第54話 物資の調達

太陽が頂点を過ぎ、市場は活気に満ち溢れていた。

ミナはフィルニアの手を引っ張り、武器屋の店先へと足を向けた。


扉を押し開けると、店内からは鉄の響きと鉄の臭いが漂い出てきた。

目の前に立つのは、グロスだった。


「今日は、レッドと一緒じゃないのかい?嬢ちゃんたち、二人だけか?」

と、グロスの大きな口元がわずかに動いた。


「そうよ。」

と、ミナは答えた。


フィルニアの顔をちらりと見ると、心配そうな表情をしていた。

ミナは声を強くした。

「剣と弓と矢、防具をありったけちょうだい!」


その言葉に、グロスの眉が跳ね上がった。

「おいおい、戦争でも始めるつもりかい?」

と、髭をかきながらグロスは尋ねた。


ミナはグロスの真剣な眼差しを直視した。

「そうよ。」


たしかにこれは、自分たちの戦争だった。

グロスの眼差しは鋭く変わり、今までにない深刻さを帯びた。


「レッドはどうした?」

とグロスはミナに質問した。


ミナはすぐに答えた。

「もう出て行ったわ。」


「レッドの使いか?」

とグロスが続けると、ミナは小さく頷いた。


「そう考えてもらっても構わないわ。」

とミナは言った。


「わけありか。」

グロスはつぶやく。


目の前の二人を見つめる。

そして、グロスは自分の作業を中断し、店内の奥から武器と防具を運び出し始めた。


「店にあるのは、これだけだが、もっと必要か?別の所にある倉庫ならまだあるが。」

と、グロスは重厚な声で尋ねた。


ミナはすぐに答えた。

「それもお願い。全てレッドの屋敷の庭に運んでもらいたいの。」


「わかった。手配しよう。」

グロスの答えは力強く、手際良く紙と筆を手に取った。


そこに書かれた数字を見て、ミナは、即座に支払いをした。


ミナの態度に、フィルニアは心から驚いた。

支払った金額はフィルニアの予想を遥かに超えていた。

エルフの少女は心底、その規模に圧倒され、一瞬どうすれば良いのかわからなかった。

ミナは一度フィルニアの方を見て、笑みを浮かべた。


「ありがとう。」

とグロスに声をかけ、ミナは武器屋を後にした。

フィルニアはミナを追いかけて外に出た。


外は昼過ぎの太陽が強く照りつけており、フィルニアは少し目を細めた。

フィルニアはミナの背中を見つめながら、その行動力に改めて驚くとともに、同時に混乱していた。

ミナが何を思い、何を感じているのか、理解することはできなかった。

だが、ミナが必死になって戦っていることだけは確かだった。


フィルニアはその思いを強く感じ取り、一歩を踏み出した。


そして、二人が次に向かった先は食料を調達する場所、市場だった。



ミナは、市場の前で立ち尽くした。

食料を買い漁るにはいい。

しかし、すべてを買い占めてしまうと街の人が困るのではないだろうかと。

市場は、見渡す限り、人で賑わっていた。

ここで大きな買い物をするのは不自然だ。

それに必要な食料は、最低限生き残るのに必要なものだけでいい。

いろとりどりの食品である必要はないのだ。

市場の前で立ち止まったミナは、考え込んでしまった。



その姿を見つけた一人の男が駆け寄ってきた。

彼の名はエドリック・ロカルト、ロカルト商会の商会長だ。

エドリックの足取りは速く、目は鋭く、ミナの前に立つと彼は短く息を吸い、口を開いた。


「レッドさまのお嬢様とお見受けいたしますが、

 わが商会とお取引いただけないでしょうか。」

エドリックの声は堂々としていて、しかし優雅さも漂わせていた。


ミナは一瞬、その態度に驚いた。

そして、落ち着いた様子を装い答えた。

「そうよ。話を聞いてあげましょう。」

と応えた。


エドリックは安堵の微笑みを浮かべた。

エドリックは商会へと案内することを丁寧に話し、ミナは承諾した。

フィルニアに向かってミナは頷き、その表情からは確かな決意が感じ取れた。



エドリックは、奥の商談の部屋へミナとフィルニアを案内した。

豪華な部屋に足を踏み入れた瞬間、フィルニアの瞳は輝く金箔の装飾に目を奪われ、驚きの色を増した。


フィルニアから見るとミナは、この全く未知の世界に足を踏み入れても、臆することなく堂々として自信に満ちていた。


だが、ミナの内心は、緊張に満ちていた。それを表に出さないよう必死に平静を装っていたのだ。


エドリックは、優雅にソファに二人を座らせ、一度深呼吸をした。

「グロスどのにお話を伺ってお声をかけさせていただきました。」


エドリックの声は深く響き渡り、壁にかけられた絵画すらも震えるかのようだった。


ミナはエドリックの言葉を受け止め、目を細めて考えてから言った。

「それなら、話は早そうね。」


エドリックは微笑み、大きなテーブルの前で、続けた。

「ご入用の品がございましたら、すべてご用意させていただきます。」


ミナは素早く答えた。

「食料が欲しいわ。日持ちがして、栄養が取れるものであればいいわ。」


その答えは具体的だったが、それがどれほどの量が必要かを伝えていなかった。

エドリックは問い返した。

「いかほどご用意しましょう?」

エドリックの目には、商人としての確かな決意が灯っていた。

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