん」

とフィルニアが力強く答えた。

その姿を見て、カイの中にも新たな決意が湧き上がってきた。


三人が家を出ると、王都の朝の空気は新鮮で爽やかだった。

市場の賑やかさ、笑顔溢れる街の人々、すべてが新たな冒険の幕開けを彩っていた。


王都の南の門を潜り、三人は広大な森へと足を進めた。


「森に入るまでは安全だ。」

とカイが告げると、ミナとフィルニアは目の前の道を見つめながら、それぞれの思いをせた。



昼過ぎの太陽が三人を照らす中、ミナ、カイ、そしてフィルニアは森の入口に立った。

緑豊かな森の奥には、フィルニアの故郷、エルフの村がある。

しかし、そこへ到達するには魔物との戦いが待ち構えている。

この事実は三人の心に重くのしかかっていた。


カイがまず言った。

「ここから先、魔物が出てくる可能性がある。

 フィル、この森を抜け、君の村までどのくらいかかるだろう?」

カイの声は冷静で、危険を見越し、三人の安全を最優先に考えていた。


フィルニアは答えた。

「このまま進めば、太陽が沈む前には村にたどり着けると思うよ。

ただ、魔物に遅らされなければの話だけど・・・。」

フィルニアの声には、故郷を守る決意と不安が混ざっていた。


カイは地図を広げ、考え込んだ。

「魔物がどれだけ現れるかによるな。2時間、ここから進んでみよう。

その間に魔物がどの程度出現するかを見て、戻るか進むか決めよう。

暗くなる前に到着したいからな。」


カイの判断は、ミナとフィルニアへの配慮が感じられた。



ミナは頷いて言った。

「わかったわ。でも、2時間ってどう計るの?」

ミナは問いかけた。


カイは自信を持って答えた。

「この腕輪には時計の機能があるんだ。

 アリスさんのレポートに書いてあった。

 正確な時間は僕が把握できる。」


アリスに対する敬意がカイの声から感じられた。


ミナは驚きと感謝の気持ちを口にした。

「時計がなくて困っていたんだ。助かるわ。」




カイが改めて話し始めたとき、その声はどこか静かでありながらも、明確な指示と確信に満ちていた。

「じゃあ、これからの進み方について説明するよ。

 魔物は、4種類出ると考えられる。

 一つ目、元々、エルフの森の中にいる魔物。

 二つ目、グレイウルフ。三つ目、黒狼(コクロウ)。

 四つ目、紅月狼(コウゲツロウ)」


カイの目がミナからフィルニアへと移り、二人が頷いた。


「一つ目、元々、エルフの森の中にいる魔物。

 これは、恐れる必要はない。

 リスウサ、こっちでの正式名は、スクイラビットっていうんだけど、その程度の力の魔物くらいしか出てこない。

 これが出たら、ミナは短剣で戦ってくれ。

 斬鉄剣は使わないで、魔力を温存したい。

 僕は投げナイフで戦う。

 フィルは、弓で援護だ。」


 「わかったわ。」

 ミナは力強く頷いた。

 フィルニアも頷く。


カイは続けて語った。

「二つ目、グレイウルフ。

 冒険者ギルドで聞いた限り、僕らの実力と比べてもそれほど強くないらしい。

 でも、慎重をきして、ミナは、初戦で斬鉄剣を使ってくれ。

 初戦の結果にもよるが、それ以降は、短剣での戦いに切り替える。

 特徴を把握するのに専念したい。

 フィルは、弓で援護だ。

 ミナが傷を負ったら治癒魔法を使ってくれ。」



「了解」

フィルニアの言葉は、確固とした意志が感じられ、ミナも黙って頷いた。


「三つ目、黒狼(コクロウ)。

 冒険者ギルドで聞いた限り、Cランク冒険者なら、油断しない限り勝てる見込みだ。

 ミナは、斬鉄剣を使ってくれ。

 全力で行く。

 フィルは、常に、ミナを見失うな。

 僕のことは気にしなくていい。

 傷を負ったら治癒魔法だ。」


そのカイの言葉に、ミナとフィルニアは再び頷いた。


そして最後に、カイは深呼吸をしてから、言った。

「四つ目、紅月狼(コウゲツロウ)。

 冒険者ギルドで聞いた限り、こいつは強敵だと思われる。

 ミナは、斬鉄剣を使ってくれ。

 僕は、ボウガンを使う。ミナは、うまく誘い出しスキを作ってくれ。

 フィルは、常に、ミナを見失うな。

 傷を負ったら治癒魔法だ。

 僕が撤退の合図を送ったら、倒すのではなく、逃げるに切り替えるぞ。」


その言葉に、ミナとフィルニアはほぼ同時に言った。

「「了解!」」

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