第52話 ランチ
ミナとフィルニアの二人は、オシャレなランチのお店の前に立っている。
ミナは、街の風景を一瞬眺めた後、笑顔を浮かべて手を振った。
「ここにしよう。」
フィルニアは、困惑していた。
これから話そうとする内容とは、まったく雰囲気が違う。
フィルニアの緊張した表情を見て、ミナはすぐにフィルニアの手を引っ張った。
エルフの少女の細い指が驚きで震えていた。
店の中に入った二人は、高級感漂う内装に目を奪われた。
フィルニアは窓の外を見つめながら、自分がここにいることを不思議に思っていた。
「こんな場所で話すなんて・・・。」
とフィルニアがぼそりと呟く。フィルニアの表情は硬くなっていた。
その表情を見て、ミナは再び笑顔を浮かべて、メニューを指して尋ねる。
「何がいい?」
フィルニアはメニューに書かれた豪華な料理の名前を見つめながら、戸惑いを隠せなかった。
フィルニアにとって、メニューから選ぶことはできず
「おまかせします・・・。」
とだけ言った。
その言葉に対して、ミナはニコッと笑って
「いいね。それなら、おまかせで行こうか。」
と言い放った。
そして、店員を呼び、二人分の「おまかせ」を注文した。
メニューを閉じたミナは、フィルニアを見つめて微笑んでいた。
飲み物が最初に運ばれてきた。
「これ、ドラゴンフルーツスムージーだよ。」
とミナが言った。
色とりどりの果実から作られたそのスムージーは、果肉と種が見える透明なグラスに入れられ、見た目からもトロピカルな雰囲気を醸し出していた。
ミナは早速、そのスムージーを一口飲んだ。
「おおっ、これがドラゴンフルーツの味か!甘酸っぱくて美味しい!」
とミナが目を輝かせる。
フィルニアも緊張した顔を少しほぐして同じく一口飲んだ。
「美味しい。」
と微笑むフィルニアの顔が少し和んだ。
フィルニアは、何をしにここへきたのか忘れかけそうになる。
次に運ばれてきたのは、「竜の宝石サラダ」だった。
その見た目はまさに宝石のようだった。
ミナが器用に二人分に取り分けた。
ミナは一口サラダを口にした。
「さあ、これも食べてみて。見た目だけじゃなく、味も最高だよ!」
フィルニアもそれに倣って一口食べると、独特の甘さとパリッとした食感に驚いた。
「すっ、素晴らしい!感触も素敵ね!」
とフィルニアは笑ってしまった。
その後、スターフィッシュピザとフェニックスのネストパスタが運ばれてきた。
「スターフィッシュピザって、本当に星型のシーフードがのってるんだね!面白い!」
とミナが叫んだ。
ピザを一切れ取り、口に運ぶと、ジューシーなシーフードとクリスピーなクラストのマッチングに大満足のようだった。
「フィル、これ、絶対、君の好みに合うと思うよ!」
とミナがフィルニアにピザを勧めると、フィルニアもそれに応じて一口食べた。
「こ、これは本当に美味しいわ!ミナ、私のことをよく知ってるわね。」
とフィルニアが目を輝かせた。
最後に運ばれてきたフェニックスのネストパスタは、その特別な麺と形状に二人は見とれた。
「これ、フェニックスの巣みたいだね。」
とミナが言いながら、自分の皿にパスタを盛った。
「はい、それなら私も・・・。」
とフィルニアが言って、パスタを取った。
パスタのソフトな食感とハーブとトマトのソースの組み合わせは、二人にとって新鮮な驚きだった。
フィルニアは、すでに目的を忘れ、二人は夢中で美味しい料理を楽しんでいたのだった。
食事が終わったのを見越していたかのようなタイミングで、最後に運ばれてきたのはレインボーパステルケーキと香り高い紅茶だった。
ケーキは虹のように色鮮やかで、その一層一層にはそれぞれ異なるフルーツの風味が閉じ込められていた。
ミナがフォークをケーキに突き立てると、
「うわあ、本当に虹の色だね!これはどうやって作ったんだろう?」
と声を上げた。
ミナが一口食べてみると、それぞれの層から感じられる甘さと酸味の絶妙なバランスに驚いた。
「フィル、これ本当に美味しいよ!食べてみて!」
フィルニアもミナに勧められてケーキを一口食べてみると、口の中に広がる風味に目を輝かせた。
「あぁ!各層ごとに異なるフルーツの風味が楽しめるなんて〜。」
と嬉しそうに言った。
そんな二人の会話を楽しみながら、ミナは紅茶を一口飲んだ。
「ああ、これが食後の紅茶か。美味しいね、フィル。」
と感嘆の声をあげた。それを聞いたフィルニアも紅茶を一口飲んでみると、
「食後のデザートにはぴったりだわ。」
と笑顔を見せた。
紅茶の香りが風に乗って舞い上がり、その温かさが唇を潤した。
ミナは食後の余韻に浸りつつ、ゆっくりとフィルニアを見つめ、質問を投げかけた。
「フィル、君の故郷は具体的にどういう状況なの?」
その質問に、フィルニアの表情は一瞬で曇った。
そして、フィルニアの瞳には悲しみと不安が混ざり合った色が浮かび上がった。
ここに来る理由を思い出し、彼女は息を呑んだ。
今までの楽しさが、一瞬で後退し、フィルニアの心の中には故郷の悲痛な現実が浮かんだ。
この人とはまだ出会ったばかりなのだ。
フィルニアの頬が赤く染まった。
恥ずかしさのあまり、フィルニアは一瞬目を逸らした。
それでもミナは、ただ静かにフィルニアを見つめて待っていた。
その瞳には優しさと、共感を求めるような色が溢れていた。
その視線に触れたフィルニアは、胸に湧き上がる恐怖と不安を抑え込み、ついに口を開いた。
「私の故郷は・・・。」
フィルニアの声は小さく、震えていた。
「魔物によって襲撃され、今は大変な状況なの・・・。」
そして彼女は、思い出すのも辛いその事実をミナに伝え始めた。
その声は小さく、だが、確実にその現実を伝えていた。
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