第57話 夕食会と今後の予定
ミナは、カイを食堂へ案内した。
フィルニアは、キッチンの奥で、紅茶を入れている。
ダイニングテーブルの上には、フィルニアの手作りの料理が並んでいた。
■野菜スープ
フィルニアは王都市場の新鮮な野菜を鍋に入れた。
ニンジン、ジャガイモ、セロリ、玉ねぎ、そしてフィルニアの手によってひとつひとつ丁寧に選ばれた香辛料、ベイリーフ、コリアンダー、クミン、そして少量のクローブを加えて一体感を出す。
香辛料の特徴的な風味を加えつつ、各種野菜のうまさを引き立てる。
■ローストチキン
フィルニアはまず、鶏肉をハーブとスパイスで
タイム、ローズマリー、ガーリック、そして市場で見つけた特別なスパイス、スターアニスとカルダモン。
それらが鶏肉の香りを引き立て、そして焼き上がりの肉が香ばしく、スパイシーな風味を放っている。
■フルーツサラダ と ミントとハチミツのドレッシング
フィルニアは市場で見つけた新鮮なフルーツを使い、色とりどりのサラダを作った。
甘いベリー類、シャリシャリとしたリンゴ、そして柑橘類。
それらに軽く振りかけられたカイエンペッパーが奥行きのある風味を加える。
その上に、新鮮なミントとハチミツを混ぜたドレッシングをかけ、辛さと甘さが絶妙に融合する。
■パンの付け添え
ミナが買ったパンをフィルニアは華やかに彩った。
王都市場で見つけた異国の情緒のあるさまざまなチーズ、ハーブ、そして少量のクミンとパプリカをトッピングに使用。
そして、それぞれのパンにはフィルニアの治癒の魔法が丁寧に込められている。一つ一つが美味しく、そして温かい気持ちをもたらす。
その料理を目の当たりにしたカイは、驚きと感動で言葉を失っていた。
「これは・・・すごいね。料理が本当に・・・美しい。」
と声を震わせながら言った。
「でしょ〜。」
ミナは、微笑みながら我が物顔で言った。
カイの言葉に、フィルニアはにっこりと微笑み、頷いた。
ミナ、カイ、フィルニアの三人は、満ち足りた表情でテーブルについた。
しかし、そのテーブルには、まだ空席があった。
それは、レッドの存在だった。
「レッド、まだ帰ってこないね。どうしようか。」
ミナは、カイに相談した。
ミナの顔には、困った表情が浮かんでいた。
カイは、ミナの問いに冷静に答えた。
「いつ帰ってくるのか、そもそも帰ってくるのかもわからないから、食べてしまおう。
帰ってきた時のために取り置きしておけばいいんじゃないかな?」
ミナは頷き、笑顔を見せた。
「そうね。せっかく出来立てだもの、美味しくいただきましょ。」
「「「いだだきます!」」」
その声と共に、ミナ、カイ、フィルニアの三人は一斉に手を伸ばした。
そのテーブルに並べられた料理の鮮やかさは、語り継ぐことができないほどだった。
一つ一つの料理が、自身の色と香りをまとうと、まるでそれらが生命を宿したかのように見えた。
ミナはまず、野菜スープを一口すすった。
その瞬間、口の中で広がる野菜の味わいと香辛料の風味は、ミナの五感を一気に覚醒させる。
ミナの瞳は驚きと喜びで輝き、その一滴一滴が舌を通り抜けて胃に流れ込む度、心地よい暖かさが身体全体を包んだ。
カイはローストチキンにフォークを刺し、優雅に口元へ運ぶ。
カイの舌が肉の表面に触れると、香ばしい風味とスパイシーな味わいが広がり、その美味しさに目を閉じた。
鶏肉の柔らかさ、ハーブとスパイスの調和、そして焼き上がった肉から立ち上る芳香。
それらが一体となって、カイの味覚を魅了した。
フィルニアも料理を楽しんだ。
フィルニアのお気に入りのフルーツサラダとミントとハチミツのドレッシングは、心を癒す。口に広がる甘酸っぱさと風味の深さが、自然の恵みへの感謝の気持ちを思い起こさせ、心を満たす。
パンを一つずつ手に取り、フィルニアが作ったトッピングと合わせながら楽しんだ。
そのパンのはなつ豊かな味と香りが、食事の後味を繊細に包んだ。
食事が終わった後、三人は紅茶を手に取り、食後の余韻に浸っていた。
そして、それぞれが一口ずつ紅茶を口に運びながら、三人は話を始めた。
ミナとフィルニアは、カイに今日の出来事を詳しく説明した。
それを聞いたカイは、眉をひそめて考え込んだ。
「なるほどね。それで、さっきから、庭にいろいろな物がとどいているのか。」
ミナは頷いた。
「そうそう。それで、今回は、レッドは来ないと思う。
今朝のレッドの顔は、何かを決意したような顔をしていた。
レッドは、レッドの道を進む。そんな感じがした。
これまで、いろいろお世話になっちゃってるから、邪魔しちゃいけないんだよ。
だから、今回は、この3人で向かう予定。」
ミナが言った。
カイはそれに答えた。
「賛成だ。レッドに頼ってばかりはいられないからな。」
カイの眼差しは、決意に満ちていた。
カイはフィルニアへ、実に慎重にその計画を説明した。
「じゃあ、僕は、明日、冒険者ギルドへ行ってくるよ。
身分証を更新して、フィルさんという案内人はいるにしても、地図が必要だな。
それと、僕も魔法の本が欲しいな。
あと、ミナ、フィルニアさん用で僕と同じやつでいいから、
アイテムボックスも買ってあげないか?」
フィルニアはうつむきながら答えた。
「ミナと、同じく、フィルとお呼びください。
あと、アイテムボックスなんて高価なものを買っていただくなんて・・・。」
フィルニアの声は小さかった。
カイは優しく微笑んで、答えた。
「じゃあ、フィルって呼ばせてもらうよ。
僕のことはカイって呼んでくれ。
それで、アイテムボックスをフィルに持っていてもらいたいのには、
ちゃんと理由があるんだ。
これは、他の者には言わないで欲しいことなんだけど・・・。」
カイは言葉を途切れさせ、ミナに視線を向けた。
目で問いかけたのだ。『ミナのアイテムボックスについて言ってもいいだろうか』、と。
ミナは頷いた。
「ミナのアイテムボックスは、とても強力で、特別なんだよ。
ほぼ無制限に物が入ってしまう。
だけど、ミナは常に前線で戦う役目がある。
僕とフィルは、後方支援って役目になるんだ。
必要な時に必要な量を取り出せることが僕たちの役目でもある。
理想は、後方支援の僕たちが、物資のコントロールをするべきなんだ。
無事にフィルの故郷を助けられたら、アイテムボックスは中身ごと返してもらうよ。」
カイの説明は具体的だった。
フィルニアは目を落とし、少し頼りない声で言った。
「私、ミナに、たくさんのお金を使わせちゃってるの。
私の故郷を助けてくれようとしてくれて、本当に感謝しているわ。
でも、それがお金で返せるかというと・・・。」
フィルニアの言葉は震えており、言葉に込められた感情が胸を詰まらせていた。
カイは心を落ち着かせ、ゆっくりと答えた。
「フィル、ミナが今日使ったお金の分の全てが、
フィルの故郷を助けるためだけに使うとは考えなくていいんだ。
僕とミナは、その後の冒険のことまで考えているんだ。
今回使わなかった物は、その後の僕たちの冒険で使うだけのことさ。
それに僕たちは、お金で返してもらおうと思ってない。
この世界のことをもっと知りたいんだ。
僕たちがここにいる理由も知りたい。
この世界の人たちの役に立ちたい。
そのために僕たちは進むんだ。
僕たちの進むべき道を示してくれたフィルに感謝してるよ。」
カイの言葉は真摯であり、強い意志と信念が感じられた。
フィルニアは、困った顔で言った。
「そんな・・・。私、どうしたら・・・。」
フィルニアの心は混乱し、声に迷いがあった。
「カイ!難しいこと言わない!
私たちがやりたいからやる!
それだけのことじゃない。フィルが困ってるじゃない!」
ミナの声は力強く、態度には友情と決意が溢れていた。
カイは、ミナの言葉に同意し笑いながら言った。
「まったくその通り。それだけのことだ。」
その笑顔は温かかった。
ミナはさらに言った。
「クヨクヨ考えてないで、前へ進もう!」
その言葉には力があり、すべての迷いを払いのけ、前へ進む勇気を与えるように響いた。
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