第10話 脅迫

 あれから更に3日間寝込んだが何故か葉月は 

 めっちゃくちゃ元気らしい。

 朝練が終わり、教室に入るとすぐに葉月と目が

 合ったが咄嗟に目を逸らした。

 机に着くと由佳達が私に声をかけた。


「葵、風邪大丈夫だった?」


「おはよー、うん!大丈夫だったよ!

 ありがとう」


「それなら良かった!そういえば葵が寝込んでた間に

 転校生がきたんだー。ほら!あそこ、超可愛くない!?」テンション高めに由佳が指差して尋ねてきた。


「うん!確かに!可愛いね」

 私は無理矢理テンションを合わせた。

 またもや目が合った。すると葉月はどういう訳か

 近づいてきて満面な笑みで演技をする。


「初めて見る子だよね?」と聞いてきた


葉月の馬鹿!近づくなって言ったのに!


「そうだよー!葉月さん。葵は風邪引いちゃったからね」由佳が答える


「そうだったんだ〜。私、葉月って言うの気楽に

 葉月って呼んでね?葵ちゃん?」

 そう言って悪戯っぽく笑った


「あ、うん。こちらこそ宜しくね?」

 私も負けじと偽物の笑顔を作ってみせた。

 すると葉月は唇が歪み、涙目になっていた。


こ、こいつ!絶対面白がってる。む、ムカつく!

覚えときなさいよ!?とイライラして私は廊下側の

ところに視線を移した、すると目が合ってしまった。

咄嗟に目を逸らしてしまった。私の大好きな人が珍しくギリギリに登校していた。私は再び廊下側に視線を向けたが既にいなかった。安心した気持ちと残念な気持ちが私の中にあった。目が合わなくて安心した。いなくて残念だった。でも、やっぱり悲しみが勝った。また、会いたいなぁ、、そんな事を考えていると手首を掴まれた。

相手に顔を見る冷たい目を向けてこちらを見下ろす葉月だった。くう〜いつも夜更かししてるくせに私より身長高いなんてずるい!離れようとしたが余計掴まれてる手首に力を入れられて痛い。


「葵ちゃんの顔色が悪いみたい。だから保健室に 

 連れて行くね!先生に言っといて」


葉月はそう言い残し、私を引きずるように教室を出た。


正直掴まれてる手首が物凄く痛い。我慢できなくなって

葉月に訴えた。


「ちょっと!手首が痛いんだけど?」軽く言う。


「わざと痛くしてるんだから痛いに決まってる

 じゃん」葉月は吐き捨てるように言う。


早歩きで引っ張られ、何度も転びそうになる。


「葉月、まって!せめてゆっくり歩いてよ?」


「うるさい!黙っててよ!」

 声を荒げて彼女は言う。

 

私は唖然として言われた通りに黙った。

保健室の中へと入ったが誰もいなかった。


一番奥のベッドへと連れて行かれた。

カーテンを閉めて、乱暴に私をベッドに寝かせつけると私の上へと跨いだ。体重をかけられ、手首まで押さえつけられていて身動きが取れない。


あの時と同じ状況すぎて、慌てて抵抗したが

ピクリとも動かない。


「ねえ、葵、、、あの子は誰?」

 私を見下ろしながら不機嫌な声で問いかけてくる。


唐突な質問に対し意味が分からなかった。

するとまた葉月は口を開く。


「葵が愛おしそうに見つめていた子よ」

 冷たい声で葉月は言い加えた。


その言葉で私は葉月の聞きたい事を理解し、

焦った。誤魔化すように口を開く。


「だ、誰の事言ってるの?」


「誤魔化しても無駄よ?それともあの子に聞く?」


「っ!だ、ダメ!」慌てて私は大声で言った。


「なら私の質問に答えて」


「あ、あの子は、、、、、私の初恋の人なの」


「ふうん。初恋ね〜、、、手伝ってあげようか?」

 彼女は低い声でそう提案してきた。


「えっ?」


「だから告白できるように協力してあげようか?」


それを聞いて一気に顔が熱くなった。


「だ、駄目!そ、それだけは絶対にダメだから。

 あの子に知られたくないの。知られたいけど

 嫌われたくない、、、嫌われるくらいなら

 いっそのことずっとこのままでいい。だから

 お願い何もしないでよ」


 気付いたら私はもう泣いていた。

 さまざまな感情が込み上げてきて我慢出来なくなっ

 た泣いた。

 あーもう、最悪。人の前に泣くなんて、しかも葉月

 の前だなんて余計恥ずかしい。


「わかった、、何もしないよ。その代わり私の

 言う事を聞いて?」


「本当に?ありがとう、、私に出来る事なら

 なんでも聞くから」


葉月の言葉を待つ。そして彼女は信じられない事

を口にした。


「葵、私と付き合って」


「ご、ごめん、、なんか聞き間違えたから

 もう一回言って」


「葵、私の彼女になって」


「待って!何言ってるの?冗談だよね?」


信じられなくて葉月に問いかける


「冗談に言ってるように見える?」

 

葉月の顔を見る。彼女の目は真剣そのものだった。


「やめてよ、、、は、葉月と私は友達じゃん」


「だったらみんなに言いふらすよ」

 どこまでも冷たくて低い声で彼女は言う。


「ど、どうして、そんな意地悪な事を言うのよ。

 酷いよ、、私はただあの子を好きになっただけ

 なのに、、、わ、私だってできるなら普通の恋を

 したかったよ」

 

 私は涙を流しながら震える声で彼女に言う。


「理由は単純だよ。面白いからよ?」

 彼女の手が伸びて、私の頬に触れた。


 私は彼女を睨む。


「最低よ」吐き捨てるように私は言う。


「うん、私もそう思うよ」

 なんだか悲しそうに彼女は呟く。


私の両手は既に解放されていた。今なら彼女を

突き放せるけど動けない。


「葵、今逃げないと承諾したとして捉えるよ?」

 

彼女は優しい声とともに熱い視線で私を見つめる。

私の中で答えがまとまらないままで黙り込む。

彼女の顔は少しずつ降りてくる。鼻と鼻が当たる距離で止まり、甘い声で私に命令してきた。


「葵、私の首に掴まって?」

と言いながら私の腕を掴んで彼女の首へと誘導してきた。私は何も言わずに彼女の首に腕を回す。


何も考えられなくなった。脳が停止していて、上手く回れない。


それでもすぐ目の前にいる彼女の事をただただ綺麗だと思った。















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