第四章 ライバル

第15話 あなたこそ、なによ

 わたしは最初、ソーサクくんが二人組にからまれているのかと思った。女の子がロビーにキンキン響くような大声をあげていたからだ。


 わたしはあわてて近よった。


 ソーサクくんは長いすに座ったまま、目の前の二人組を見あげている。


「ソーサクくん、何かあったの?」


 声をかけると、ソーサク君と二人組が同時にわたしを見た。


「いや、何もないよ」

「知ってる人たち?」

「うん」


 男の子は白シャツにグレーのハーフパンツ、女の子は白シャツにグレーのプリーツスカートをはいている。


 あれはソーサクくんが前に通っていた、私立文林ぶんりん学院小学部の制服だ。通りがかりの不良とかではなさそうだけど、友だちなのかな。


 女の子が腰に手をあて、首をかしげる。髪をポニーテールにまとめたキレイな子だ。でも、にらみつける目つきがちょっと怖い。


 女の子がわたしに言う。

「あなた、なに?」

「あなたこそ、なによ?」

 わたしはムッとして、言い返した。


 ソーサクくんが口をはさむ。

「ユメはひぐらし小学校で同じクラスなんだ」


 女の子が目を見開き、わたしを上から下まで眺めた。

「ユメって、あなたの名前?」

「そうよ。わたし、夏目ユメ」


 女の子はガックリと肩を落としたように見えた。


 いったい、なんなの。

 わたしはソーサクくんに問う。

「で、このひとは?」


武者小路むしゃこうじさん。前の小学校で一緒だった」

 ソーサクくんはいつもと同じクールな表情で答えた。


 女の子がソーサクくんにつめよる。

「ちょっとソーサク! この子って、転校した後に知り合ったのよね?」

「そうだよ」

「知り合ってまだ一カ月くらいだよね。それなのに名前呼びって。わたしは名字呼びで、しかも『さん付け』なのに」


 ソーサクくんはキョトンとしていたが、すぐに「ああ、そうか」と、うなずいた。


「武者小路さんも名前で呼んでほしかったの?」

「べ、べつに。わたしは、呼びかたなんかに、こだわっていないんだけど——」

「ユイ」

「ぐふっ」


 女の子がむせた。

 どこかで見たようなやり取りだ。


 女の子がわたしに向き直る。ほっぺたが赤くなっているが、さっきよりも明らかにゴキゲンな顔つきだ。


「わたしは、武者小路ユイよ」

「知ってる。いま聞いてたから」

「ソーサクとは、文林学院小学部で一年から五年の途中まで一緒だったわ」

「そうみたいね。ソーサクくん、いまはわたしのクラスメートだけどね」


 わたしはユイとにらみあう。 

 まったくもう。なんなの。


 すると、後ろにいた男の子が笑った。

「ふふふ。おもしろいね、きみらは」

「は? ゼンゼンおもしろくないです」

 ユイがつっけんどんにこたえる。


 男の子はユイの返事を気にした様子もなく、わたしに言った。


「ぼくは志賀ハルト。六年生だから、きみらよりひとつ上だ。よろしくね」

「あ、センパイだったんだ」


 志賀センパイは、人の良さそうな笑みを浮かべ、なんだかユルい感じがする。ユイのトゲトゲしい雰囲気とは正反対だ。


 わたしたち四人がそんな感じで向き合っていると、ロビーにドカドカと足音がした。


「おまえら、なんかあったのか?」


 アラタだ。続いてエマも。

 二人とも、ケンカなら助太刀すけだちするとでも言いそうな勢いだ。


「あー、うるさいのが来たよ」

 わたしは顔をしかめた。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


 図書館のすぐ隣に、児童公園がある。


 ロビーでおしゃべりする訳にもいかない。わたしたちは児童公園に移動し、ブランコのさくに座った。


 改めてそれぞれ自己紹介する。


 ユイはわたしたちをこころよく思っていないようだ。「自己紹介なんて要らない」という空気をにじませている。

 そこを志賀センパイがうまくなだめ、その場をしきった。


「ふうん。みんな同じクラスなんだ。よかったよ、ソーサクが新しい学校になじんでいて」

 志賀センパイが言う。


 いやいや。全然なじんでないよね。

 わたしはそう思ったけど、あえて口には出さない。それよりも気になったことがあった。


 わたしはユイにたずねる。

「ねぇ。さっき、ソーサクくんに怒ってたよね。どうして?」


「あなたたちに言う必要ない」

 ユイがそう答えたが、志賀センパイがすかさずフォローする。

「別にヒミツにするほどの話じゃないよ」


 志賀センパイはユイがにらみつけるのをスルーして、わたしに話した。

「ソーサクがだまって転校したからだよ。ぼくらは何があったのか、心配していたんだ。たまたま会えたから、つめよったんだよ。主にユイがね」

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