第23話 ミッション


「おっと、早速誰か捕まったか」


 支給された専用の携帯端末に連絡が入り、出演者の一人が捕まったことが知らされる。


 今回はお笑い芸人の松ジェット飛行機という人みたいだ。


 話したことはない人だけど、凄い名前してるな。


「松さんかー。まだ始まったばかりですし、敗者復活できるといいですね」


 移動しつつ当たり障りのない感想を言って周囲に目を配る。


 鬼もそうだけど怪異もどこにいるかわからない。


 視線を持ち上げて空を見ると、八百人の式神が飛んでいるのが見えた。


 俯瞰視点からこの遊園地を観察して怪異を探している。


 見付けたら別の式神で駆除に向かう。


 出演者は散り散りに逃げているから式神も怪異も目視される心配はない。


 カメラマンのカメラにもシールが貼られているから映らない。


 今回、八百人はかなり自由に動けそうだ。


「今回紫雲さんは初挑戦になりますが目標は?」


「もちろん、逃げ切って賞金ゲット! ミッションにも積極的に参加したいですね」


 そう良いながら足を止め、視野が広く確保できる位置につく。


 今のところ鬼の姿はなく、八百人が頑張っているのか怪異も見えない。


 束の間の平和な時間って感じ。


「お」


 遠くから響く足音を耳が拾う。


 この足跡は一人分だけでほかにそれらしい音は聞こえない。


 出演者ならカメラマンが一人ついているはずだから二人分になるはず。


 ということは鬼か。


 鬼がこっちに近づいてきている。


「さーて、どうするかな」


 今ここを離れれば見付かることなく移動できる。


 というかその気になれば一度も鬼と遭遇することなく制限時間まで生き残るのも簡単だ。


 けど、それだと取れ高がない。


 番組としては追い掛けられて逃げるシーンが欲しいはず。


 ナメプだと俺自身も思うけど、ここはテレビ的な盛り上がりを考えるが吉。


 そしらぬ振りをして手摺りに手をついてメリーゴーランドに目をやった。


「ここもうすぐ閉園しちゃうんですよね」


「はい。今年の九月に」


「九月かー。なんかやっぱり寂しいですね、そう聞くと。心なしか馬も悲しそう――」


 ふとメリーゴーランドの中に怪異がいるのを見付けた。


 屋根の下の死角にいて式神からの俯瞰視点では見付けられないところにいる。


 馬のあぶみに乗ってはしゃぐ猿の怪異、いつかの廃病院にもいた狒々だ。


 事前に魔術師を派遣していた効果があったのか、群れではなく一匹だけ。


 これならメリーゴーランドに身を潜める体で祓いに行ける。


 そう思ったけれど。


「おっと、鬼が来た!」


 のんびりしている間に鬼が来てしまった。


 すでに視界に捕らえられていて、こちらに駆けて来ている。


 怪異か鬼か。


 どっちが優先かと言われればもちろん怪異なんだけれど、今は番組の収録中で逃げなきゃ不自然だ。


 とりあえず、この場を離れることに決定。


 怪異はあとからまたここに来て祓ってしまえばいい。


 近づいていくる鬼から逃げようとした瞬間、反対方向からも鬼が現れる。


「挟み撃ち!?」


 まぁ、足跡聞こえてたけど。


 テレビ的な演出を考えてここは驚いておくことにする。


 しかし、こうなった以上は逃げられる道は一つだ。


「しようがない」


 手摺りに手を突いて勢いよく乗り越え、メリーゴーランドの中へ。


 馬や馬車を軽く躱して突き進み、ついでに狒々を素手で捕まえて支柱の影へ。


 カメラの死角に位置取り、稲妻を流して手の内で狒々を処理する。


「よし」


 そのまま今度は手摺りに足を掛けて跳び越え、メリーゴーランドの外へ。


 カメラマンさんを置いて行ってしまったが、これはもうしようがない。


 そのまま近くの物陰に身を隠して鬼をやり過ごした。


「ふぅ……屋根の下には注意しないとな」


 すこしして鬼が二人とも居なくなった頃を見計らって顔を出す。


「カメラマンさん。こっちこっち」


「あ、居た!」


 カメラを片手にキョロキョロとしていたカメラマンさんが飛んでくる。


「いや、凄いっすね。その身体能力、置いてかれちゃいましたよ。もしかしてパルクールとかやってます?」


「えぇ、まぁ、ちょっとパーフォーマンスの一環で囓ったことくらいは」


「はえー、パフォーマーって凄いんすねぇー」


 関心されてしまった。


 置いて行ったことを注意されるかと思ったけど、そうでもないらしい。


 やりやすくて助かるな。


「おっ、また誰か捕まった?」


 携帯端末に連絡が入り確認してみると、それはミッション開始の通知だった。


「今から十分以内にジェットコースターに最低二名以上で乗り込め。ミッションに失敗した場合、新たに二人の鬼が追加される。ジェットコースターは……あれか」


 携帯端末から視線を持ち上げると、遠くにジェットコースターの曲がりくねったレールが見えた。


 ここからだと結構な距離を移動することになりそうだ。


「行きますか?」


「もちろん!」


 目立ちたいのもそうだけど、この番組を楽しみたい気持ちもある。


 最初は面倒だと思っていたけど、最近じゃ芸能活動も楽しく思えてきた。


 案外、芸能人が性に合ってるのかもな。


「善は急げ、行きましょう!」


 まだ近くにいるかも知れない鬼二人を警戒しつつジェットコースターへと向かった。

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