第56話 フィルニアの料理

ミナとフィルニアはロカルト商会を後にした。

エドリックは、二人の姿が視界から消えるまで見守った。


ミナとフィルニアは、路地に入る。

ミナは疲労感のある顔を見せた。

「あ〜、緊張した〜。」


フィルニアも共感を示した。

「だね〜。でも、すごくお金使わせちゃったけど大丈夫?」

と聞いた。


ミナは顔を上げ、力強く言った。

「お金のことは心配しないで、フィルニアの故郷の方が大事でしょ。」


フィルニアは、ミナの言葉に感謝の念を込めて頷いた。


フィルニアは

「じゃあ、お礼に・・・全然足りないけど・・・、

 今晩料理を作らせて欲しいな。」

と言った。


ミナは、喜んで言った。

「ぜひ、嬉しい。

 うちには、あと、カイという男の子と、レッドという大人が一人いる。

 だから、子供3人に大人一人分あれば十分だよ。」


フィルニアは、疑問に思って問い返した。

「あれ、レッドさんって、出て行ったんじゃないの?」


ミナは、笑いながら言った。

「そうよ。レッドは、朝、出かけて行ったよ。

 あ〜、それと戻らないかもとも言っていたか。」


フィルニアは、少し混乱しつつ問い返した。

「そうなんだ〜、いろいろ話が繋がらないから混乱してたよ〜。」


ミナは、笑いながら言った。

「あはは。ごめんね〜。レッドの名前、いっぱい借りちゃった。

 ちなみにレッドは、一緒に住んでるけど、お父さんじゃないからね。」


フィルニアは、少し驚いて問い返した。

「え〜!そうなの?エドリックさん、絶対、レッドさんの娘さんって思ってるよ!」


「ふふ〜ん、思わせておけばいいさ〜。」


そうして、二人は、市場で食材を調達することになった。




フィルニアが市場を見回す姿は、あたかも新しい冒険に出るような興奮と期待感に満ち溢れていた。

フィルニアは王都の市場に来るのが初めてで、その光景に目を輝かせた。


「すごいね。いろんな食材が揃ってる。」

と感嘆の声をあげた。


ミナはそれを聞き、自然と口元が緩んだ。

「王都は、農業や、畜産が盛んなんだって。

 そして、西の砂漠を超えた所から、いろんな香辛料も仕入れているみたい。」

と説明した。


フィルニアはミナの言葉に刺激された。

「じゃあ、いろんな味を試してみていい?料理には自信があるんだ。」


「ぜひ!嬉しい。もし、作れるなら、どれだけたっくさん作っても大丈夫だよ。

 私は、秘密の長期保存ができる収納庫を持ってるんだ〜。」

と、ミナは言った。


「秘密を話したら、秘密じゃなくなるじゃない。」

と、フィルニアはミナに言って笑った。


フィルニアは楽しそうに笑いながら、市場でのお買い物を楽しんでいた。

フィルニアの小さな手は買い物かごの取っ手に巻きつき、瞳は食材の一つ一つを評価し、厳選していた。


ミナはフィルニアを見て微笑み、

「私はパンを買いに行ってくるから、好きなだけ食材選んでいてね。」

と言い残し、小銭袋を渡して去っていった。


フィルニアの目はその言葉と共に輝き、料理への情熱を抑えることができなかった。

フィルニアは野菜売り場に立ち、色とりどりの野菜を愛おしげに手にとり、それぞれの香りを確認しながら購入するものを選んだ。

エルフとしての自然の知識を活用し、自然から採れる食材の中でも最も新鮮なものを見極める。


次に目にとまったのは、滅多に手に入らない香辛料の棚だった。


「これは何の香辛料?」

と、フィルニアは興味津々で店主に尋ねた。


店主はフィルニアの興味に好感をもち、各香辛料の特徴を丁寧に説明してくれた。

フィルニアは香辛料の一つ一つを手にとり、その香りを感じてみる。

肉料理に合うもの、野菜料理を引き立てるもの、スープのアクセントになるもの。

そして、時折耳を傾けながら店主の話を聞き、その知識を頭に刻んでいく。

フィルニアの目は新しい香辛料とその可能性に対する興奮で輝いていた。

フィルニアは新たな料理のアイデアを思いつき、その香辛料がどのように自分の料理に活きてくるのかを想像していた。


しばらくして、ミナがパンを抱えて戻ってきた。

「どう?いろいろ買えた?」

と声をかける。


フィルニアは目を輝かせて答えた。

「うん。すごいね。料理するのが楽しみだわ。」




ミナは自宅となったドアを開け、

「ただいま〜。」

と声を上げた。



隣に立っているフィルニアは緊張して、

「おじゃまします。」

と小さな声で言った。


中に入ると、カイがアリスのレポートを読み込んでいた。


顔を上げ、彼は少し驚いた表情で言った。

「おかえり〜。あれ、その子は?」


ミナはカイにフィルニアを紹介した。

「友達を連れてきたよ。」



「レッドはいないの?」

とミナがカイに尋ねると、カイはレポートを置いて答えた。

「うん、まだ帰ってないよ。」


「そっかぁ〜。」

ミナは、残念そうに言った。


その後、ミナは満面の笑みで言った。

「今日は、フィルが料理してくれるんだって!」


カイはそれに対して、

「おぉ〜。それは楽しみだな。

 ミナの料理は・・・、あれだからな。」

と笑いながら答えた。


「あれとは、何よ?」

ミナは、少し、カイを睨みつけて微かに笑いながら言った。

カイは、それに答えず、再び、レポートを手に取った。


ミナは、フィルニアの手をひっぱり、キッチンに案内した。


フィルニアは

「お台所お借りします。」

と言ってミナに続いた。


フィルニアはミナについていき、ミナはキッチンの周りを我が物顔で説明した。


「どれでも、好きに使っていいからね。

 私に手伝えることがあったら言って、一緒に作ろうよ。」

ミナとフィルニアは、互いに目を合わせて頷いた。





キッチンから、ミナの叫び声が聞こえる。

「えー、それをそう使っちゃうの。」

「えー、香辛料使うの初めてなんだよね?」

「えー、なんで、うそーん、こ、こ、こ、これは!」

「えー、そうしちゃうんのぉ!」

「えー、その技ずる〜。私にはまねできない〜。」


カイは、ミナの声が気になる・・・。

アリスのレポートの内容が頭に入ってこない。

いい匂いがしてくる。


カイは、思った。

(まったくくつろげない・・・。)




ミナが駆け寄ってきた。


そして、ミナは興奮してカイに言った。

「カイ、す、すっごいのができたよ。

 野菜スープに、

 ローストチキン、

 サラダに

 パンの付け添え!」


「あぁ、美味しそうな匂いがしていたよ。

 メニューを聞いた限りでは、特別感はそれほどでもないかな。」

カイは、冷静に言った。


ミナは、その言葉を聞いて呆れて言った。

「カイにはわからないか〜。この素晴らしさが・・・。

 味音痴め!」


カイは、ちょっとムスッとして答えた。

「美味しそうな匂いがしていたから美味しんだろうとは思う。

 でも、まだ食べてもいないのに味音痴はひどいんじゃないかい。」


「しょうがないから、カイにも食べさせてあげるよ。」

ミナは、そう言って、カイを食堂へ案内した。

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