第2話 頭から離れない

 私は教室に戻ってからもその女の子が頭から離れなくて結局その日はずっと上の空だった。


放課後、ホームルームの時間がようやく始まった。

私達のクラスは何故か他のクラスよりいつも遅い。

廊下側に目をやると既に終わっているクラスメイト達は通り道であるこのクラスを次々と通っていく。

また、こちらの誰かを待って人も多々いて、こちらを傍観する。そうすると私達も早く帰りたいって言う気持ちになり、分かりやすく先生に目で訴えかける。

うちらの担任の先生は廊下側の雑音をいつも気にいらない為、そこの近くの席に座る生徒に窓や扉を閉めるように指示をする。それだけでなく、わざわざ外の生徒たちに静かにしろと促すのである。


そういう行動を行う担任を私はやや苦手である。

おそらくクラスの7割以上はそうなのではと思う。

何故ならこの後部活が待っているからだ。部活に

よっては全員が集まらないと始めないところも

ある、私が所属している陸上部も例外ではない。

わざわざ陸上競技場を借りているのである。

そこまでの距離も1.5キロほどある。

だから時間に余裕はない。担任がホームルームを始めても私を含めみんな遠慮なく机の下の荷物を鞄な中へと詰めていく、そうすると先生は溜息をしながら手を止めるようにと言う。私達は仕方なく手を止め担任に

目を向ける。終わると同時に教室を飛び出す生徒は

少なくはないみんなそれぞれ急足で部活に向かうのだ

私も同じクラスの愛菜に声をかけられる。

同じ部活で自然に一緒に競技場へと向かうのも日常に

なっている。愛菜はいつも帰る準備が早く、いつも早く行こうと急かされると言うまでもない。

私達の学年は他の学年より遅いのだ。だから部活ではいつも私たち待ちになってしまう。少しでも待たせる時間を減らせるように立ち漕ぎで向かうのである。

基本3人だ。別クラスの南も一緒だ。

競技場へ向かう途中同じく自転車で向かってる先輩達に追い付く事もある。そういう時はあれ今日は早かったねと言われる。私達はお疲れ様ですとだけ言って

先輩達を越していく、私達は先輩達よりも早く着替えて、準備をする必要があるからだ。

そんな全く余裕の無い時間も私は一度も苦とは思わない。寧ろ楽しくて癖になる。学校にいる時よりもなんだか私らしくいられているからだ。部活のみんなからはちゃん付けで呼ばれている。それはいいとして、雑談になるとよく揶揄われるのである。私の喋り方は訛りがあって、真似されながら可愛いって言われる。

とても恥ずかしいからやめてもらいたいのだけど、不思議な事に嫌ではない。同じ部活の子なら良いやって

思える。普通のクラスメイトは何故かそうならなくて

内心ではいつも呪っている。

練習が終わると少し雑談をして帰る。私の帰り道はみんなと方向が違う為いつも寂しく1人で帰るのだ。

中学の時もそうだ。仲良くなった子たちと別方向である。だから仲良く帰っていく他の生徒を見るととても羨ましくなる。


家に帰るとリビングのソファに妹がいる。

妹は私が帰ってきても無言だった。ひたすら携帯をいじっていた。

「ただいま」と言うと台所にいる母からの声が返ってくる。


「今日は遅かったね」

時計に目をやると19時を過ぎていた。

冷蔵庫にあるペットボトルの水を取り出し、喉越しを鳴らしらがら一気に3杯飲み干す。それを横で見ていた母は苦笑を浮かべていた。


「美味しそうに飲むねー。飲み物のCMにも全然いけるよ」

ソファに腰をかけようとしたその時

横から冷え切った声が聞こえる。


「臭いからお風呂先入ったら?」

 嫌そうな妹が言う。

 バスケ部の妹からは良い匂いが漂っていた為何も

 言い返せなかった。

「はい、はい、入ればいいんでしょ」

 とだけ言って着替えを持って風呂場へと向かう。


お風呂にはお湯が既に溜まっていた。

頭や体を念入りに洗い流しお湯に浸かる。

ボーっとしていると名前も知らない女の子が

頭に浮かぶ。

考えている内にお湯の丁度良い温度に眠気が襲ってきて、目を閉じる。


ドンっという大きな音に驚いて溺れかける

それをただドアの前で眺めていた妹を睨む。


「お風呂で寝るのが悪い」

 やけに顔の赤い妹がそう言って出て行った。


自分の手を眺める、とてもしわくちゃになっていた。

仕方なく風呂場から出て着替えてリビングのソファに

体を倒す。


「あんたまだお風呂に入ってたの?」

 呆れ混じりに母が尋ねる。


「溺れかけてたよ」

 と何故か妹が答える。


「あんた馬鹿じゃないの?お風呂に寝るなって言ってるでしょ」怒ってくる母


「寝たのは認めるけど溺れかたのはユイの所為だから」そして私は妹を睨む。肩をすくめる妹。


「それが続くんだったらユイとお風呂に入ってもらうよ?」


「はあ?もう子供じゃないんだから入るわけない

 でしょう」


「それが嫌なら。しっかりしなさい」

母は私たち姉妹が仲が悪いのを気付いていて

そう脅してくる。


「それだけは勘弁なので努力します」

と言い妹に目を向ける、目が合った。

傷ついた顔でこちらを睨んでくる妹からなんとなく目を逸らす。

私、何か酷い事言ったのかなあ?って悩むのであった。



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