第22話 超鬼ごっこ


「これでパフォーマーの体が守られたって訳だ。これだけ跳ねたならしばらく動画の内容はこれでいいな」


「そうだね。見えない何かと戦うシリーズ。魔術師としての仕事も出来て一石二鳥だ」


「やっぱ派手なのが好きなんだな、世間」


 と、話している内に電車が目的地につく。


 駅を出て少し歩くと目的地の遊園地が見えて来た。


「閉園が決まったって知ってるからか、やけに寂れて見えるな」


「開園から五十年。アトラクションの老朽化や客足の低下、メンテナンス費に人件費。なんとか工夫して続けて来たけど限界だったようだよ」


「五十年分のあらゆる人の思い出が詰まってるわけだ。で、閉園するとわかってそれが反転して負の感情に繋がる。きっとうじゃうじゃ怪異がいるぞー」


「一応、事前に魔術師を派遣してもらって掃除を行ったはずだけど。焼け石に水かもね」


「結局、取り壊されるまで人間に成り代わって怪異が居着く。面倒なことになりそうだ」


「手元にシールがあるのが不幸中の幸いか。隙を見て貼り付けておこう」


「いいね、頼んだ。大和さんの負担も減る」


 撮影現場にまで辿り着き、本人確認を終えて遊園地の中へ。


 すでに何人かの出演者が着替えを済ませていて、その中には園咲と綴木の姿もあった。


「僕はシールを貼りに行くよ」


「あぁ、頼んだ」


「あ」


 八百人が機材に仕込みをしに離れたところで綴木がこちらに気付く。


「おはようございます。紫雲さん」


「おはよう、綴木。冷気の扱いにはもう慣れた?」


「はい。瑞紀さんに魔術の扱いを学んで、それなりには。たまに飲み物を凍らせてしまうこともあるのですが、なんとか」


「そりゃよかった」


 魔術は元々、怪異に備わった能力を真似たものだ。


 そこから人間の手が加わり、今の形式に辿り着いている。


 だから怪異の能力と魔術は共通点も多く、魔術を学べた怪異の能力も制御可能。


 綴木には魔術師としての才能もあるらしく、瑞紀曰く筋がいいとか。


「その気になれば魔術師としても活動できるかもな」


「私に貴方のような真似はできません。一人の演者で十分です」


「わかってるよ。冗談」


 雪女の能力を高めるのはあくまで自衛のためだ。


 それ以上でも以下でもあってはならない。


「栞ー! ちょっといい?」


「はい。では、私はこれで」


「瑞紀によろしく」


 すっかりマネージャーが板に付いた瑞紀に呼ばれて綴木が離れていく。


「わっ!」


「残念だが脅かそうったってそうは行かないぞ、園咲」


「あ、やっぱりバレちゃった」


 後ろからこっそりと園咲が近づいて来ていたことに気付いていた。


「現役魔術師を舐めてもらっちゃ困るね」


 このくらいの気配が読めないことには魔術師は勤まらない。


「おはよう、紫雲くん」


「おはよ。お、そのネイル」


「うん。えへへ、早速使っちゃった」


 園咲は周囲を気にしたように見渡して。


「紫雲くんからのプレゼントだから」


 小さく囁いて笑みが浮かぶ。


 デート中に目を奪われていたから買ってプレゼントしたんだけど、気に入って貰えて何より。


「いいね、似合ってる」


「ホント? 嬉しいな。ずっとこれでいようかな、なんて――」


「美琴? もうすぐ始まるよ」


 園咲の後ろから名前を呼んだのは、俺も知っている人物だった。


 アイドルグループ、エンジェルバトンの現センター、楠木葵。


 奇しくもサトリの願いは叶っていた。


「あ、紫雲イヅナさん……知り合いなの?」


「あ、うん。何度か一緒に仕事したから」


「ふーん……」


 じっと楠木に見られる。


「なにか?」


「どこかで会いませんでしたっけ? 直接」


 ちょっとどきりとした。


 会ってる。


 園咲の卒業ライブでスタッフとして。


 けど、これがバレると少々不味い。


「そうでしたっけ? 気のせいじゃないですか?」


「うーん、そうかも知れませんけど、どこかで会った気が――」


「もうすぐ始まりまーす! 出演者の方はお着替えお願いしまーす!」


「行かないと。それじゃまた撮影で」


「あ、はい」


「またね」


 スタッフさんから助け船が来て、これ幸いと脱出。


 手早く着替えを済ませると、出演者全員が集まって軽い段取りやルールのおさらいへ。


 鬼はスタートの時点で三人いて時間経過や途中で提示されるミッションに失敗すると増え、特別報酬のために出演者が裏切ることもあるのだとか。


 もう無理だと思ったら自首も可能で、その場合は経過時間によって賞金を受け取れる仕様になっている。


 ただ、この自首精度は視聴者の心証を悪くする恐れがあるので注意が必要だ。


 そんな話も終わり、いざ本番。


「超鬼ごっこ-!」


 出演者全員によるタイトルコールによって番組は幕を開けた。


 スタートと同時に目の前で一人目の鬼が現れ、出演者は散り散りに逃げて行く。


 俺も自然な範囲で全力を尽くして走り、まずは初戦を逃げ切りで終える。


「あ、足速いっすね。紫雲さん」


「パフォーマーなんで」


 出演者には一人につき一人、カメラマンがつく。


 勢い余って彼を振り切らないように注意しないと。


 いや、時には振り切ることも大事か。


 怪異のことを考えると時と場合による。


 とにかく番組は始まった。制限時間が来るまで生き残ろう。

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