第58話 出発前日

鳥のさえずりと共にフィルニアは目を覚ました。

フィルニアの目の前にはミナの寝顔があった。

まだ深い眠りの中にいるミナの表情は安らかで、彼女の頭はフィルニアの胸元にしっかりと寄りかかっていた。

そんなミナを見て、フィルニアの胸はなぜかとても脈打っていた。

ミナの頬が触れる胸元は温かく、フィルニア自身がほんのりと赤くなるのを感じた。

しかし、それは決して嫌な感じではなかった。むしろ、とても心地よい感覚だった。


ミナの力強さ、その素直さ、そしてこの安心感。

フィルニアはミナに対して不思議な感情を抱いていた。


「ふぁ〜、おはよう。フィル、よく寝れた?」

ミナがゆっくりと目を開け、フィルニアに問いかけた。


「う、うん。おはよう、ミナ。よく寝れたよ。」

フィルニアは素直に答えた。


そして、そのままミナの目を見つめた。

ミナが自分に近づけば近づくほど、フィルニアの胸はますます高鳴っていく。



ミナは、ベットから起き上がる。


フィルニアは、ベットから起き上がるミナの背中を見つめ、フィルニアの心は一瞬、少しの寂しさを覚えた。


そして、ミナは、さっさと寝巻きから着替える。



「さて、今日は、物資の整理よ。届いたものをしっかり確認して、メモに書き記すのよ。」

ミナの言葉に、フィルニアはその寂しさを振り払い、現実に意識を戻した。


そうだ、今日は物資を整理しなければいけない。


ミナがフィルニアを見つめて考える。

フィルニアは、ドキッとする。何かがフィルニアの心を駆け巡った。


「そうね。今日は冒険に行くわけでもないから、動き安い服がいいわね。」


ミナが探して出してきた服は、なんとも言えないミナらしい色合いで、それを見た瞬間、フィルニアの心臓の鼓動が早まった。


「それを着てみて、サイズは同じくらいだと思うけど。」

フィルニアはミナから渡された服を受け取り、


「あ、ありがとう。」

と感謝の言葉を述べた。

その言葉は、ただの礼ではなく、心の底から湧き上がる何かの意を込めたものだった。


「じゃ、先に行ってるわね。」


ミナの声が部屋に響き渡った後、しばらくの静寂が流れる。

ミナの存在が部屋から去ったことを実感し、フィルニアはふと孤独を感じた。

しかし、それは一瞬のことで、すぐにミナから受け取った服の温もりに包まれ、再び心地よい気持ちが心を満たした。


フィルニアは、しばらくほうけていた。


フィルニアは、我を取り戻し、つぶやいた。

「何を考えているんだ・・・、私は・・・。

 目的を忘れちゃいけない!」




ミナは、一階のリビングに足を運んだ。


リビングでは、カイがすでに起きており、出かける準備をしていた。


「おはよ〜、カイ。」

ミナの元気な声が響く。


カイも顔を上げて答える。

「あっ、ミナ、おはよう。

 レッドは、昨晩帰ってきてたみたいだよ。」



「えっ、ホント!今は、どこにいるの?」

ミナは、辺りを見回しながら問いかけた。


「なんか、もう出かけちゃったみたい。」

カイは静かに答えた。


カイは、レッドからの手紙をミナに手渡していった。

「これを読んでよ。」


ミナは手紙を開き、その内容を目にした。



  ミナ、カイ へ

  また、騎士団に入ることにした。

  しばらく、帰ってこれないと思う。

  家は、好きに使ってくれ。

  手料理、うまかったぞ。

  俺が、前に進めたのも、ミナとカイのおかげだ。

  感謝している。

         レッドより


  追伸:庭にいろんな物が置いてあるが、ちゃんと片付けておくんだぞ!




「そっか〜、また騎士団に入ったんだね。

 あんな過去があったのに・・・。

 レッドって、やっぱり、剣だけじゃなく、心も強いんだ。

 もっともっと強くなりそうだな。

 私も早く追いつかなきゃ。」

ミナは、レッドが教えてくれた剣術の稽古のことを思い出していた。




その時、フィルニアがリビングに姿を現した。


「おはよ〜、カイ。」

フィルニアの声は朝日のように優しかった。



カイからレッドの話を聞いたフィルニアは、

「えっ、嬉しい。

 私の料理を食べてくれたんだ。

 でも挨拶できなかったな。」

と、少し嬉しさと残念さが混ざったような顔でそう言った。

その言葉は、フィルニアの心の中にある感謝の気持ちを表していた。





「冒険者ギルドに行って、必要なものを買って来るよ。」

カイは、そう言って出かけていった。



「いってらっしゃ〜い。」

ミナとフィルニアは声を合わせてカイを見送った。


ミナはカイが扉を閉める音と同時に、食堂へと足を運んだ。

キッチンの角には、昨日の残りのパンが置かれている。

ミナは一つのパンを選び、フィルニアが作ったトッピングを塗りたくる。

チーズの香りと、芳醇なハーブ、そしてクミンとパプリカのスパイシーな香りが、朝の空気に溶け込む。


ミナは手にしたパンをかじりながら、ミナは心を躍らせて庭に向かった。


庭の木々が、朝の新鮮な風に揺れていた。


「さて、何が置いてあるのかな〜。」

と、期待感溢れる声を上げた。


フィルニアはミナに続いて現れた。


「ミナ、朝食くらいゆっくり食べようよ〜。」

と言いながら、フィルニアは優しい笑顔を浮かべていた。

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