第12話 常磐の魔術師
白い雲が浮かぶ青空の下、いつものように八百人と道を歩く。
最近は街を歩くとファンに握手を求められることも増えてきたため、帽子を被りサングラスを掛けている。
身元を隠さないと街をまともに歩けなくなりつつある辺り、芸能人も板に付いてきたって感じだ。
「それから進展はどう?」
「進展?」
「園咲さんと」
「あー、織子ちゃんだろ?」
「正解。探りを入れてこいってうるさくて」
「残念ながら友達のままだよ。何回かやりとりはしたけど」
今のところはまだそれだけ。
頻繁にやりとりをする異性の友人だ。
「実際のところイヅナにその気はあるの?」
「さぁな。まだ出会って一月くらいだぜ? デートもしてない。俺は恋愛に時間掛けるタイプなの」
「へぇ、意外だね。言い寄ってきた人全部喰ってるのかと思ってた」
「お前、俺のことをそんな見境無しだと思ってたのか?」
「冗談だよ、冗談」
「ホントかよ。まぁ、俺は面がいいからな」
「あまり自分からそういうことを言うもんじゃないよ。ナルシストだと思われる」
「自分最高! 自分大好き! それがなんでダメなのかねぇ。さっぱりわからん」
「みんなイヅナみたいに自信過剰じゃないんだよ」
と、話ながら歩いているうちにテレビ局へと辿り着く。
今日はカメラの前に立つために来たんじゃない。
「来たな、若人たち」
長い髪を靡かせ、服装をばっちり決めた大人の女性。
姿勢や身に纏う雰囲気からから自身に対する自信が充ち満ちているのがわかる。
「あなたが大和さんですか」
冠位で言えば上から二つ目の位にいる凄い人物。
「いかにもその通り、キミ達に会わせたい人がいる。ついて来い」
擦れ違う人たちが男女を問わず目を引かれるような美貌を撒き散らす大和さんと共にエレベーターに乗り込む。
高い階層のボタンが押され、音を建てて起動し、上階へと登って行く。
「質問、いいですか?」
「いいだろう」
「大和さんってどっち派なんです? 秘匿か、開示か」
「おや、そっちのほうか。ここでの私の役目は局内の怪異的な秩序を保つことと、カメラに写り込んだ怪異を抹消することだ。この抹消というのが面倒でね。年々、数が増えてきている。正直、もう面倒なんだ」
「秘匿が開示されれば仕事も減る、と?」
「正解だ。まぁ、別の仕事が増えるだろうが、今よりはずっとマシだ」
「なるほど」
なんとなく魔術師の大多数は秘匿派だと思っていた。
急激な変化か現状維持なら、普通の人間なら後者を選ぶ。
けど、長く続いたが故に魔術界全体の体質に綻びが生じているのも事実。
それに思うところがある魔術師は、思ったよりも多いのかも知れない。
「では、僕からもう一方のほう。なぜ僕たちがあなたに呼ばれたのかを聞いてもいいですか?」
「もちろんだ。今日、キミ達を呼んだのは他でもない。とある少女を護衛してほしい」
「護衛……僕とイヅナだけでってことではないんでしょう?」
「またしても正解だ。この件には複数の魔術師が関わっている。だが、メインはキミたちだ。キミたちにしかできない」
エレベーターを降りて廊下を渡り、行き着くのは会議室。
大和さんが開け放った扉の先には護衛対象となる一人の少女がいた。
第一印象は儚げで涼しげ。
黒々とした肩に掛かるくらいの髪も、透き通るような肌も、どこか壊れてしまいそうな印象を受ける。
まるで薄氷。彼女はそんな人だった。
「彼女の名前は
「女優……あぁ、たしかに今やってるドラマのヒロイン」
「
「魔術師に? そいつらってまさか」
「あぁ、行き過ぎた思想故に魔術界から追放された異端者たち。
特別な出自に、人にはない能力を持って魔術師はこの世に生を受ける。
だから時折、勘違いする者が出てくる。
自分は特別な存在で、その辺の一般人とは違うのだと。
その中でも思想を拗らせまくった連中がついに魔術界から追放されて寄り集まった魔術師集団の名が常磐。
頻繁に問題を起こしてはケツをしばかれているが、尻尾が切れるばかりで本体を壊滅には追いやれていない。
「彼女が狙われている理由はなんです? 熱烈なファンとか?」
「不正解だ。いや、あながちそうとも言い切れんか。ともかく、理由は一つ。彼女が怪異との混血だからだ」
「混血。わぉ、初めて見た」
「本当に実在したんですね」
怪異と人の間に生まれた子。半人半妖。
一目見た時に感じた人にはない儚げな雰囲気は混血故だったか。
「怪異と人、双方の特性を併せ持つ混血は最上級の生け贄となる。ナ二に彼女を捧げ、復活させようとしているかは知らないが、とにかく彼女を常磐に渡すわけにはいかない」
古に討伐された大怪異。
解体された
砕かれた魔剣。
ほんの一例だが生け贄はそれらの復活のために用いられる邪法だ。
常磐の連中が復活させたナ二かで何をしようとしてるのかはさておき、ナ二が復活しようと魔術界にとっては大きな危機になる。
綴木を救うためにも絶対に阻止しなければならない。
「でも、どうして僕たちなんですか? このような重要な任務ならほかにもっと適正な人材がいるのでは?」
「不正解だ。今回の一件、キミたち以上の適任者はいない。何故なら彼女はすでに次のドラマ撮影が始まっているからだ」
「ドラマ撮影?」
「それってまさか」
「正解だ。紫雲イヅナには演者として、
そんな訳で自分のあずかり知らないところでドラマ出演が決定していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます