第48話 王都へ帰る

カイは、考えていた。

ミナの剣も、作り上げた。

そして、カイも自分の武器、ボウガンの開発にも成功した。

これからどうするかを。


カイはぽつりとミナに話しかけた。

「ミナ、これからどうすべきだと思う?」


ミナはカイを見て言った。

「新しい剣を試したいわ。

 そろそろ、王都に戻って、冒険者ランクを上げてみない。」

とはっきりと言って、斬鉄剣を見ていた。


カイはうなずいた。

「そうだよな。ここ、グランドフェルズに来た目的は、ほぼ達成できた。」


カイとミナはレッドに聞いてみた。

「レッドは、どう思う?」

とカイが訊ねた。


レッドはしばらく黙って考えてから言った。

「そろそろいい頃だろう。

 エリックとバルドの派閥争いも落ち着いたし、問題ないだろう。」


レッドは立ち上がって言った。

「ドワーフ族の族長の所へ挨拶に行ってくる。」


「お前たちも、お世話になった人に挨拶してこい。」

とレッドが言う。

ミナとカイは互いに顔を見合わせうなずいた。




レッドはドワーフ族の族長トールの寝室へと足を運んでいた。

暗く静まり返った部屋の隅には、トールが布団に包まれて、横たわっていた。


レッドは部屋の中に一歩踏み入れ、トールの姿を眺めながら言った。

「体調はどうだ?」


トールの古びた目がゆっくりと開いた。

「横になっている分には問題ない。来てくれて、ありがたいわい。」

その声は低く、安定したものだった。


レッドはうなずいた。

「エリックとバルドは、どうだ?」

トールは少し考えた後、満足そうに頷いた。

「二人は、うまくドワーフ族をまとめてくれている。

 それも、おぬしが、二人がうまく導いてくれたからよのう。」


「ああ、エリックとバルドは、もう大丈夫だろう。

 あとは、二人に任せればいい。

 あいつらなら、うまくドワーフ族をまとめていってくれるだろうよ。」

トールは黙ってレッドの言葉を聞き入れ、しっかりと頷いた。


「もうそろそろ、王都へ帰ろうと思う。」

レッドは告げた。


トールは少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。

「そうか。寂しくなるのお。

 おぬしがいてくれたから、ここまでうまくやって来れた。ありがたい。」


レッドは立ち上がり、部屋の出口に向かった。

ドアを開ける前に、レッドは後ろを振り返り、トールに向かって頷いた。





ミナとカイは、アリスの宝石工房へ訪れていた。

ミナとカイは扉をノックした。だが、仕事に夢中になっているアリスからは返事がなかった。

アリスが仕事に集中している時は、返事はない。いつものことだった。


「待たないで入ろう、カイ。」

ミナはそう言って、扉を開けた。

アリスは、作業台の上で手際よく仕事をしていた。


アリスは二人が入ってきたことを感じ取ったのか、

「その辺に座って待ってて」

とだけ伝え、再び自身の仕事に没頭した。


少し時間が経った後、ミナとカイの方へと振り向いた。

そして、ミナに向けて一つの石を差し出した。


「ちょうどよかったわ、ミナ。

 このエーテルストーンを新しい剣の鞘につけてみて。」

アリスはそう言って、エーテルストーンを手渡した。

その中には細かな記号が刻み込まれていた。


「これは、君のネックレスに記されている記号と同じだよ。

 剣を鞘に納めている間に、剣は自動的に修復されるはずだ。」

アリスはそう説明した。


「すごい!それは助かる!」

ミナは満面の笑みで言った。


「ありがとう、アリスさん。大切に使わせてもらうよ。」

と言い、エーテルストーンを早速、剣の鞘に取り付けた。


カイがアリスに向かって口を開いた。

「アリスさん、僕たちはそろそろドワーフの都市を離れて、王都に帰ることにしました。」と告げる。


アリスは少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな微笑みを見せた。

「そうなんだ。君たちがいてくれて、私も楽しかったよ。」

とアリスは感謝の言葉を伝えた。


アリスは工房の奥から2冊のレポートを取り出してきて、カイに手渡した。


「これは、二人のアクセサリの研究結果をまとめたものだよ。」

とアリスは説明した。


カイは受け取り、不安そうにアリスに尋ねた。

「これを持っていってしまっても大丈夫なんですか?」


アリスは大きく頷いて言った。

「大丈夫だよ、カイ。

 元々君たちに渡すつもりで作ったものだから。

 私用の資料もちゃんととってあるから安心して。」


カイとミナは感謝の言葉を伝えて、アリスに

「また来ますからね。」

と約束した。

二人はアリスの工房を後にした。





ミナとカイが次に訪れたのは博物館だった。

博物館の研究室に入るとそこには、ルイがいた。

ルイは、鉱石を手にしていた。その鉱石に映るルイの目は、まるで新たな世界を見つけたように輝いていた。

カイが近づき、ルイに話しかける。

「こんにちは、ルイさん。その鉱石、面白そうだね。」


とても興奮した顔を見せるルイが、言葉を絞り出す。

「ああ、カイ君。これはな、最近手に入れたばかりの新種の鉱石なんじゃ。

 これはなぁ・・・。」


カイはすかさず言葉をさえぎった。


ルイが一度話し始めると、それは終わらないからだ。


「実は、ルイさん。少し話があってきました。」


ルイが首を傾げ、不思議そうにカイを見る。

「どうしたんじゃ? また何か新しい発明を考えたんか?」


カイは目をルイに向けて言った。

「いえ、違うんです。

 僕たち、もうそろそろグランドフェルズを離れて、王都へ帰ろうと思います。」


その言葉にルイは驚いた表情を浮かべ、その後すぐに何かを失ったような寂しげな顔になった。

「そうか・・・それは残念じゃ。君たちがここを離れるのは・・・。」


「もちろん、新しい鉱石や発明品ができたら、必ず見せに来ます。」


そんなカイの言葉に、ルイは苦笑いを浮かべて頷いた。

「そう言ってくれるとは嬉しい。じゃが、二人がここを離れるのは寂しいわい。」


ミナがルイに近づき、小さな手を彼の大きな手に重ねる。

「ルイさんと別れるのは寂しいです。でも、またきっと戻ってきます。

 それまで、元気でいてくださいね。」


その約束の言葉に、ルイは深く頷いた。

「もちろんじゃ。ここでしっかりと鉱石の研究を進めて待っとるよ。」


その言葉と共に、ミナとカイは博物館を後にした。

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